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鬼譚蒐  作者: 錦木
41/52

五、

 結論を言うと、俺は勝てなかった。

 不思議なことに丁半はあかつきが連戦連勝だった。

 手を抜いたつもりはないが、必ず賽子の目はあかつきが賭けた方に出た。

 二戦目に負けたところでさすがに何か細工があるのではないかと思ったが見た感じ賽子にも椀にも何の変哲もない。

 三回勝負はあっという間に終わった。


「私の勝ちだな」


 ふふん、とあかつきが得意そうに言う。

 何がどうなっているかわからんが、勝負は勝負だ。

 俺も特に異論はない。


「では悪いが、そろそろ屋敷の者が来るから今日のところは外に出てくれ」

「ちょっと待て、今日のところはってなんだ」


 まるで明日も来るのが当然のようなあかつきの物言いに俺は口を挟む。

 まあこいつに興味があることは確かであり、特にやることもないのでこの村に留まるかぎりあかつきの元を訪れるのは自然な流れかもしれないが。


「願いをきくという約束があるからな。それに、お前は私に興味があるのだろう?まだ聞きたいことはあるのではないか」

「心を読むのをやめろ」


 俺は不愉快な口調で言う。呪術者とはこういうところを指していうのか。長い時を生きる中で、今までにも何人かこういう人間に会ったことはあるが正直己の心中を読まれて愉快な気持ちになるわけがない。


「あ、泊まるところはあるのか?この村には旅籠はたごはないが」

「泊まるところくらい自分で探すから余計な世話はいらん」


 俺はふんと鼻を鳴らす。

 全くお喋りな娘だ。


「わかったよ。明日も来てやる。どうせ暇なことだしな」

「本当か?」


 俺がそういうとあかつきは明るく笑った。


「じゃあな」

「ああ。また明日」


 あかつきの声を背に、俺は座敷を出ていく。



 さてどうするかな。

 俺は日の暮れかかった表に出て改めて宿の当てがないことを思った。

 まあ森が広がっているからどこか適当に当てをつけて野宿すればいいだけの話だ。

 秋も終わりに近づき、貧相な木の枝から落ちた葉が地に積もっている。

 これならしばらくは暖かそうだな、と思う。最も、雪国の夜はだいぶ冷えるが。

 村人が遠巻きに俺の姿を見つめているが当然誰も声をかけてこない。

 流れの旅人だとでも思っているのだろう。雪国というのは仲間内での結束が強い分、外の者には排他的であることが多い。どんなものでも受け入れる、懐が広いというか節操のない都とは大違いだ。

 んだ眼をしている。

 その中の何人かと眼が合って俺はそう感じた。その胸の内に渦巻くのは(きた)る冬に対する不安、焦燥、恐怖か。

 冬は人々を絶望の淵に追いやっていく。

 冬を越せないものには恐ろしく厳しい死が待っている。一度引きずり込まれた者は誰も逃れることはできない。

 その先にあるのは無だ。

 まあ。

 俺には関係のない話だがな。



 森に分け入ってしばらくすると木にできた穴蔵を見つけた。

 おそらく去年の冬ごもりの際に熊が作ったものだと思われるが、先客がいなかったので俺はついている、と思いその中に身を横たえた。

 ここに来る前に芸人から聞いた話をふと思い出す。

 神隠村。

 この村はそのような名であるそうだ。由来は知らないが神隠とはあれだ、神が小僧やきこりをどこかに連れ去り、何日かしたらそいつらはひょっこり戻ってくるがその間のことは覚えてないという。何故そんなことをするのかは分からんが、まあ人間の道理の通用する連中ではないというぶん理由なんてないんだろう。

 神様ねえ。だとしたら神域である森で寝ている俺もけしからんとかいうことで、かどわかされたりしちまうもんなのだろうか。

長く生きてきたが未だに神様には会ったことがないので、それもよく分からないとしか言いようがない。

 森は静かだった。時折生き物が落ち葉を踏みしだいて近くを通り過ぎるかさこそという音だけが聞こえる。

 遠くでミミズクが鳴いている声がした。

 特にやることもないので寝てしまおうと、眼を閉じ、俺はすぐ眠りに落ちる。

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