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黒霧葵の受難 4

「葵! 大丈夫か⁉︎」


 街路樹に引っかかって空を見上げていると、蓮が血相を変えてやってきた。

 彼が慌てるのも当然だ。なにせ葵は、胸に風穴を開けられ墜落したのだから。その傷は瞬時に修復されたといえど、中々大きなダメージには変わりない。

 今こうして木の上から降りられないのも、まだ体の中身が完全に治り切っていないからだ。いやはや、痛覚を咄嗟に遮断して正解だった。


「大丈夫だよ蓮くん、とりあえず生きてる」


 木の下から見上げてくる蓮にひらひらと手を振れば、ホッと安堵の息が。夜じゃなかったら危なかっただろうが、この時間帯は吸血鬼の時間だ。

 今の葵たちは単なる人間とはいえ、吸血鬼の要素も残っている。それらが活性化される夜なら、多少致命的なダメージを受けても問題ない。異能でも回復できるし。


「なんかムカついてきたな……」


 悠々と夜空の下を飛ぶ真紅のドラゴン。

 そいつをここからこうして見上げていると、胸の内にふつふつと怒りが湧き起こってきた。正確には、あいつの背に乗る友人に対して。


 今回の一件、葵にも責任の一端はある。

 もっとちゃんと彼女と向き合っていれば、きっとこうはならなかったはずだ。

 周防恵は狂っている。それはたしかにその通り。でも、だから葵は何も悪くない、とまでは言わない。

 今の恵の状態は、元より彼女自身が持っていた性質もあるだろう。友人に対する親愛の重さなんて千差万別で、恵のそれは葵が考えていたよりもヤバいものだっただけ。


 赤き龍はそこに付け込もうとしたのだろうが、まさか逆に利用されるハメになるとは思いもしなかったはずだ。


 そう、赤き龍すらも取り込んでしまう、感情の爆発。周防恵の最も脅威的で驚異的な要素はそれだ。端末に過ぎないとはいえ、枠外の存在を取り込んでしまうほどの爆発。

 なまじ力を与えてしまったばかりに、感情が魔力という具体的な形を持ってしまった。その魔力に取り込まれ、飲み込まれ、ついには自我すら失ったか。


 とは言え、である。

 それとこれとは話が別。たしかに葵が恵とちゃんと向き合っていれば良かったのだろうけど、彼女の行いは到底許されるものではない。恵一人のわがままで、多くの人が命の危機に晒されるのだから。

