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「七宮が犯人? ありえない。だってお前には、アリバイが……」
俺は言った。そうだ。教師を買収したら、残りは5万ポイント。仮に教師買収費用を半額クーポンで5万ポイントにしたところで、検察科の買収費用は20万ポイントだから、やはり不可能である。
「いいや、不可能じゃない」
七宮は言い切った。
「私は犯行前に、鍵を管理している教師と、検察科の生徒を呼び寄せたんだ。教師の買収費用と検察科の買収費用の合計は30万ポイント。私はそれを、教師に対して半額クーポンを使用して支払った。これで私は15万ポイントの支払いで済む。そして教師から20万ポイントを検察科に支払わせた。これで買収は完了だ」
俺は思わず、口を押えた。
そうだ。その手があった。
――初期費用と維持費はまとめて支払うことが出来るの。そしてそのクーポンは、支払額の合計を半分にする。つまり元の価格の合計が30万だから、そこから半額になって15万となるわけ。
坂柳の言葉を思い返す。これは、坂柳が行った方法の応用だ。額に限っては完全に一致している。充分に気付けるはずだった。
「いや、待て」
俺は思い直す。そうだ。この計算では、不自然な点があった。
「その計算だと、七宮の所持ポイントは0になる」
俺は言った。そうだ。坂柳が15万を支払って0ポイントになっていたように。同額を支払った七宮も0ポイントのはず。
「でもお前は今朝、食堂で300ポイントの定食を注文していた。それについさっき、俺とお前はバディを組んだ。申請が成立すればお前のポイントから即座に引き落とされる。つまり申請時にはその費用分のポイントが必要だったはずだ」
七宮のポイントが0なら、どれも不可能なはずだ。
そして七宮のポイントが変動していないことも、先ほど確認をしている。
毎月のポイント付与のタイミングでない今、彼女のポイントが変動するには、生徒間の取引でしかあり得ない。
しかし先ほど確認した取引の履歴では、彼女の名前はなかった。
「申請には5万ポイント。つまり君の理屈では、さらに5万300ポイントが必要だったと」
「そうだ」
俺は七宮の言葉を肯定した。
「それは違うよ、緒方君。今朝の300ポイントは、クラスメイトに奢ってもらったんだ。つまり券売機でクラスメイトに直接買わせて、出てきた料理を私が受け取った。これなら私の履歴が残らない。つまり必要だったのは5万ポイントだ」
七宮は一呼吸入れた。そして再度口を開く。
「緒方君。君は坂柳さんに、部活動の初期費用と維持費の割り勘をしていたはずだね」
七宮の言葉に、俺は思い出す。そうだ。坂柳が俺に部活のことを伝えた時には、計算上0ポイントのはずだった。だから俺は割り勘を了承したのだ。
坂柳は半額クーポンを使用して、15万ポイントの費用で部活を設立した。だからその割り勘で7万5千ポイントを坂柳に支払っている。
「まさか……」
俺はハッとした。
「そのまさかだ」
七宮はそう言うと、懐からもう一台のアガサを取り出した。
俺の予想では、それは坂柳のアガサだ。
「ほら、取引履歴を見てみなよ」
俺はアガサの画面を見る。すると、先ほど確認した時にはなかった履歴があった。
坂柳から七宮へ、7万5千ポイントの付与履歴だ。つまり俺たちが取引履歴を確認した後から、バディの申請前に済ませたのだ。
この付与履歴があるということは、バディ申請時に七宮は7万5千ポイントを所持していたことになる。
つまり、バディ申請は可能だった。
「惜しかったね。君は見逃していたんだよ。死体からアガサが無くなっていることをね」
そう。俺は坂柳の死体を冷静に見た時、違和感を感じていた。
それは、彼女の両手首が地肌をむき出しで晒していたという点だ。
両手首の地肌が全て晒されているなんて、この学校の生徒ではありえない。
何故なら、どちらかの手首にはアガサがつけられているはずだからだ。




