荒事を治めるには飴よりも鞭の方が効く時がある
モン○ン熱も自分の中だと僅かに落ち着き始めたので今のうちに書いていこうと思います。
DLC出たら知らんが!!
「…ひどい目に遭ったわ」
「自業自得って知ってるかお前ら?」
こめかみに青筋を浮かべるウルフの目の前には、頭頂部におっきなたんこぶを作って正座させられたアリシア以下会計班へと突撃をかました下手人たちだ。
「――言うてお金が無くっなったとか言われたらみんなこうなりますって」
「冷静な班長がおかしいんですって」
「…さては全く反省してねぇなお前ら?」
それぞれ方向性は違うが不満そうな表情で、正座をしている面々から立ち登る不承不承感は、あまり反省しているようには見えなかった。
むしろすんでのところで踏みとどまったハヅキを裏切り者と、非難する様な視線を向ける者もいる始末。
「…やめろお前らみっともない…」
「――なんすか班長…その金庫…」
呆れ気味に、正座をしながらハヅキに殺気を飛ばす面子を諌めたウルフは、自分の机を漁ると、隠しスペースから、小さめの金庫を両手で抱えて戻ってくる。
あちこちに傷がつき、ベコベコに変形する度に、何度も修復したであろう痕跡がある金庫を持ってきたウルフに怪訝そうな視線が殺到するのだった。
「こんなこともあろうかと、毎月おれの小遣いの何割かをこの金庫に隠していたんだよ。もう形振り構っていられないし、多少ガバくても、こいつを投資で増やして調査班の経営に回し――」
「そんなセコい事してたのか」と突き刺さる数々の視線を無視して、開封した金庫の中から沙汰袋を取り出し、近くの机の上にその中身をひっくり返し―――
ヴィクトリア紙幣の代わりに大量の灰が出てきた所で、ウルフの顔面から全ての表情が消えて無くなった。
ひっくり返した沙汰袋からこぼれ落ちるは灰、灰、そして灰。
なんぞこれ?と、文字通り目を丸くして固まったウルフは、しばらくの間目の前で積もった現実を受け入れる事が出来なかった。
なんせ今までコツコツと少しずつ貯めていたそれなりの額の貯金が、大事に隠している内に全て灰と化し(またの名を燃え尽き)ている事など、何をどうすれば想像出来るだろう。
灰を両手で掬ってしばらく放心していたウルフだった。
ふと、へそくりだったものを保管していた金庫が視界に入ったウルフの脳裏に、ある疑問が走った。
金庫がやたらとボロボロなのである。買った当初はまだピカピカで、強化魔法を二重にかけて、「ドラゴンが踏んでも潰れない」と謳い文句で有名なメーカーの金庫が、何度も過酷な戦争を乗り越えてきたと言わんばかりにボロボロなのである。
ウルフは再び固まった。
この金庫がここまでボロボロになった原因に、心当たりがありすぎた。
燃える書類。
凍る室内。
吹き飛ぶ部下達。
そして爆ぜる執務室。
ぎこちない動きと共に視線が正座しているアリシア達に向かう。
最初は「何やってんだコイツ」と言った具合の呆れた視線と感情を向けていたアリシア達だったが、ウルフがボロボロになった金庫を指刺したその時、一斉に血の気が引いていった。
「――白状しろ!誰だ俺がこっそり隠していた保険を粉々にしたのは!?」
『すんませんでしたぁーっ!!』
皆一斉に土下座した。
誰がやったか本当に身に覚えが無いが、みんながみんな心当たりが多すぎる。
誰も彼もその気になれば炎や氷やただの力技で金庫の中のへそくりだけにダメージを与える事が一応出来そうな無駄に器用な面子が揃っているのが災いしたのだった。
まぁ、過剰戦力が揃っている事を考慮しなかったウルフにも非があるのだが…。