 そう言った理屈を抜きにしてもだ。


「たかがこの程度の話で、癇癪起こさないでよね。子供じゃないんだから」


 木の上から飛び降りて、グッと体を伸ばす。身体機能が正常に働いていることを確認して、よし、と自分の頬を叩いた。


「で、どうするよ。あいつらを倒すこと自体は簡単だろうが、こんな街中で暴れるわけにもいかねえだろ」


 蓮と一緒に降りてきていたカゲロウが、周囲を見渡して言う。

 ここは京都市内。ただでさえ街中で戦うわけにもいかないのに、その上ここは神社仏閣などの重要な文化財産が点在している。

 葵たちの異能で修復できるとは言え、だからって進んでこの場で暴れようとは思えない。まずはフィールドを移すことから考えないとダメだろう。


 だが、そこに関しては問題ない。葵にはひとつ、手があった。


「大丈夫、私にいい考えがあるから」

「まさか、周防さんたちを無理矢理転移させるとか? さっき見てたけど、それは厳しいんじゃないかな」


 周防恵の認識阻害はかなり高度な域に達している。葵たち三人はおろか、織にだって不可能なレベルだ。


 認識阻害は文字通りの魔術。対象の認識をズラし、五感にまで作用する。

 対して葵の異能は、視覚化した情報を元に演算することによって、より多くの力を発揮する異能だ。


 元となる視覚を誤魔化されたのであれば、異能のための演算は正常に行えない。

 魔術にしろ異能にしろ転移を行うのであれば、対象の座標情報は必要不可欠。だが認識阻害で座標をズラされれば、彼女らを無理矢理転移させることは不可能。


 だから、葵の策は転移じゃない。

 個別で座標を指定するのではなく、空間そのものに作用させる。


「結界でも張るか? それにしたって、結局結界内のもんはぶっ壊れちまうぞ」

「うん、だから結界じゃない。いや、これも一種の結界ではあるんだろうけど、全員全く別の場所に移すから、やっぱり違うのかな」

「どっちでもいいけど、結局なにやろうとしてんだよ」

「心想具現化」


 短く答え、蓮とカゲロウの二人は揃って首を傾げる。これだけでは言葉が足りなかったみたいだ。


「心想具現化って、緋桜さんの使ってる魔術のこと? たしか、黒霧家に伝わる魔術で、キリの力と関係してるんだっけ」


 蓮の認識に違いはない。

 心想具現化とは、黒霧が受け継いだキリの力、『心』を魔術に落とし込んだものだ。まず初歩として、黒霧家の魔術師は体を霧に変える魔術を習う。葵の両親が霧の魔術師と呼ばれていた所以でもある魔術だ。

 そこから独自に派生させていき、それぞれの心を具現化させる。緋桜の花びらはここに該当するものだ。


 桃瀬桃を例外として、その他の誰にも使うことのできない、黒霧緋桜の心を具現化させた魔術。


 それこそが心想具現化。

 葵は体を霧に変える魔術こそ使えないものの、一足飛びに心想具現化自体は会得していると言っていい。


「お兄ちゃんの場合は桜の花びらだけど、私の場合は雷かな」


 それには恐らく、葵の身に宿された神の記号が多分に影響しているだろうが。葵が纏い、操る稲妻は、彼女の心に呼応して激しさを増す。

 以前までは知識が不足していた故に無自覚だったが、この新世界で両親と共に暮らし、彼らから心想具現化について聞かされたことによって理解できた。


 黒霧葵の雷は、彼女の心そのものだったのだと。雷纒も、帝釈天も、黒雷も、全てが。


「お前の雷が心想具現化ってことは分かった。で、その上でどうするんだよ。雷で敵を焼くことはできても、結局巻き添えの可能性は変わんねえだろ」

「心想具現化には奥義があるんだ。空間を切り取って擬似的に世界の再構成を行う、私の心の奥底に眠る景色を、現実に侵食させる術が」

「世界の再構成って……またとんでもない術だな。葵もそれを使えるってこと?」

「実際に使ったことはないよ」

「オイ、大丈夫なのかよ」


 大丈夫、とは言い切れないのが実際のところなのだけど。

 緋桜の心想を見せてもらった桃は、めちゃくちゃ綺麗だったと惚気混じりの自慢をしていたけど。どうやらこの術、発動すれば戦闘力の一切を奪われる類のものも、昔にはあったのだとか。

 そこは博打になってしまう。果たして自分の心想がどのような景色なのかは、出たとこ勝負だ。雷は関係ないのかもしれないし、自分では想像もできないような景色かも知れない。


「でも、やるしかないでしょ。それしか手はないんだから」


 ただ、それにしたって他にも問題が横たわる。葵の心想云々というよりも、もっと現実的で即物的な問題が。


 ジッと蓮の顔を見つめてニッコリ笑うと、彼は何故か後退り。失礼な。


「じゃあ蓮くん、魔力足りてないから、よろしくね?」

「ほどほどにお願いします……」



 ◆



 青白い閃光が夜の闇を染め上げて、全員の視界が回復した頃には全く違う場所に移っていた。


 だだっ広い夜の校庭。三階建ての校舎。夜空に紅い満月が煌々と輝き、その下を真紅のドラゴンが飛んでいる。学校と呼ぶべきこの施設の外には、更に広大な樹海が広がっていることだろう。

