33 アンジュの正体
布に巻かれながらアンジュが私にもう一度キスをした。
「う、……ん!」
「……ふふ、やっぱりシルヴィの唇が1番だな」
「もう……!」
暗幕の中でアンジュと向き合う。
灯りが灯る。
もちろん魔法だ。
アンジュが柔らかく微笑んだ。
「シルヴィ、満足したか?」
「え? な、何言ってるのよ……」
「ん?
これが君が求めてた、えんでぃんぐと言うやつだったが、いまいちだったか?
まあ、少し途中経過は変えてしまったからな。
ただやり直すのは流石の私でも骨が折れるから、
できれば納得してもらいたい所だな」
え、なに?
「ちょ、ど、どういうこと?」
「君がシルヴィエンドを見れずに死んだから、見せてやろうと思ってな」
「え……、え!?」
アンジュの言葉に思考が止まる。
そう、私は…死んだ。
だから、この世界に転生した。
それは理解していたはずだけど……。
「アンジュ、あなた……私のこと、やっぱり知ってるのね?」
「ああ。それなりにね。
君が如何にシルヴィに執心していたか、自分で熱心に語っていたから。
それなのに、げぇむを進めてせっかくシルヴィエンドを見ようとしていた日の朝に、
死んでしまうだなんて。
君の魂が無念に咽び泣くのが不憫でつい、ね」
「あなたが……、この世界を作ったの?」
「作った、と言えるかもしれないね。
イチから作ったわけではないけど、
ここまでお膳立てするのはかなり四苦八苦させられたものだ」
アンジュは、あのときのようにのらりくらり交わすことなく、微笑みながら質問に答えてくれる。
その内容は全く理解できないけど!
私は以前にも問うた事を、もう1度口にした。
「あなた、何者なの?」
「私は、しがない神だよ」
か、神?
神って、神様ってこと?
「神、様、なの?」
「そうだよ」
「なんで神様が、私に……」
「君の願いを叶えたのはこれが初めてじゃないんだけど覚えてないか?」
「へ? ……まさか、あの祠!?」
「うん。
君の住んでいた家の近くのボロい祠の神だよ」
あそこ、神様、マジでいたんだ……。
え、ってことは、
「シルヴィ原画セット……!!」
「喜んでくれてたよね~」
「あ、ありがとうございます!」
思わずお礼を言ってしまう。
お礼参りもしたけどさ、
便宜をはかったらしい本人を前にしたら感謝を伝えたくなるものだ。
「……? でも私、それ以降はお願いごとはしてなかったような気が……」
アンジュが頷く。
「そうだね。別に何も。
だからこれは、私の気まぐれでもあるし、
君の望みを基に私がやりたいようにやった結果でもある」
「ちょっと……よくわからないよ?」
「君があんまりシルヴィシルヴィ言うから、
見たくなったんだよ。
でも私がげぇむをすることはできないからな。
君の魂が持っていたげぇむの情報を基に、
似たような世界を探して、舞台を整えた。
平行世界を見て回った頃が懐かしいな」
「は……?」
「君が事故に遭わない世界もありはしたんだけどね。
そこに連れて行ったら君がふたりになってしまうだろ?
それは流石にどうかと思って、だったらいっそげぇむを生身で体験させてやろうと思って」
簡単に言ってるけど、それってとんでもないことだよね?
パラレルワールドだの理解し難い話を突然聞かされ、私の脳みそはもう限界突破している。
ポカンとするしかない私を尻目にアンジュは楽しそうに話す。
「流石に150年ほどあれこれ弄ってたから疲れてしまったよ。
動くのも久々だったし……」
「えーと……?」
「あ、君の魂はずっと寝てたよ。
その間輪廻転生には乗れなかったけど、
良かったでしょ?」
「はい?」
「君は原画を望んだときに何でもすると言っていたではないか。
だから少しくらい問題ないよね」
いやいや、150年って結構長いぞ……って、そういう問題じゃない!
私が、口をパクパクさせながらも何も言えないまま、
アンジュ一人がべらべらと喋る喋る。
「いや~私もそろそろ神様業にも飽きが来ていてね。
誰も信仰してくれなくなって暫く経つし、
潮時かなぁと思いながらも億劫で寝て過ごしてたら君が現れてね。
なかなか面白い魂だったから気に入って見てたら、
まさか呆気なく死ぬとは思わなくてちょっと驚いたよ。
君の魂が未練たらたらだったから、
折角だし私も楽しませてもらおうと思った。
おかげでウン千年生きて初めて実体を持てたよ。
これはいい感じ。
本当に楽しませてもらったよ。
実体があると感情のうねりが凄いね、五感と言うものの全てが面白くて仕方がない。
そこから生まれる感情もね。
実体を得て、神様業というのは如何に退屈で平淡なものだというのが解ってしまったよ。
規則に縛られ、ただ悠久の時を揺蕩うのみ。
そんな日々はもう捨ててしまいたいとは思っていた、
でもそれすらもできないほどに私の感情と言うものは凍りついて死んでいた。
君に会って少しだけそういうやる気といった類の感情が出てきたのだ。
感情が動くことも百年単位で記憶になかったから、君には感謝している。
君も見たかったシルヴィエンドが見れて良かっただろう?
ま、両者共に利益があったということだな」
アンジュが目を細めて私に感謝を述べているけど、
全くもって意味不明だよ!
アンジュは神様で、でも神様業に飽きてきた頃に私がシルヴィシルヴィ言ってるから面白がられて、
願いを叶えてくれたけどその代わりに私が死んだあと私の記憶を元にゲームの世界を作って、
自分は実体を得てヒャッホーして私に感謝を述べている……?
「ごめん、わかんない!」
「わからなくとも良い。
とりあえず、げぇむというのはほぼ終わった。
私はもう神としての力はほとんど残ってないからな。
あとは自由に生きていつか死ぬだろう」
アンジュは、今までで1番、穏やかに嬉しそうに笑った。
「それが私の、望みだったのだよ」
私はその笑みに目を奪われた。
神でした。
本日で完結させるつもりであります。




