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そんななりゆきで、俺は19時を下回った学校内にて、廊下を歩いていた。
まあ19時といっても、まだ学校内の明かりはしっかりと点いている。
因みに、未捨理学園の部活動の刻限は19時までだそうだ。しかし19時厳守というわけでもないらしく、グラウンドの方からはまだ運動部の掛け声が響いていた。
俺は廊下を歩きながら、今日のことを考える。
坂柳、七宮、真賀、綾瀬。四人とも美女だ。坂柳と綾瀬はスタイル抜群で、真賀もスレンダーだ。七宮も顔は良い。
最後に、男の俺が一人。これはハーレムだ。俺はやはり、青春ラブコメの主人公らしい。
そして、メインヒロインはやはり坂柳だろう。今朝の登校中に偶然見てしまった、彼女のパンツが忘れられない。虎柄のパンツ。そんなセンスでも、やはりエッチなものはエッチだ。
いやむしろ、虎柄のパンツだからこそ、なのかも知れない。あの股に食い込んだパンツの衝撃は、一生忘れないことだろう。今後、虎柄のパンツを見る度に、あの坂柳のパンツを思い出すに違いない。
そう。坂柳は間違いなく、俺の人生に影響を及ぼした。その点から見ても、彼女はヒロインなのだ。
俺は坂柳とのやり取りを妄想する。
『べ、別にあんたのためにやったわけじゃない!』
頬を赤らめながら、典型的な発言をする坂柳。
『まあ、あなたのことは好きよ。その、勘違いしないで欲しいのだけれど、友達としてだから!』
やはり頬を赤らめて、やはり典型的な発言をする坂柳。
あんな坂柳やこんな坂柳を妄想するだけで、こんなにも楽しくなってしまう。
ああ俺は、いとも簡単に坂柳に対して惚れてしまったらしい。これも彼女が、ヒロインだからか。いや、惚れていたから、ヒロインなのか。
……と、ここで俺は部室に辿り着いた。妄想は一旦やめて、現実を見る。
そうだ。部屋はちゃんと施錠した。まあ鞄には大したものは入っていないから、どうせ問題ないのだが。
俺は鍵を取り出して、ドアの鍵穴に差し込む。カチャリと、開錠の音が響く。
良かった。鍵はちゃんと締まっていた。
鍵を抜いて、ドアを開けた。
「えっ……」
俺は驚いた声を上げた。内心では、心臓が止まるような思いであった。
真っ暗な部室内に、人影が見えた。テーブルの、椅子に座っているようだ。
「何だ。坂柳かよ」
そのシルエットは、どう見ても坂柳であった。そもそも廊下の明かりで、少し顔の肌とかも見えている。
「何をしてるんだ? って、もしかしなくても寝てるのか」
俺は当たり前のことを口にした。普通、真っ暗の部屋の中でじっとしているのは、寝ている以外に考えられない。
「まったく、驚かせやが……て……」
俺は言葉の途中で異変に気付く。
彼女の目が開いているのだ。寝ているわけではないことは、明らかであった。
「お、おい。坂柳……」
俺は再度、彼女を呼びかける。真っ暗な部屋で、目を開けてじっとしているなんて、あまりに不気味であった。
俺はさらに近づく。すると、ピチャッと水の音がした。音が鳴った先の、足元を見る。
「……っ!?」
俺は息を呑んだ。それは赤い液体。もしかしたら、血液かも知れない。
俺はその赤い液体を目で追う。それは坂柳の足元付近で水たまりになっており、そして彼女の腹部から垂れている様であった。
俺は急いで、部室の照明を点けた。部屋中が明るくなったことにより、坂柳の状態がはっきり確認できた。
「嘘だろ……」
俺はそう呟いて、確信した。
彼女の腹部には刃物の柄が飛び出しており、そこから血液が垂れている。
彼女の目は、やはり見開いている。口を大きく開けながら、顔の筋肉は微動だにしない。まるで苦痛に叫ぶ瞬間を、写真にしたかの様。
間違いない。
坂柳は、明らかに死んでいるのだ。