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「さて。緒方君」


 自己紹介が終わった後、休憩となった。教師が教室から出て行ったのを見計らったように、坂柳が俺に話しかけてきた。


「あなたは変態よ。つまり普通ではない。合格」


 それを告げられた俺は、喜んで良いのか悪いのか、判断かつかないでいた。いや、喜ぶべきだ。これは坂柳に近づく、チャンスなのだ。


「それで? 合格したら褒美に何をもらえるんだ?」


 俺が言った。


「私の部活動に入部する権利をあげる」


 俺は言葉を失った。私の部活動と言ったことから、新しく部活を作るつもりなのだろう。凄いなこいつ。ここまでテンプレな行動に移れるのか。


「もう部活動は作ってあるの」

「え? もう?」

「ええ。この学校はポイントで何でも買えるのよ。そして今月分のポイントは付与されている。きっちり15万ポイント付与されていたわ。それで部活動設立の初期費用は20万ポイントで、維持費が月10万だった。だから買ったの」


 坂柳のその言葉を聞いて、俺はアガサの画面を操作した。確かにポイントが付与されている。彼女の言った通り、15万ポイントだ。1ポイントが1円らしいので、15万円を手に入れたようなものだ。


 この学校の生徒数は約500人。その人数分に毎月15万円を付与するとなると、とてつもない額になるだろう。


 どうなっているんだ、この学校は。


「うん? ちょっと待て。毎月付与されるのが15万。それで初期費用が20万……っておい。初期費用だけで予算オーバーじゃねえか」

「いいえ。ちゃんとポイントの管理画面を見なさいよ。半額クーポンが付与されているでしょう?」


 確かに、俺のアガサの画面には半額クーポンの文字が表示されていた。どうやら、あらゆるポイントの決済において、支払額の合計が半額になるようだ。なお、使用回数は一回のみ。


「でも初期費用が20万でクーポンを適用して10万になったとしてだ。維持費で10万だから計20万で、やっぱりオーバーじゃないのか」

「違うわ。初期費用と維持費はまとめて支払うことが出来るの。そしてそのクーポンは、支払額の合計を半分にする。つまり元の価格の合計が30万だから、そこから半額になって15万となるわけ」


 なるほど、と俺は納得した。この仕組みを、坂柳は入学前に気付き、そして実践したのだろう。何事にも挑戦的なだけでなく、頭も多少は切れるようだ。


「あれ、じゃあお前は今0ポイントなのか」


 俺は呆れながら言った。


「ええ。でも勘違いしないで。掛かった費用は割り勘よ。今すぐ払いなさい」


 俺は渋々それを了承した。どんな事情であろうと坂柳が0ポイントであることは事実で、放っておくことなんて出来ないからだ。


 俺はアガサを操作する。そして彼女にポイントを付与した。15万の半額なので、7万5千ポイントだ。


「キリ良く8万ポイントで良かったのに」

「良くねえよ」


 坂柳のがめつい発言に、俺はツッコんだ。


「まあでも。あなたがいてくれて助かったわ。部員が0人だったら、私は本当に0ポイントで生活しなくちゃいけなかったし」


 坂柳はそう言うと、こちらに向いた。


「ありがとね!」


 ニコッと、坂柳は笑顔を向けた。整った顔と抜群の身体の女子に、こうも眩しいくらいの笑顔を向けられると、ドキッとしてしまう。


「お、おう」


 思わず俺はしどろもどろな返事をした。


「あれ、なんか照れてる? 可愛いところもあるじゃない」


 坂柳は俺の様子を見て、ニタァと、厭らしく笑った。先ほどまでは爽やかな笑顔だったのに。


「うっせ。それで、どんな部活なんだ?」


 俺は坂柳に尋ねた。支払った後で聞くのも、可笑しな話だ。


「未定よ」

「は? 未定?」

「ええ、未定。それでも、ポイントさえ支払えば設立できるの。凄いわよね」


 凄いというか、何というか。本当にそれ、部として機能するのだろうか。


「さてと。皆さーん!」


 坂柳は、唐突に立ち上がってクラスメイト達に呼びかけた。


「この私、坂柳楽々と、ここの変態、緒方君で部活動を作りました! 普通でないことに自信がある方は、是非参加してください!」


 と坂柳は、これでもかというほど大声で、未定の部活を宣伝した。するとやはり、そこら中で笑い声が上がる。


 こいつ。行動があまりに大胆過ぎる。俺にこいつを制御できるのか。


 いや、してみせる。こいつは紛れもなくヒロインなのだ。そして俺は主人公なのだ。


「おい坂柳。俺が変態だと吹聴するのはやめろ」

「でも事実じゃない」

「事実でもねえよ」

「でもあなたに変態を取ったら、何が残るっていうのよ」


 いや、色々残るだろ。ボクシングとか、空手とか。


「君と一緒のクラスとは、感激だよ。緒方君」


 坂柳に反論しようとした時であった。そう言って話しかけてきたのは、登校中に他校の生徒に絡まれていた女子だ。


 俺はこの子を認識している。先ほどの自己紹介で、彼女も挨拶をしていたからだ。


 この子は、七宮(ななみや) 詩理(しり)


 つまり彼女も新入生で、同じクラスだったのだ。


「坂柳さん。私もその部活動に参加させて欲しい」

「あらそう? でもあなた、普通そうね」


 七宮が参加を申し出ると、坂柳は失礼にもそう言い放った。


「ぷっ……あははは!」


 すると七宮は、突然笑い出した。自己紹介の時と、同じだ。


「ふ、普通ではないと思うよ。色々とね」


 七宮は笑いを押し殺して、そう言った。

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