問題児の自覚が無さすぎる人が多すぎるのが問題
「……これより支部長をしばき倒す方法を考える為の緊急会議を行います」
「賛成」
「意義なし」
カーテンを閉め切られ、人為的に薄暗くされた調査班の執務室にて、組んだ両手で顎を隠す司令官ポーズのアリシアが主導の恐ろしい会議が行われようとしていた。
「――知っての通り、調査班は何かとお金が要るわ。…装備の調達、調整、修理。薬品等の備品の確保その他もろ…とにかくお金が掛かるこの部署に予算が入ってこないと言うのは死活問題よ」
「……ギルド本部がヘカーティア支部の予算の大幅削減というあってはならない暴挙を許してしまったのは、これも全てあのアホが仕事をサボって遊び呆けているからよ」
散々な言い草であるが大体あっている。
ロマンは執務室に居ても、新聞を読むか、ボトルシップを作っているか、兎に角仕事をしている様子を見せないので、真面目に仕事をしている職員からも、問題児達からも、不満が多いのも事実。
いつもはアリシアと仲が悪いスカディも、頷きながら黒板に「大体支部長の所為」と強調して書き、ハヅキが板書されたそれを議事録に綴っていく。
予算30万ぽっちの死活問題に直面した彼らは、この危機的状況に手を取り合い、ロマンを通して本部に直訴する方向へと固まりつつあるが、いかんせんあのロマンなので、余り効果が期待できない。寧ろ本部に丸め込まれそうまであった。
議長アリシアを囲む下っ端3人のキールは、鏃に毒を塗り、ゼフはロマンを仮想敵としてシャドーボクシングを行い、アインは謎の祭壇を作って何かを呼び起こそうとしていた。
アネットは離れた場所で危ない目をしながら、魔導具をいじっていた。
支部長に対して静かに殺意を滾らせる4人の姿を見回し、深く考え込むように瞼を閉じ、しばらくして何かの決意を決めたアリシアは、突如ガタッと椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。
突如、立ち上がったアリシアの姿に、自然と視線が集まる。
懐疑と、不安と、支部長への不平不満の感情を一身に受けるアリシアは、閉じていた瞳を見開くと、相棒の「ブリュンヒルデ」を抜刀し天井高く掲げる。
カーテンから漏れる僅かな光を反射して輝く両手剣を掲げる姿に、絵画の女神を思わせる。
煌めく剣を掲げ、仲間の視線を集めた彼女は、胸を張り、声高らかに、仲間を導き状況を打破する為の決断を彼らに告げたのだった。
「――これより、ギルド全体から署名を集めてロマン・シュラウドを王国ギルドヘカーティア支部『調和の証明』の支部長の座から引き摺り下ろします!!きっと抵抗するでしょう…その時は力づくであのバカを叩きのめすのよ!!」
応接室に黒板やらウルフの机やらを持ち込んで、突貫で作られた議事堂に響く歓声。
アリシアの高らかな革命宣言に、思わず聞き入っていたキール達はスタンディングオペレーションで賛同し、スカディとハヅキも彼女と結束する証を示すように、己の得物を彼女の掲げられ、革命の象徴として光を放つ剣に重ねる。
ハッと息を飲み、振り向いた視線の先では、「皆まで言うな」とニヒルな笑みを返すスカディと、緊張で顔張っていても、最後まで共にする決意を固めたハヅキの力強い表情があった。
アリシアは涙した。
あぁ、なんてわたしは良い仲間に恵まれたのだろうと。
「アリシア様万歳!!」
「アリシア閣下に祝福を!!」
拳を掲げて、アリシアを讃え、賛同の喝采をあげる仲間達の期待を一身に受け、アリシアは今、邪智暴虐の支部長に反旗を翻した!!