 位置関係は変わっていない。葵はグラウンドの土に足をつけ、恵は未だ、ドラゴンの背に乗ったままだ。

 蓮とカゲロウは置いてきた。恵には、葵ひとりで向き合わないとダメだから。


 だが、葵の纏う服装が変化していた。ブレザーとスカートは市立高校の制服ではなく、旧世界でいつも着用していた制服だ。下ろしていた髪はいつものツインテールに結われ、もう随分と長い間、この格好をしていなかった気がする。


「こ、ここは……どこなの一体? なにをしたの、葵!」

「私のことは、めぐちゃんが一番知ってるんだよね? だったら、ここがどこなのかも分からないと、おかしいんだけどな」


 魔術学院日本支部。

 旧世界において、富士の樹海に広がっていた葵たちの学校。グレイの手により崩壊してしまったが、こうして葵の心想として現れたのは、少し納得していた。


 黒霧葵が()()()()と対話する時は、いつも学院のどこかだったから。


「そんな、どうして……私は、葵の一番の親友なのに、どうして私の知らないことがあるの⁉︎」

「知らなくて当然だよ。私だって、私自身のことを全て知ってるわけじゃないんだから。ましてや力を与えられたばかりのめぐちゃんが、旧世界や魔術学院のことなんて、知るよしもないじゃん」

「なにそれ……意味わかんない! 旧世界? 魔術学院? それがなんだって言うの! 親友の私よりも大切なものなの⁉︎」

「そうだよ」


 満月と同じ真紅に輝く瞳で上空を睨めば、ドラゴンの背に乗った恵がたじろいだ。


 どれだけの力を与えられても、彼女は一般人だ。魔術師ではない。その精神性は単なる少女のものに過ぎず、だから結局、今回の一件だって子供の癇癪のようなもの。

 ただ、その癇癪がよりにもよって、葵の地雷を踏み抜いた。


「ねえ知ってる? 私にはね、妹が二人いたんだよ」

「妹……?」

「無邪気で天真爛漫な子と、大人びて人を揶揄うのが好きな子。今の私は、その二人の人生を貰って、生きている」

「なんの、話を……」

「知ったような口を効くなって言ってんのよ!」


 叫びに応じて天より落ちるは、漆黒に染まった稲妻だ。赤き龍は急旋回して辛うじて躱す。その背に乗る恵は、短く悲鳴を上げて態勢を保つのに必死だ。


「私が今ここで立っていられるのは、あの子たちのお陰だ! そんなことも知らないで、私のことを知った気になるな!」


 虚空から刀を取り出し、漆黒の雷を纏う。

 同時に、葵の両隣に、地面から影が実体化した。黒く染まった影は、葵と全く同じシルエットだ。ただ、その手に持つ得物だけが違う。大鎌と槍をそれぞれ構えて、大切な姉の隣に並んだ。


