5.
最後までむかつくガキだったぜ。
それにしても、いやはやそういうことか。
子供の顔を見た俺は今や一つの確信を抱いていた。見知った顔だったのだ。
ようやくこの世界の絡繰りが見えてきたぜ。ラスボスの見当も朧気ながら付いてきた。
クリア方法はまだ見えてこないが一歩前進ってところか。
そう思って前に進み出そうとして、俺はあることに気付いた。
ない。また腰のあたりが軽くなっている。
そう、二本の刀がまたなくなっていることにだ。
嘘だろ、と足下を見回すが当然何も落ちていない。
うっかりさんどころの話ではない。一体この短時間でどこにいったんだと思うが二本の刀は煙のように消えたとしか思えない感じだった。
あるいはこれも何かのフラグなのか。
そう考えた途端、あたりが急に薄暗くなってきた。本当にどういうことなのか分からない。
さっきから雲が張っていて薄暗かったがここは日常の常識が通用しない世界、昼も夜もない場所じゃなかったのか。
地獄なんてのは。
とにかく完全に視覚がブラックアウトになってからではまずいと俺は地面のあたりをきょろきょろしていると、唐突と言って良いほどのタイミングで視界の端に赤い布が目に入り、思わず顔を上げる。
すると、そこには深紅の着物を金魚のようにひらひらとそよがせる二人の童女が立っていた。
完全に場違いで違和感だらけなのに、日本人形のような女児はこの真っ赤な空間に調和していて非現実的に美しい。
おいおいここはいつから遊郭になりやがった、と俺は思う。
というのもそいつらの着ていた赤で統一した絢爛な衣装は俺の記憶にある江戸時代頃の花街、遊女の傍らに侍る禿の衣装と非常に似ていたからである。
裾の部分がミニスカートのようにバッサリ切られていて、アバンギャルドというか今風な雰囲気だがそれはさておき。
ていうか何故地獄にこうも子供が居るんだ。目の前の童女二人もさっきの子供同様人ではない雰囲気がぷんぷんしているが。
「お前らは……」
ここで俺は童女二人に声をかけようとして、何だろうか急に不思議な気がしてきた。感慨を覚えた。
どこかで見たことのあるような。いや、それどころかここ最近も一緒に過ごしていたような。初対面なのに初めて会った気がしないデジャブを感じたのだ。
しげしげと二人を観察して俺はあることに気付いた。
この童女二人が髪に付けている飾りが通常刀に付いている装飾、房飾りと同じものであるということに。
突拍子もない連想かもしれないがまず地獄にいるということ自体が異常だったので俺はその仮説をわりとすんなり受入れてしまった。
俺は二人に向けて呼びかける。
「彼岸に、火鉈か」
俺の問いに二人は顔を見合わせると同時に頷いた。
おお。すごくシンクロしている。二人の動作はほぼ同時でまるで鏡をみているみたいだった。しかし、実際は大刀である時の姿を反映しているのか彼岸らしき方が火鉈より少し背がでかかったので完全なシンメトリーとは言い難かった。
まあそれはそれとして、驚くべきことに拙い声で童女は俺に話しかけてきたのだ。
「主様」
一人の童女が言う。
「主さま」
もう一人の童女が後を追うように言った。
そして二人で俺の服の袖を引く。
「こっち」
「こっち」
二人はそのまま進んでいくので俺もされるがまま付いていく。生温い風が髪をなぶっていく。
ちったあ疑問を抱けよって感じだが道を示してくれるつもりなら万々歳なのでそのまま付いていったのだ。
すると、間もなく俺たちご一行はどこかの丘の上に着いた。
おお、何だここは。
童女二人が眼下の世界を指差すので俺はそれに習って指の方向を見る。
そこからは俺が今居る世界の全て、地獄の全容が見下ろせた。




