10.三者の一狸?
色々話の土台になる説明が要所要所に多い回です。
──王宮──
「──聖剣を抜き、持ち去った男と、その連れと思われる女性の身柄は王宮へ移してあります。聖剣は見つかっておりませんが、それについて両名ともに王太合陛下への謁見を希望しております」
王太合セラフィーナは、近衛騎士団『青』の隊長クスターからの報告を受けていた。
夫である先王クラウスが亡くなったのが10年前。その崩御前に長男ヴィルヘルムが29歳で王位を継承している。
もともとセラフィーナは、政治には直接的な関与をあまりせず、王の補佐に徹していたため、王位継承と共に一線を退いても問題なかったのだが、本人のたっての希望で聖剣に関しては全権を預かっていた。
「それは両名合意での意思かしら」
「いえ、そうではないようです。男からは『聖剣の秘密について』、女からは『聖剣が消えた件について』と申告されています」
「……そう。では三日後に場を設けましょう。それまでに『青』は両名に直接聞き取りを、『灰』には…………、他には……」
セラフィーナは近衛騎士団の2隊にそれぞれ支持をだし、クスターを下がらせようとしたが、まだ何かありそうだった。
「王太合陛下。恐れながら、聖剣の『使い手』についてですが、伝承では……」
「クスター隊長、あなたの言いたいことは分かるわ。王族であるはず、というのでしょう?」
「は。あの男が剣を抜いたと言ったことで、それを聞いた騎士の間に若干ですが動揺が見られます」
「しょうがないわね。あのお触れを出した私自身が驚いているもの。まさか本当に民の間から『使い手』が出るなんて。聖剣が作られてから約200年。でも実のところ、分かっていることの方が少ないの。はっきりしているのは初代の建国王の依頼で作られたことくらいかもしれないわね」
聖剣の歴史は建国に遡る。
ヴァロル王国の建国は今から224年前。共和国出身の騎士が建国したとされる。
そのころのヴァロル王国の土地は、魔物が蔓延る竜氷山脈と接していることもあり、不毛の台地と魔物の森で構成されていた。
魔物の国土侵入を阻むため、前線の防壁をもっと山脈に近いところに構築し、現在の防壁との間に堅牢な城塞都市を作る、これが以前からの共和国の方針だった。
だが計画は遅々として進まず、実際、城塞都市が成立するまでには、方針を打ち出してから150年の年月と一人の英雄を必要とした。
若き英雄コンドラート・ヴァルロフ、後のヴァロル王国コンラート建国王である。
若き英雄は、各自治領からの寄せ集め騎士と傭兵をまとめ上げ、ついに33歳でヴァロル王国の建国を宣言するに至った。
来るべき魔王の侵略に対する防壁となる国を建国するとして諸国に承認させ、さらに30年かけて未完成だった城塞都市を築き上げていった。
聖剣は、この後の歴史に登場する。
初代王が身罷り、二代目の王になったころ、ある鍛冶師がやってきて「初代王に依頼されていた『魔を滅ぼす』可能性を秘めた聖剣を納品する」と言い、一振りの剣を持ち込んだ。
鍛冶師は、「この剣は主を選ぶ。初代王が身罷られた以上、次の主を剣が選ぶまで、剣は眠り続けるだろう」と言い残して去った。
その後、人を使って捜索させたが、この鍛冶師を見つけることは出来なかった。
この話を聞いた初代王の元側近の証言から、建国する10年ほど前に王がある特殊な剣の作成を依頼したことがあり、その際に『体の一部を数グラム』要求され、王の髪をバッサリ切って与えたことが分かった。
しかもその時の剣が結局完成したのか誰も知らないのだという。
この話から、聖剣は王家の血筋から主を選ぶのではないか、という噂が出たが、事実、次の主に選ばれたのが二代目王の三男に当たるウラノー王子であったことから、誰もがそう信じるようになった。
ウラノー王子が『使い手』となってから、現在に至るまで176年間、誰一人『使い手』はいなかった。
つまり、初代王は「使えたはず」としても、実際『使い手』となったのはたった一人しかいないのだ。あまりに前例が少なすぎて、判断に欠けるというものだ。