「私の大切な妹を侮辱してるのと同じなんだよ、めぐちゃん。そんな人とは、親友はおろか友達になんてなりたくない」


 その言葉が決定打だった。

 龍の背の上で力が抜けたようにへたり込んだ恵は、ぽろぽろと涙を溢す。


「どうして、そんなこと言うの……私はただ、葵のことが大好きなだけなのに……」

「それが迷惑だって言ってるの」


 普通の友人関係でいられるだけならよかった。葵だって、この新世界で新しい平和な暮らしをする上で、恵のことは大切に思っていた。

 でも、許せない一線というのはある。

 己の感情だけで周囲を巻き込み危険に晒し、あまつさえ妹たちのことを侮辱されるとあれば。

 私の現在(イマ)を脅かすのであれば、もう友達ではいられない。


『実に愉快な結末だな、黒霧葵』


 唐突に、真紅のドラゴンが声を発した。

 視線がぶつかる。上空を飛ぶ赤き龍の鋭い眼光と、葵の持つ吸血鬼の瞳が。


『この身を支配するとは、さすがに想定外だったが。貴様のおかげで解放された。礼として、貴様を侮辱したこの女は食らってやる』

「させるか!」


 恵の支配から解放された赤き龍が、巨体を翻す。背に乗っていた恵が宙に投げ出され、凶悪な牙が少女の左半身を食いちぎった。


「あああああああああ!!!!」


 半身だけで済んだのは、ギリギリで葵が間に合ったからだ。強烈な痛みとそれ以上の喪失感に悶え苦しむ恵を空中で抱きかかえ、大鎌と槍を持った葵の影が赤き龍へ突撃する。


 このままだと、恵が絶命するのは時間の問題だ。即死していないのが奇跡のような状態で、葵に選択の余地はなかった。


「あとで、好きなだけ恨んでくれていいからね、めぐちゃん」


 残された右半身、その首筋に、牙を突き立てる。いつものような魔力補充のための吸血じゃない。

 これは、一種の契約だ。

 吸血という行為が持つ意味の中でも、特に危険視されるもの。

 対象の隷属化。


 半吸血鬼の葵でも、眷属を作ることはできる。恵を眷属にして吸血鬼化させれば、無限の再生力を得ることによって傷の回復も可能だ。


 そうして牙を離した頃には、恵の体も完全に修復されていた。悶え苦しむこともなく、穏やかに眠りについている。ただしその体内には、先ほどまでと比べ物にならない魔力が蠢いていた。

 大変なのはこれからだ。この魔力を体に馴染ませ、吸血鬼の眷属として陽の下を歩けなくなってしまった。その辺りのレクチャーは、サーニャに頼むとしよう。


 まずは、目の前の敵を排除することから。


『貴様らは実に不可解な存在だ。灰色の吸血鬼もそうであったが、なぜ敵だったものを助ける?』

「お前には一生分からないよ、赤き龍」


 地面に降り立ち、二人の影も離脱して再び隣に並ぶ。恵の体をそっと地面に下ろすと、紅い満月が雲に隠れた。


「人と人との繋がりってやつが分からないお前には、一生理解できない」

『繋がりか。そんなもの、三万年前に全て消した。今更理解しようとも思わん』


 勢いよく大地に降り立った赤き龍が、耳をつんざく咆哮をあげる。対するツインテールの華奢な少女は、全く怯む様子を見せずに、両隣の影と共に地面を蹴った。

 その刹那、葵たちの体は黒い稲妻へと変化する。横薙ぎに振われた赤き龍の腕を焼き貫いて、ぼろぼろと灰となって崩壊する。


『肉体を元素へ変換するとは、これが心想具現化の力というわけか!』

「ますます欲しくなった? でも上げないよ、これは私の心、私の想いだから!」


 雷を纏うのではなく、肉体を雷そのものへと変化させた葵には、一切の物理攻撃が通用しない。それどころか触れた途端に感電、いや崩壊する。


 三本の稲妻が、交錯するように何度も赤き龍の体を貫く。それでも完全に崩壊しないのは、やはりやつが異世界の、そして枠外の存在だからか。

 だが、いつまでも耐えられるわけじゃない。四肢や翼を捥がれては修復を繰り返すその動きは、徐々に緩慢になっている。

 戦いを長引かせるつもりのない葵は、二つの影と共に赤き龍を包囲するよう展開した。


『何故だ、何故繋がりや想いなどと、曖昧なものに縋る貴様らが……!』

「曖昧なんかじゃない、私たちの胸には、たしかにそれがある! 蓮くんと、カゲロウと、翠ちゃんと、あの二人との繋がりが! みんなへの想いが! それを、お前なんかに理解されてたまるか!」


 包囲した()()()()の足元に魔法陣が広がり、この心想全域に黒い稲妻が迸る。


 心想具現化の奥義、心想展開は術者によって千差万別だ。戦う力を失う者もいれば、特にこれといった変化のないものもいる。

 しかし葵の場合は、どこまでも戦うことに特化していた。二つの影の召喚に飽き足らず、この心想内部であれば場所を問わず、どこにでも、どこからでも、稲妻を発生させることができる。


