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俺たち四人は寮にある食堂に向かった。
「お、無料メニューあるやん」
真賀が嬉しそうに言った。彼女は食堂の券売機を見ていた。券売機はやはり、アガサを使用してポイントを支払うことで決済するようだ。
本当にポイントを使って生活していくのか。ポイントでしか決済できない券売機を見ると、そう実感がわいてくる。
「ウチ、無料って言葉に弱いねん。なあ、みんなでこれ試してみーひん?」
真賀が俺たちにそう提案した。先ほど坂柳に費用を支払ったばかりだが、まだ金銭的余裕はある。わざわざ無料なんて頼む必要はない。
無料メニューの存在意義なんてたかが知れている。ポイントが足りなくなった生徒への救済処置なのだろう。無料だから、どうせロクでもない料理が出るに決まっている。
「まあでも。どんな料理でどんな味がするのか。それは知っておいて損はないだろうね」
と七宮が言った。
「あらあら。みんなで同じ物を食べるなんて、何だか青春ねえ!」
嬉しそうに言う綾瀬。同い年のはずだが、何だか歳を感じさせる発言だ。
それはともかく。どうやら皆で無料メニューを頼むらしい。まあ、そういう慣れ合いは俺も嫌いではない。
「よし。俺も頼もう!」
俺は意気揚々と宣言した。数分後、出てきた料理のみすぼらしさに、後悔するのだった。
*
「あ、面談だって」
食堂でみすぼらしい料理を食べている最中のこと。七宮がアガサの画面を見ながら、そう言った。
面談があることは、実は予め伝えられていた。今日は放課後、一部の生徒に面談があるかも知れない。だから遠くには行かないように、と担任の教師から言われていたのだ。
一部の生徒って誰だよ、という質問には答えてくれなかった。何故、答えてくれなかったのかは謎である。
「というか、呼び出しはアガサでされるんだな」
俺はアガサの画面を見ながら言った。画面には13時丁度の時刻を指し示されていた。
「便利よねえ」
と綾瀬はにっこりしながら言った。何だか、機械音痴の人妻のような雰囲気を感じる。同い年のはずなのに。
やがて七宮は2時間後の15時ぴったりに戻ってきた。俺たちはというと、食堂で会話に花を咲かせていた。
しかしすぐに、今度は綾瀬が面談に呼び出される。彼女も大体2時間後の17時頃に戻ってきた。
そして最後に真賀が面談に行き、やはり2時間後の19時頃に戻った。
「結局、俺は呼び出されなかったな」
俺が言った。
「明日もやるんじゃないかしら」
と綾瀬。まあ、面談なんて、どうでも良いか。むしろ無い方がありがたいかも知れない。
「んじゃ一旦、部屋に戻るか」
と俺は言った。時刻は19時。何と6時間も食堂で談笑していたらしい。学生らしい、馬鹿さである。
19時はもう夕飯の頃合いだ。先ほどまで空いていた食堂の席も、混んできた。
俺は立ち上がる。そして鞄を……。
「あれ?」
鞄を掴もうとした手が空を切った。俺は困惑して振り向くと、そこにあるはずの鞄がない。
いや、そういえば。部室から鞄を掴んだ覚えがない。
「やべえ。部室に鞄、置いてきたままだ」
「だっはっは! 道理であんた、手ぶらやなー思ってん!」
真賀が爆笑した。気付いていたなら言えよ。