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20 紛失物

本日3本目です。

アンジュが今日も対魔王の訓練に出掛けると言うので、

 見送りに付いていく。

 リュカ先生以下、チームの面々(攻略対象)たちがすでに待機していた。


 私はその魔王討伐の任には入らずにすんだので、

 本当にただの見送りである。


 アンジュがみんなによ、と片手を上げ挨拶をしたと思ったら、

 ふと、胸元を探り出す。


「あれ? あれがないな」

「? あれってなに?」

「あれだよ。この前王様がくれたあれ」

「……?」

「えーと、何だったかな。

 横文字はどうも頭に残らん」

「ホーリージェム?」

「あーそうそう! よくわかったな」


 王様が対魔王への餞別としてくれたのは、お金と、武器、防具。

 そしてこのホーリージェムと呼ばれる宝玉である。

 覚醒した聖女の力を増幅する効果があるらしい。


 てか、もしかして失くした? やばくない?

 私は青くなってアンジュを問い詰めた。


「いつからないの!?」

「昨日はあったと思うんだが」

「ああ、昨日は首から下げていたのをオレ、見たぞ」


 近くにいたヴィクトルが話に入ってくる。

 皆アンジュを気にしているので、続々と会話に加わる攻略対象たち。


「部屋に帰ってからは外したのか?」

「風呂に入るときに外したような気がするな」

「そのあとは?」

「うーん、覚えていないな」


 ということは、風呂場で外したあと、失くしたのか?


「とりあえず、お風呂場を探してみましょう」


 管理棟の風呂場は、この棟の上階にある。

 私たちの部屋から程近い。

 一応管理棟に住む生徒の共有浴場なのだが、女子寮や男子寮にも大浴場があるため、

 一般の生徒はあまり入ってこない。

 忘れて置きっぱなしならすぐに見つかるだろう。


 私たちは上の階に向かった。

 皆ぞろぞろついてくるけど、女子の風呂場には入れないぞ?


 アンジュと脱衣場及び風呂場を探すが、

 結局見つからなかった。

 ついでに部屋も簡単に探してみるが見つからない。



「……ないな」

「……ないね」



 アンジュは肩をすくめて言う。


「ま、いいや。とりあえず、今日はもう行ってくるよ。

 帰ったらまた探す」

「私も探しておくよ……」

「すまんな。まあ無ければ無いで問題ない」

「いや、あるでしょ!」


 軽く言うので思わず突っ込んでしまう。

 王様から賜ってるんだよ?

 そんなもの失くしたら……。

 でもアンジュは気にした様子なくにっと笑った。


「別に無くても魔王は倒せるからシルヴィは心配しなくていいぞ」

「そういう問題じゃないでしょうが……」

「あはは、じゃあな!」


 アンジュは部屋の外にいた皆を連れて出掛けてしまった。


 はあ、全くもう。

 とりあえず、私は探そう。




 しかし、いくら探せど宝玉は見つからなかった。




 その旨、帰ってきた皆に伝える。



「そうか、すまなかったな。

 かなり探してくれたのだろう?」

「うん……結構探したんだけど。

 落とし物としても届いていないって」

「そうですか……。

 あのホーリージェムはかなり貴重な品なので、

 何としても見つけたいところですね」


 リュカ先生が呟く。

 クローヴィスも、その言葉に頷いた。


「盗まれたのではないか?」

「確かに、見つからないならその可能性もあるよね」


 レイモンドが疑惑を口にし、マルクが同意する。


「しかし、あのホーリージェムは聖女が持たなければただの少しばかりきれいに磨かれた石だ。

 値打ちのあるものに見えるとは思えない」

「ただの石と思って捨てられた?」

「しかし、チェーンがついていたのでしょう?」

「それに、この管理棟で見つけたとしたら値打ちものと勘違いする可能性はある」

「でも、ここにいる生徒たちがそんなもの盗もうとするほどお金に困るとは思えないがな」


 管理棟にいる生徒は、相当優秀でかつそれなりの立場や家柄の生徒ばかりである。

 一番ぽんこつで貧乏なのがシルヴィたんなのであった。


「まあ、ここで話していても埒があきません。

 私のほうで質屋に流れていないか探ってみます」


 リュカ先生が言い、今日はお開きとなった。



 

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