悪い所はうっかりボロを出すと引き継がれる
「……覚悟は良いな?恐らくこれで最後だぜ?」
「…おうとも」
応接室のテーブルをキールとゼフ、アネットが囲み、ただ事ではない重苦しい雰囲気を放っていた。
重厚な緊張感を迸らせる3人は、己の意地とプライドと財産を賭けた勝負の真っ最中だ。
現状は勢い付いて2人を引き離す勢いで圧倒し、歴戦の強者の貫禄を右も左も分からないルーキーに見せつけながらソファーに陣取って戦利品を検分しているのは独走状態のアネットだ。
追い詰められて後に引けなくなって額から汗が伝う2人とは対象的に、アネットは涼しい顔をしていた。
後が無い所まで追い込まれ、最早残す僅かな戦力しか残っていない2人だったが、戦況をひっくり返すべくとうとう重たい腰を上げ、満を侍したと言わんばかりに敵に悟られない様にポーカーフェイスで作り上げた最高の切り札をテーブルの上に叩きつけた。
「……これがオレのとっておきだぁっ!!5と9のフルハウスゥっ!!」
「甘いわ!!こっちはフォーカードだっ!!今度こそ俺の勝ち――」
「はいストレートフラッシュで私の勝ち〜♪」
『ガッデェェェェェムっ!!!!』
渾身のドヤ顔でテーブルの上にハートのスートで揃えた役を並べたアネットにまたも敗北を喫したゼフとキールの2人はカードを投げ捨てて頭を抱え、断末魔の咆哮を上げて崩れ落ちる。
そんな2人から全然悪びれて無い笑顔で「悪いわねぇ〜」と無自覚に煽るアネットは、桜の花びらの様にカードが舞い散る中で、賭けの対象としてベットされていたクッキーやチョコレートなどのお菓子の備蓄を、いそいそと手繰り寄せてソファーの上に山積みになったお菓子の山を更に大きくしたのだった。
やたら鬼気迫る表情で高度な心理戦に挑んでいる様に見えていたのは、先日のバレンタインで暴走したシャルロッテからお詫びの品としてトランプやらテーブルゲームの類やらを貰ったので、昼休みの暇つぶしでポーカーに興じていたのだ。
途中キールが「せっかくだし何か賭けねぇ?」と何気なく提案し、備蓄のお菓子類を賭けていただけだったのである。
結果はアネットの一人勝ち。
途中まで互角の勝負を繰り広げていた彼らだったが、勝利の女神の気まぐれがアネット1人に降り注いだのか、彼女は中盤からフォーカード以上、ロイヤルストレートフラッシュ未満の強力な役を連続で引きまくったのである。
完全に流れを掴んだアネットは、彼らから巻き上げたお菓子を小出しにする安全策を取り、以降は、無謀にも負けた分を取り返そうと熱くなる2人を返り討ちにして破産(お菓子)に追い込んだのである。
「――あっ!アインさんここ揃いそうですよ!?」
「え、嘘どこどこ!?………あったぁ!!一列取れたぁ!!」
そんな彼らを他所にのほほんとソリティアで遊ぶアインとハヅキの姿が、余計にボロ負け(お菓子全損)したキールとゼフを惨めに強調するのだった。
「………いや待て……ちょっと待ておかしいぞオイ!?なんでこの人5回連続で俺らより良い役作れてんだっ!?」
「―――アリシアちゃんじゃ無いんだから別にイカサマなんてしてないわよぉ?」
「くっそ実際アリシアさんよりマシな範囲だから何も言えねぇ!?」
巻き上げられた悔しさと、さっきから自分達より良い役を出しまくっているアネットに疑惑の目を向け、イカサマをしているんじゃないかといちゃもんをつける始末だが、心外だと言わんばかりに不服そうな顔をするアネットにやっぱり言い負かされて、悔しげにテーブルを叩く事しか出来ないキール達だった。
「……ちょっと…どうしてわたしがイカサマの常習犯みたいな扱いなのよ?」
そんな彼らから離れた所で勝手に引き合いに出されたアリシアは、シャルロッテから貰ったジェンガを積み上げてお城を作りながらも、不快げに口元を引き攣らせて彼らにクレームをぶつけた。
実は何を隠そう。アリシアは身内の中での勝負だとかなり手癖が悪くなるのだ。