「今こそ革命の時!!わたしについて来なさい!!」
「―――じゃねぇだろぉぉぉっ!!」
「いった!?」
だがしかし、いつだって反逆者という者は同類に討たれるのが世の常。
あんまりな来年度の予算の少なさに、正常な思考を失って、ロマンへの反乱を企てた革命家達は、意気消沈していた状態から目を吊り上げて復活したウルフのドロップキックを背中に食らって吹っ飛んだアリシアによって、ボーリングのピンの如く巻き込まれて反乱の芽を纏めて摘み取られたのだった。
一応紳士の端くれを自称するウルフがアリシアを蹴飛ばした事に関しては、身内が犯罪に手を出しかけたからノーカンという事で。
「なに支部長を抹殺する方向で話進めてんのお前ら!?今どの部署もパニック状態の中で、支部長死んじゃったらマジでこのギルド終わるからそう言うのやめて!?」
「あんなんでも一応トップだからねアレ!」とさりげにロマンをこき下ろしてツッコミを締めたウルフは、吹っ飛ばされたアリシアの巻き添えで散らかった備品を片付け始める。
が、蹴飛ばされたアリシアがそれで納得する筈も無く、仲間達を下敷きにしたまま身を起こすと、やはり本部からの待遇に不満そうな表情でウルフに訴えるのだった。
…彼女の下で呻き声が聞こえた気がしたが恐らく空耳だろう。
「……どうもこうも、どうせまたロマンが余計な事やらかして本部を怒らせただけでしょう?わたし達完全にロマンの巻き添えじゃない」
あくまで、原因はロマンの所為と断定して憤慨するアリシアと、それに同調してブーイングを連発する愉快な問題児達に、額に手を当てて疲れた様な溜息を吐いたウルフは、一瞬迷ったものの、脇に置いてあった箱を手繰り寄せると、その大きさでどうやって中に溜め込んでいたんだとしか思えない量の葉書を、大量に応接室のテーブルの上にぶち撒ける。
「………なによこれ?」
「苦情。調査班当ての」
「内外問わず」と付け加えられ、テーブル全体にこんもり積もった葉書の山に目を白黒させていたアリシア達に、つっけんどんに答えたウルフは、その中から一枚適当にとりだすと、別に何もしていないのにと、不思議そうに首を傾げる彼らに向かって疲れた様子を隠さずに、本当に嫌そうに読み上げる。
「……修練場を氷漬けにするのをやめてください………アリシアだろこれ」
「違うわよ!?他に出来そうな人いるじゃない――」
「――勢い余ってギルドの備品を破壊しないで下さい。…ギルドが壊れるから喧嘩しないでください。…そもそも喧嘩しないでください………全部お前だろうがこれ!!」
「ぐぅっ!」
最初は不本意そうに否定したアリシアだったが、立て続けに読み上げられた苦情に心当たりがあったのか、口元を押さえると責めてくるウルフから顔を晒した。
非常に申し訳無さそうな顔をする彼女に何やってんだか…と呆れた視線を向けていたスカディだったが、今度はそんな彼女がウルフの標的になる。
「――アリシアだけじゃないからな…次スカディさん」
「言いがかりよ。私は何も――」
「――ドアの立て付けが悪かったからって壁ごとドアをぶち破らないでください。…喧嘩で火を放たないでください。…いい加減手加減出来るようになって下さい。…なんでも力づくで解決しようとするのをやめてください。…例え食べ放題だとしても店の経営が傾きそうになるまで食い尽くそうとするのをやめ――」
「――悪いのは犯した過ちを認めない事よ。……今回は私が悪かったわ」
旗色が悪いと察したスカディは、しれっと言いかけた言葉を撤回した。
開き直りとも取れる素早い手のひら返しで、ウルフからの追及を逃れようとする見苦しい彼女の姿に、アリシアは呆れた様な視線を向けるが、実はアリシア本人にも似た感じの苦情が来ているのでどんぐりのなんとかだ。
「――後誰かは伏せるけど、妙な魔導具を暴走させるな……調査班にいるエルフの目つきがエロくてキモい……調査班に顔が怖い人がいるんですけどもうちょっとどうにか出来ませんか?……調査班の神官のビラ配りを辞めさせてください。偶に腐った生肉みたいな臭いがします…………心当たりある奴は今のうちに白状しろ?」
『…………』
溜息を吐いたウルフの標的は、「自分ら何も関係無いです」みたいな感じで彼の視界の外から避難していたアネット達だった。
半分面倒臭くなって来たウルフの慈悲もとい省略によって名前は伏せられたが、もう誰の事を言っているのか分かりやすかった。
アネットとキールは口笛を吹いて誤魔化すが、もはやどうしようもないコンプレックスがクレームの対象になったゼフとアインは膝から崩れ落ちた。
「……そういやハヅキも一件だけ……」
「私ですかぁ!?待ってくださいよ私何の迷惑もかけていな―」
「――調査班の獣人さん、ちゃんと予防接種受けています?」
「いやそれただのタヌキィイイイ!?待って私って近所から普通のタヌキと同列で見られていたんですか!?」
そして近隣住民から野生のタヌキと同じ扱いを受けていた事が発覚したハヅキもダメージを受けたのだった。