 その力を、三人がかりで一箇所に束ねれば、果たしてどれだけの火力が出るのか。


黒崩・三叉雷槍ドライシュバルツエンデ!!」


 空間内全ての雷を収斂した三つの稲妻が、槍となって放たれた。

 激しく散らされる火花と轟音。三方向から襲いくる漆黒に赤き龍はなす術なく、その巨体に三つの大きな風穴を開けた。


 そこを中心として、今度こそ全身の崩壊が始まっていく。同時に心想の展開も限界が来たのか、魔力が粒子の形を取って舞っていた。


『認めん……断じて認められん……! 貴様らのような者たちこそ、我が変革の恩恵を受けなければならぬはずだ……!』

「余計なお世話だっての。地獄に堕ちろ、クソ野郎」


 赤き龍の完全な崩壊と共に、景色は京都の街並みへと変わる。それに伴って、葵の姿をした二つの影も、地面に溶けて消えていった。


「ありがとう、二人とも」


 瞼を閉じて胸に手を当て。己の中でたしかに生きている二人の妹へ、感謝の言葉を送った。



 ◆



 つい忘れてしまいそうになっていたが、現在は絶賛修学旅行の真っ只中である。

 一日目から随分とハードなスケジュールではあったが、赤き龍を撃退した今となっては、もはや邪魔するものなど誰もいない。


 二日目の昨日一日は疲労で三人とも全く楽しめなかったけど、三日目の今日は疲労からも回復して、しかも自由行動と来た。

 であれば当然、糸井蓮は恋人である黒霧葵と行動を共にしていたのだが。


「ご主人様ー!」

「ちょっとめぐちゃん、人目のあるところでその呼び方はやめてって昨日も言ったでしょ⁉︎」


 なぜか、今回の事件における元凶の周防恵が、葵に引っ付いてきた。


 葵が心想具現化の空間内から帰還した後、なんと驚くことに、恵は葵の眷属となっていたのだ。外に置いていかれた蓮とカゲロウはまさかそんなことになっているとは思わず、開いた口が塞がらなかった。

 恵の命を助けるためだと聞いて、なるほど葵らしいと苦笑したものだけど。


 今や恵も、立派な吸血鬼だ。いや、立派ではないか。なにせ半吸血鬼もどきの眷属であるのだから、吸血鬼としてのランクは底辺も底辺。吸血鬼のなりそこない、と言ってもいいレベルで。

 だから太陽の光にも屈しないし、こうして真っ昼間でも外に出ていられる。そのくせ再生能力は高いのだから、不思議な話だ。


 友達から主従に関係を変えた二人は、なんだかんだで仲良くしている。


「まあまあ、せっかく葵の初めての眷属なんだし、今日くらいはいいんじゃないかな」

「おっ、糸井くん分かってるー!」

「うぅ……蓮くんとのデートが……」


 そりゃまあ、蓮としても葵と二人だけで京都の街を散策したかった、もといデートしたかったけど。こうなってしまっては仕方ないかな、と諦めてもいる。


「釣れないこと言わないでよご主人様!」

()()


 ご主人様に抱きつこうとした眷属を、紅い瞳と魔力の乗せられた言葉が遮った。恵の体は抱きつく直前の不自然な状態で完全に止まっている。


「ご主人様呼びと、あとすぐ抱きついてくるのもやめて。分かった?」

「はい……」


 しょぼん、と頭上にそんなオノマトペが見えそうだ。

 葵は割と嗜虐的なところがあるし、恵もそんな葵からぞんざいに扱われることを嫌がっていない、むしろ喜んでるっぽいから、まあ丁度いいのだろう。


「じゃあ行こっか蓮くん。めぐちゃんは気にしなくていいから」

「いいのかなぁ……」

「あー! 私の前で手繋いでイチャイチャしてる! 私も葵といちゃつきたいのに!」

()()()

「……」


 その後、ご主人様の言いつけ通り、恵はこの日一言も発さなかった。

 この様子だと、葵の受難はまだまだ続きそうだ。

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