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もしこの世界が物語だったとして。
やはり俺は、その物語における主人公なのだと思う。
何故なら、俺は確信しているからだ。俺は一生、交通事故になんて遭わない。重い病気にもならない。
大切な人が急死したり、殺人事件に遭遇したりもしない。
何度も危険な事故に遭いそうになった。何回もヤバい奴らに絡まれそうになった。
でもほら。俺は今、こうしてピンピンしている。
運命はきっと決まっている。そう、物語のように。
4月。俺は高校に向かっていた。本日は入学式。新入生として、その式に出席するためだ。
俺がこうして高校に入学出来ているのだって、きっと決まっていたことなのだと思う。
数か月前まで、俺は中学浪人が確定していた。志望校から滑り止めまで、全ての入試で失敗をした。
しかし奇跡が起きた。
ある日のこと。仕事帰りに父は飲みに行った。その帰り道で、不審人物を見かけたそうだ。
大抵の人は無視をするだろう。しかし父は酔っていたので、後をつけたらしい。その道中で、不審人物が書類の入ったクリアファイルを落とした。
それを拾った父は中身を確認した。内容は、高校の入学申込書であった。
酔っていた父は、俺を含めた家族全員に黙って申し込みをしてしまったらしい。すると受験もせずに、俺はその高校に入学することが出来たのである。
俺が入学することになったその高校は、未捨理学園。みすてり、と読むらしい。不思議な名前だ。
まあ、名前なんてどうだって良い。ともかく。やはり俺は主人公だった。だから直前で高校入学できるという、奇跡が起きたのだ。
これから俺は、きっとラブコメのヒロインのような魅力的女性に出会うことだろう。最初は多分、そりが合わなかったりして。でも絡んでいく内にだんだんと打ち解けて。そして最後には……。
「きゃあ! どいてっ!」
そうそう。出会いはそんな感じで、ハプニング的に……。
――ダンッ!
「ふぐっ!?」
重々しい衝撃音が鳴った。同時に、背中に激痛が走る。思わず俺は、間抜けな声を上げる。
そして、俺は前方に勢い良く吹っ飛ぶ。
ぐらりと、視界が揺れる。青い空と白い雲が見える。そして太陽の日が差し込み、ふわりと桜の花びらが舞い散っているのが見えた。
ガシャンガシャン。アルミやら鉄やらが固いものに打ち付けたような音が鳴る。
そして、駆け抜けた痛みに目を閉じる。
痛みを存分に味わった後、恐る恐る目を開ける。目の前には、自転車が転がっていた。ああ、どうやら俺は自転車に突っ込まれたようだ。
「ああ、いってぇ……」
痛みを堪えながら、起き上がろうとした。しかし中断してしまう。
顔を上げて正面を見た時であった。
目の前には女性がいた。俺と同じ制服を着ている。その女性は、俺に股を開いたような感じで座り込んでいた。つまり、スカートの中が丸見えだ。
俺はその、股に食い込んだパンツの柄を凝視してしまう。
豹。いや、虎柄のパンツであった。
「いたた。ちょっとあんた。危ないじゃない!」
女性に呼ばれた気がしたが、俺はそれどころではない。女子高生のパンツが、虎柄だって? どういうセンスだ。しかも転んだ拍子にそうなってしまったのか、ちょっとエッチに食い込んでしまっている。なんてことだ。初めて女子高生のパンツを見たぞ。こんなセンスでも、こんなエッチなのか。
「……ッ!」
慌てて股を閉じて、スカートの裾を押える。
ああ、今良いところだったのに。しかし、なるほど。こうして見えないように押さえる様子も、なかなかエッチだ。
「あんた、変態ね」
またも女性の声がした。ようやく俺は顔を上げる。すると女性が、俺を睨んでいた。すっかり軽蔑しきった表情だ。だが頬も赤い。パンツを見られたからだろう。
ふむふむ、なるほど。美女である。顔の各パーツが整っている。髪型はショートカットで、分け目をピンクのヘアピンで止めている。座り込んでいて分かりづらいが、身長は普通で胸は大きめ。
何より。スカートから覗かせた生脚は凄く俺好みである。細長いふくらはぎ。そして細すぎず太すぎない、太もも。しかし……。
「それで、何か言うことは?」
女性が言うので、俺は答えた。
「虎柄のパンツはねぇわ」
――パチィイイン!
そんな軽快な破裂音が響いた。俺は強制的に顔を横に曲げさせられ、頬には痛烈な刺激が走った。