「――ちっくしょう!もう駄目だ!!こうなったら動ける奴総当たりで、うちのギルドの塩漬けになっている依頼受けるしか――」
「――ってそれグリフォンとかケルベロスとか報酬の割に危険度が釣り合ってないヤベー依頼の事じゃないすか!!」
「嫌ですよおれら!!マンティコアとワイバーンの同時討伐とか、アリシアさんクラスのアホしか受けない地獄みたいな依頼やるの!?」
「ちょっとアイン?何で私の名前出してアホなんて言ったのかしら??怒らないから正直に言ってご覧なさい??」
「アインのバカ!!アリシアさん怒らせてんじゃねーよ!!逃げろ逃げろー!!」
再びの混沌。
隠し球が思わぬ形で灰になり、万策尽きたウルフは、震える声で誰も受けずに放置され、ボロボロになった書類を引っ張り出す。
先程名前が上がった魔獣を討伐すれば、確かに最低数百万は下らない報酬は出るだろうが、それを加味しても、命の保証がされない依頼を受けるのは、一部の変態以外この世の中に存在しない。
誰だって、「宝物殿の守護者」とか「地獄の番犬」とか、大層な名前で呼ばれる魔獣とは、一部の人外を除いて対峙したがら無いのだ。
その一部の人外のアホ呼ばわりされたアリシアの額にこめかみに青筋が浮かび、笑顔で威圧したまま必死に逃げるアイン達を追い回し、その後ろをウルフが両手に、件の依頼書を手にしたまま後ろから追い回す所為で、再び執務室が散らかっていく。
「まて!お前ら!おれたち主導で討伐するからお前らは後ろからついて来るだけでいいんだって!」
「言うて班長は冒険者免許を返却しているから討伐しても報酬でないでしょうが!?」
「嫌すよオレら!!億が一でもそんな化け物魔獣と対峙したく無いですからね!?」
「ごめんなさいアリシアさんごめんなさい!悪気は無かったんです許してぇ〜!?」
「アイン〜!!残り二人も同罪だから覚悟しておくことね!!」
最早ただの地獄絵図である。
自称度底辺の3人組を、本気を出したらめちゃくちゃ強い成人男性と、本気を出さなくてもどちゃくそ強い成人女性が後ろからグルグルと追いかけ回すその様子はただの地獄絵図だった。
部屋を散らかしながら追いかけっこを始める集団を尻目に、比較的冷静な3人のうち一人のスカディはいそいそと例の依頼の魔獣を討伐しようと準備を始め、流石に怖気付いたハヅキが「やめましょうよ。ねぇやめましょうよ」と必死にスカディを引き留め、アネットは優雅にティータイム。またの名を現実逃避を決め込んでいた。
このストッパー不在の修羅場は、永遠に続くと思われたが、いつだって救世主という者は唐突に現れるものだ。
「――失礼します…調査班の皆さまに報告が……ってなんですかこれ?」
救世主ローズ爆誕。
特段説明する必要も無いくらいに普通に入り口から入室してきた彼女は、普段の3割増しで喧しい調査班と外の廊下の気圧差に一瞬怯むが、そこはとっくの昔に慣れたもの。
怯んだ一瞬でなんとなく状況を理解した彼女は、「仕方ないですね」と言わんばかりの溜息を吐くと、適当にスーツのポケットを弄って、支部長から没収した彼の収集品(どう見繕ってもガラクタにしか見えない)に魔力を込めて部屋の中心。騒ぎのど真ん中に向かって放り投げる。
コホンと咳払いしたローズはいつでも指を鳴らせるように構えた右手を、自分の頭の位置より高く掲げると、喧しい追いかけっこの最中でもしっかり聞こえるように声を張り上げるのだった。
「――3数える内に静かにしないと爆発起こしますよ…さーん……にー―――」
『すいませんでしたぁぁぁぁっ!!!』
ローズによる爆破テロを恐れたウルフ達は、こうやって鎮圧されたのだった。




