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6 シルヴィの悪行その1

分割してます。申し訳無い…。

 学園長の部屋から出て、歩きながら次の行動を考える。

 

 さて、お腹も空いたし、食堂に行こうかなぁ……。


 食事はチケット制で、これも学費に含まれている。

 なので実質タダ飯なのだが、チケット一枚で食べられるメニューは決まっており、

 主食系はうどんか、ご飯と味噌汁と漬物だけの定食か、具なしカレー、サンドイッチふた切れ位しかない。

 おかずを追加するためには更にチケットを消費するか、

 別途お金を出してオプションをつけなくてはならないので貧乏人にはちょっぴり厳しいシステムである。 


 私は節約、というか貯金のために具なしカレーを頼み、席が空いていなかったので通路側の席に座り、食事をした。

 みんな試験を終わらせて戻ってきた頃だったのだろう。

 せっかく早めに済ませたのに理事長の話がなければ……チッ。


 アンジュたちの姿は見えない。

 極めて目立つ御一行なので、見落とすことはないはずだ。


 まだ試験中なのか、もしくは外で食べてきているのかもしれない。

 アンジュは私の倍以上チケットを配布されているので(多分無制限)食事には困らないし、

 外で食べるにしても奢ってくれる相手はたくさんいるのだから何も問題ない。

 アンジュと一緒だとあれこれ食べたがるアンジュのおこぼれを頂戴できるんだけどね!


 私が一人でいるのを珍しがる同級生などが食器を下げる道中に声をかけてくる。


「ねえ、聖女様はまだ試験?」

「ええ、多分そうです。

 まだお見かけしてませんので……」

「そうか、あのこれ! 聖女様に渡しといて!」

「お預かりします」


 アンジュへの手紙やらプレゼントの類いは、3日に一度は受け取るので今回も普通に預かる。



 そしてまた、話しかけてくる金髪碧眼の令嬢。

 この令嬢は入学してからよくアンジュについて聞いてくる。

 アンジュのことライバル視してるのかな?

 結構いいところのご令嬢っぽいから、何事もなければクローヴィスの婚約者とかに収まるポジのお方なのかもしれない。

 背後にはお付きと見られる女子生徒が静かに付随っている。


「あら、シルヴィ様。ごきげんよう。

 ……ねえ、アンジュ様はどなたが本命なの?」

「え、えーと……」

「やっぱりクローヴィス殿下かしら?」

「どうでしょうか……」

「わかったら教えていただけませんこと?」

「え、ええ。わかりました」


 攻略対象のイケメン5人(それ以外にもアンジュを好きな男子生徒はたくさんいるけど)を好きな女生徒は気が気でないよね。

 同じ人を好きになったら到底敵わない気がするもん。

 その気持ちはわかるので、心の中でエールを送る。頑張れ!

 やっぱり逆ハー、良くない。


 と、カレーを食べていると、向こうの方からざわつきが広がりだす。

 おや、お戻りかな。


 ちらりと背後に目をやると、モーゼの海割りのごとく人波が割れて、

 その中心を闊歩してくるアンジュ御一行。


 生徒たちの熱い眼差しを受けながらもそれを美しく慈愛に満ちたほほえみで受け流し、

 こちらに向かって歩いてくる。


 私は、急いでカレーをかきこんだ。


 具なしカレーを食べてるなんてあんまりバレたくない。

 殿下とか、あからさまに憐れみの眼差しを向けてきそうだし……。

 悪気はないんだろうけど、コチラがいたたまれないのよ……。


 最後のひとくちを口に入れ、アンジュの位置取りの把握のため後ろを見ようと少し身をよじる。

 ファンクラブの生徒たちに声をかけられまくっているので(アンジュ以外の攻略対象もだけど)、

 まだ余裕はあるはずだ。

 いけそうなら、カレーの皿を返しに行って、その足でアンジュを迎えに……と、

 段取りを頭の中で組み立てながらふと、自分の脚を見た。


 3センチほどの、黒い物体が、脛のど真ん中についている。



 な……、こ、これは……!


 人間というのは、本気で驚くと声が出なくなるらしい。

 一気に鳥肌が立ち動きがとまる。




 暫しの間。

 私は……。


 無言で、脚についたGらしき何かを払うため、

 通路に向かって脚を振り上げた!!!!



 スコーン!!



 え?


 小気味いい音がして、なにかに思いっきり当たった。


 振り向くと、私の横を思いっきり転んで倒れ込んでいくアンジュがまるでスローモーションのように崩れ落ちていった。



「い、ッ!!」

「あ、アンジュ!?」



 私は慌てて立ち上がり、アンジュを起こそうとする。

 しかし、私の前に男子生徒が割り込んだ。


「大丈夫か! アンジュ!」

「あ、ああ。急すぎて対処しきれなかった」

「ご無事ですか? アンジュ様」


 先程の金髪碧眼の令嬢が、アンジュの膝のホコリをきれいなハンカチで拭っている。

 割り込んだ男子生徒が私を振り返り、睨んでくる。


「どういうつもりだ?

 アンジュに脚を引っ掛けるなんて」

「く、クローヴィス殿下……これは、違うのです」

「違う?」

「どう見ても故意に脚を引っ掛けたようにしか見えなかったぞ?」


 お怒りのクローヴィスに、賛同の声を上げるレイモンド。


 その声に、周りの生徒たちもヒソヒソしだす。

 しかし、アンジュがそれを制した。


「いや、気にするな。虫を払ったのだろう?

 間の悪いときに通りがかっただけさ」

「アンジュ……!」


 アンジュにはGの存在が見えていたのか。

 微笑むアンジュ、マジ天使。

 しかし、周りはあまり納得していないようで……。


「虫? そんなものオレは見てないぞ」

「虫を払うのにわざわざあんなに脚を振り上げるかな?」


 ヴィクトルとマルクが不信感をあらわに疑問を呈する。

 うう、あそこでギャーギャー叫んでGの存在を知らしめてたら良かったのか?

 この食堂でGがいるなんて騒いだらパニックになるぞ?


 半泣きの私にアンジュが笑いかける。


「初めて脚を引っ掛けられたけど、なかなかヒヤッとして面白い経験だったぞ。

 怪我もしてないから問題ない」


 改めてアンジュの膝を確認する。

 砂やホコリがついてしまっているが、あざになったりはしていない。


 私は必死で頭を下げる。


「とにかく、本当にごめんなさい!

まさか当たるとは思わなくて……」

「気にするな。さ、食事は済んだのか?

 部屋に帰ろう」


 アンジュは狼狽える私を促し、食堂を後にした。

面白ければ評価等いただけましたら幸いです。

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