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「じゃあ七宮。その虎柄のパンツは何なんだ。いや。そもそも何故、こんなことをした」


 俺は七宮に尋ねた。


「何のため? そうだね。まず私が、殺人鬼の生徒であること。そして私が君に惚れているのは事実で、同時に君が坂柳さんに興味を惹かれていたというのも知っていた。だから私は、坂柳さんに嫉妬していたんだよ」


 そう告白した七宮の表情は、少し寂しげであった。


「私は殺人鬼である以上、いつかは行動すると決めていた。そして丁度、殺したい相手が出来た。それが坂柳さんだった」

「じゃあ。何故、七宮は虎柄のパンツを履いているんだ」

「重要なのは、虎柄ってことじゃない。坂柳さんのパンツを、私が履いているってことだよ。緒方君。私は目撃していたんだ」


 七宮は、一呼吸置いた。


「君が坂柳さんのパンツを見ているのを」


 七宮は言った。


 確かに。あの時、七宮は俺の後方にいた。坂柳との騒動を見られていただろうということは、俺も考えていた。


「その騒動を目撃した時には、別に何の感情も抱かなかった。でもその後に君に惚れて、坂柳さんに嫉妬した。彼女を殺害することを決めた後、私は偶然に見てしまった。彼女の履いているパンツが虎柄だった。つまり君はこのパンツを見たのだと、私は知った。思春期の男子がこんなものを見てしまったら、きっと忘れられないに違いない。私は坂柳さんを殺すことで、君に彼女を忘れてもらいたかった。でも君がこのパンツを見たという事実がある以上、坂柳さんを殺すだけでは不十分だと、私は思った」


 七宮は独白を続ける。感情が昂っているのか、身体が震えていた。


「だからまず、彼女を眠らせてパンツを取り換えた。殺した後では、排出される体液で汚れてしまうからね。そしてその後、彼女を殺害した。これで君のヒロインはヒロインでなくなる。君にとっての象徴的な虎柄のパンツは、私が履く。君のヒロインはもうこの世にいないし、君が見た、坂柳さんが履いていた虎柄のパンツは、七宮が履いている虎柄のパンツに上書きされる。ほら、見て」


 七宮はそう言って、スカートをたくし上げた。すると虎柄のパンツが、徐々に見えてくる。彼女の白い太ももと、股。その肌付近を逆三角形で覆うように、パンツがある。


 こんな時でさえ、俺の視線は釘付けになってしまう。そして興奮もしてしまう。


「ほらね。誰が履いているかはどうだって良いんだ。君にとって重要なのは、このパンツが履かれていて、それが君に見えていること。だからいずれ、君の記憶からは坂柳さんの虎柄パンツは消え失せていく。何度も、私の履いている虎柄パンツを見せつけることによって」


 七宮の言うことを、俺は否定することが出来なかった。


 そんな、どうしようもないほどに男である自分が、心底嫌になってくる。


「だからこれは、緒方君の失敗なんだ。真賀さんがどうして、坂柳さんのパンツを盗む? 綾瀬さんにその必要性はあった? パンツを凝視している君を目撃した私なら、パンツを盗みたくなる何らかの動機が発生しているかもしれない。その可能性を考える必要があった」

「じゃあ、俺に手を貸したのは? 俺に親切にも仕組みを説明してくれたのは?」

「そんなの決まっている。君と長く、密接に関われるからだよ。それにバディを組むなら、君にはクエストに慣れてもらいたかった。そしてついに、君は私とバディを組んだ。君はもう、私から離れられない」


 と七宮は言った。


「離れられない? 何を言っているんだ。俺はクエストで失敗した。退学は確定だ」

「ああそうだね。でも実は、君に説明した中で嘘を混ぜていた」

「嘘……だって?」


 俺はそう言いながらも、しまった、と思った。


 クエスト関連の説明は、全て七宮から受けていた。彼女が犯人だった今、これまでの説明でどれが正しいのかを、今一度精査する必要があるだろう。

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