表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

9

「ほら。これを見るんだ」


 七宮は後ろから俺を抱きしめながら、左手に付けられたアガサの画面を見せる。


 そこには、人間の死体発見だとか、警察学園へ連絡だとか、そんなメッセージが表示されている。


「このアガサには、人間の死体を検知して通報してくれるシステムがあるみたいだ。そして通報先は、この未捨理学園とその姉妹校である警察学園みたいだね」


 七宮が言った。


「警察学園? 普通の警察じゃなくて?」

「まあ、警察学園は警察の勉強をする学校だから、似たようなものだよ」

「いや、そんなわけないだろ」


 俺は思わずツッコんでしまう。


「緒方君。君は標的側の生徒だから、事情を知らないんだよ」

「標的側? さっきから七宮は何を言っているんだ?」


 すると七宮は、少し間を置いた。


「緒方君。裏社会には大抵、その専門の教育システムがあるものだ。それらは現在の法を巧みにすり抜けて、摘発できない。ならばいっそ利用してしまおう。そうして出来たのがこの未捨理学園なんだよ。探偵を育てるには、殺人鬼が必要だ。同様に、強力な殺人鬼を生み出すには、探偵という障害が必要でもある。表社会と裏社会が手を組んで出来た学校なんだ」


 七宮の言葉を、俺は疑わずにはいられない。


「疑っているね。でも可笑しいと思わないかい? 毎月全生徒に、成績に応じたポイントが付与される。基本は15万だったね。今の学園の生徒数が500人。つまり毎月7千5百万の費用だ。となると年間9億の費用となる。高等学校がポイント制の運用だけで9億だよ? ありえないだろう」


 確かに。俺も最初は、何だか大きい数字になりそうだなあ、程度の感覚だった。しかし計算された数値を出されると、おかしいと確信できる。


「だからこの学校には、標的とされる生徒がいる。この生徒は、生きているだけで実害が出たり、死ぬことによって多大な利益をもたらすような、つまりは死んだ方が国のためになる人間だ。この標的となる生徒が教育の一環として殺されることにより、学園に莫大な利益が生まれる。だからこんな無茶なシステムが運営出来ているんだ」


 とんでもない理屈であるが、俺には筋が通っているように思う。だからこそ、リアリティも感じる。


「流れはこうだ。殺人鬼の生徒が標的の生徒を殺害する。探偵の生徒が犯人を突き止める。犯人を突き止められたら探偵の勝ち。犯人の正体が分からなければ犯人の勝ち。そして勝者には賞金としてポイントが付与される。これがポイント制を導入している真の目的だね」


 七宮の説明を聞いた限りでは、つまりこういうことだ。


 坂柳は標的の生徒だった。そして殺人鬼の生徒によって殺された。


「確か、俺も標的だって言ったよな」

「ああ。探偵と殺人鬼には、予め標的の生徒の名簿が渡されている。つまり君も坂柳さんも標的だってことは、この学園にいる全ての探偵と殺人鬼に筒抜けなんだよ」

「つまりは俺も、いつかは殺人鬼に殺される……」


 俺は絶望せざるを得ない。何がどうして、こうなってしまったのか。


「坂柳さんは、恐らく資産家か何かのご令嬢だろう。本人に悪気がなくても、生きているだけで狙われることもある。緒方君はその類なのかい?」

「いや。ただの一般人のはずだ。この学園の費用だって、高くて親が嘆いていたくらいだからな」

「ふむ。それは可笑しいな。緒方君。君は本当に、正規の手続きを踏んで入学したのかい?」


 と七宮は尋ねた。そして俺は、一つ思い当たることがあった。


 俺は中学浪人が確定していて、父がたまたま不審人物の落とし物を拾い、それがこの未捨理学園の入学申込書で、それを自分の名前に書き換えて申し込んだという事実。明らかに、正規の手続きではない。


 不審人物の落とし物なんて、拾ってはいけなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