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 間もなく、警察学園の生徒らしき集団が部室にやって来た。


「どうも! 警察学園鑑識科の者であります! これから指紋採取や血液反応を見たりするので、近寄らないように!」


 緊張が解れるくらい、明るく元気よく言ってきた。


「なお、未捨理学園で起きた事件では刑事が不要とのことなので、我々鑑識科と検察科の者しか来ません! 残念でした!」


 いや、残念でしたって……。


 まあ、しかし。どうやら姉妹校の生徒だけあって、未捨理学園の仕組みに関して理解があるようだ。


「警察学園って姉妹校なんだよな。じゃあやっぱり、ポイント制だったりするのか」


 何となく鑑識科の彼に話しかけた。


「ええ! 警察学園は未捨理学園の校舎内にあるであります! 我々も寮生活を強制されており、現金の使用は不可。未捨理学園と同じアガサを用いて、やはり同じポイントを使用しているであります!」

「へ、へえ……」


 俺は彼の元気の良さに気圧されてしまう。


 彼らに任せて、本当に大丈夫なのか。


 そんな疑念を抱きながら、もう一度、坂柳の方を見る。


 椅子に座って、背もたれに寄りかかる彼女。両手はだらりと、力なく垂れている。その両手の制服の裾から、彼女の白い手首が、地肌をむき出しで晒していた。


 あれ。何だか、違和感を感じるような。


 俺は目を細めて、坂柳を凝視する。


 しかし違和感の正体には、気付けなかった。





 1時間が経った頃。先ほどの鑑識科の生徒が、俺と七宮に話しかけてきた。


「では報告であります! 指紋は全て拭き取られていました。血液反応は、現場で血が流れていた場所以外には見受けられませんでした。下足痕、つまりは足跡もありませんでした。続いて検察科からの報告でありますが、死因は刃物による臓器損壊と多量の失血。つまりは現場の通り、包丁で刺されたことが原因だと思われます。死亡推定時刻は、17時から19時の間とのことであります! 報告は以上であります! 後でアガサからドキュメントを送ります。それでは、遺体を回収するであります!」


 彼らは要領良く現場の後片付けをして、21時には撤退していった。残ったのは、すっかり綺麗になった部室。そして俺と、七宮だけであった。


 俺は、昼頃に座っていた坂柳の席を見る。ここに、彼女は座っていた。俺のヒロインは、座っていたんだ。


 でも今は、もういない。彼女は本当に、死んでしまった。


「俺のヒロインが、死んじまった」


 俺は呟いて、涙を流した。泣いたのはいつ以来だろう。こんなにも悲しい気持ちになったのは、初めてかもしれない。


 坂柳と出会ったのは今日、たった数時間だけだ。なのに、こんなにも悲しい。


「緒方君……」


 七宮は俺の手を握る。


「今日はもう部屋に帰ろう。とりあえずは、たっぷり悲しむと良い。それが死んでしまった坂柳さんへの、精一杯の誠意だ。でも私たちは、犯人を突き止めなくてはならない。君にも、犯人は捕まって欲しいはずだ。そして君が、犯人を捕まえるべきだと思う」


 俺は七宮の手を握り返す。自身の心細さを、紛らわすために。

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