「このことについては少し前から『赤』と『灰』に調査させているわ。特に『灰』には、今回の『使い手』の男の件も併せてね。でも王家の血筋いう観点では、初代王から今まで公式記録以上のことを調べるのは困難かもしれないわね……」
──では『赤』は交代で図書館資料室に缶詰め、か。
近衛騎士団は『赤』『青』『灰』の3大隊が存在する。
ざっくり言うと、『赤』が王族の身辺護衛などの王宮付き、『青』は王族の手足となり言うなれば遊撃担当、『灰』は諜報がメインとなる。
近衛でいえば『赤』が花形だが、本来の騎士活動としては『青』がそれに近い。
脳筋の部下に囲まれている『青』の隊長クスターは、自分が『赤』じゃなくて良かった、と心底思った。
翌日、近衛騎士団『青』から両名の聴取調書が報告された。
両名とも話せる範囲では話しているようだ。真相はともかくとして。
──男の経歴は怪しすぎね。3歳で天涯孤独。下働きで家を点々として、その後冒険者稼業。そんな存在もいるでしょうけど、まるで経歴を抹消しようとしているようだわ。これは『灰』の調査結果を待つしかなさそうね。
手元に届いた、本人からの調書をまとめた報告書を眺めながら、セラフィーナは考える。
──共和国出身の平民を名乗る男。初代王も共和国出身だった。『灰』は初代王の前の系譜にたどり着けるかしら。
王太合であるセラフィーナがそう思うのも無理はない。
初代王の共和国時代は謎が多い。
分かっていることは『養子に入って騎士になり、辺境へ派遣された』ということくらいだ。
共和国は自治領で構成されており、はたで見ていると良く続いているなと思うくらい自治権が強い。
系譜や情報の統制がバラバラで、領をまたいで養子縁組をすると追えなくなることも多いという。
──女の方は、もっと謎ね。直接会って話をするまでは言わないということかしら。
女は自分の経歴を一切話さなかったらしい。
ただ「聖剣はアマリアと共にある。王太合なら会えば解るはずだ」と。
──アマリア様が未だ実在していて、そこに聖剣がある?まさかそんなこと。それならなぜいままで出てこなかったの?
セラフィーナは、先王クラウスを思い出す。
しかしすぐに、過ぎたことは考えてもしょうがない、と思考を振り払い、報告書に視線を戻す。
男と女のお互いの証言についても、微妙に一致していないと思った。
当たらずしも遠からずとでもいうのだろうか。
男は女について「2日前に知り合って意気投合した」と証言している。
だが、女は男について「2日前に会って、共に旅をする契約をした」と言っている。
仮に間違っていないにしても、何か次元の違うずれが生じているような気がする。
……一瞬、男女間の痴話喧嘩が頭をよぎり、額に手を当ててその考えを追いやった。
ありがちなところでは、碌に会話が出来ていないが状況から口裏を合わせている、という感じだが、男側に比べて女側の話はやけにはっきりしていて、男のように状況からどうとでも取れるような言い方ではない。女には旅に同行しなければならない明確な理由があるように思えた。
「聖剣が消えた理由、ね。聖剣が忽然と消えたり変形したりしたことは過去一度もなかったらしいけど……さて」
以前から少しずつ聖剣について調べていたセラフィーナには、一つの可能性が頭をよぎっていた。おそらく女はその答えを持っているのだろう。
セラフィーナは報告書を眺めて、ため息とも笑いともつかない息を吐く。
「それにしても困ったわね。二人ともにこんなに怪しいのでは、謁見じゃなく対面で会話をしたいと言ったら護衛の者に反対されそうだわ」
セラフィーナは、そう言いながらも方針を変える気はなかった。そうして、両者と会話する場を謁見の間ではなく、応接の間にするよう指示を出した。
説明回苦手な方のために、次話はがんばって早めにうpを……(ぐはっ)
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