元々、気質的にかなりの負けず嫌いの彼女は、過去に冒険者になりたての頃に、ロマンとウルフの3人で「親睦を深める」という名目でポーカーをやった事があったのだが、いかんせん、揃った面子が碌でなししかいないのがいけなかった…
ポーカー初心者のアリシアに対し、遠慮とか手加減とかの文字が頭に無いロマンが大人気なくゲーム中にイカサマを働くのだ。それも何回も。
結果途中までロマンが圧勝し、不正に気がつかず普通にやって負けていると、悔しそうに顔を真っ赤にして膨れるアリシアと、イカサマに気づくも証拠が押さえきれずに不満そうなウルフを煽りまくる。ほんと大人気ない……。
そんな彼に呆れていたウルフは、仮面に隠れているが明らかにドヤ顔をして初心者と経験者を煽り倒すロマンに、とうとう堪忍袋の尾がぷっつんと音を立てて千切れてしまい。調子にのりすぎたロマンに制裁を下す為に、彼もイカサマに手を出すのだった。
アリシアより長い間、ロマンのイカサマ被害を受けてきたウルフは、彼に対抗する為にイカサマの技術をこっそり磨いていたのだ。
イカサマを行うロマンより強い役をしれっと袖に仕込んだカードで作りつつ、アリシアが一番強い役を引ける様に、山札を気づかれない様細工し、ディーラー不在の中、彼女が勝てる様に違法カジノのディーラー並みの手腕で場をコントロールするのだった。
最終的な結果は、当初と打って変わってロマンの惨敗。逆にアリシアが戦績トップに成り上がって、ウルフが二番手として君臨したのだった。
散々イキリ散らして煽りまくった挙句、最後は初心者にボロ負けする屈辱を味わされて真っ白になって膝から崩れ落ちたロマンの姿に、途中から運気が向いて、最後はスペードのロイヤルストレートフラッシュで文句無しの逆転大勝利を納めたと思い込んでいたアリシアは、溜飲を下げてふんぞりかえり、気持ち良く勝利の余韻に浸っていたのだった。
ここで綺麗に終わっておけば彼女は今後イカサマの技術を覚える事はなかったが…
『――うそでしょぉ!?イカサマしていたのにぃ!!』
なんとよっぽど悔しかったのか、灰になった放心状態のロマンはゲーム中、終始イカサマを働いていた事をうっかり彼女達の目の前で暴露。
その一言に冷や水を打った様にテーブルが静まり返り、これ以上ロマンがボロを出さないように口封じの手刀を叩き込もうと動くウルフの姿を見た彼女は。自分の勝利が当時一方的に嫌っていたウルフによって仕組まれた物で、なおかつ気を遣って斟酌されたという事実にたどり着いて、有頂天だった気持ちが冷めきり、プライドを傷つけられてしまった彼女は機嫌を損ねて拗ねてしまったのだ。
この日以降。彼女は、ポーカーはイカサマありきのゲームと勘違いし、不正を見破るのでは無く、技で相手を騙して勝利を掻っ攫う方へと、間違った努力を積み重ねる方角へ舵を切り、数週間過ぎた頃には、プロ顔負けの腕前を間違った努力の末に手に入れたのだ。
流石に本人が自重してカジノとかでこの余計な腕前を披露する事はないが、この3人でゲームをすると、勝負内容が「如何にバレない様に相手を騙すか」と身も蓋もない泥試合(ロイヤルストレートフラッシュを出したら負けの謎ルールまで追加された)になる為、アリシアに悪い影響を与えた事に責任を感じたウルフによって更生されたものの、それでもカードゲーム全般になると条件反射で、無駄に鮮やかな手際でイカサマを働こうとする悪癖までは治らず。過去、それの武者修行中に堅気じゃない人間と余計なトラブルを起こした前科もあって、さすがに反省したものの、身内間でのカードゲーム全般を禁止されたのであった。
その後も、ダメ人間のロマンの悪い影響を受けて思春期を過ごしたウルフを媒介にして、ロマンの悪影響を受けて育った結果、こうして残念姫騎士アリシアさんが出来上がったのだった。
「……だってアリシアさん直ぐトランプでイカサマするじゃないですか!!なんすか三連続「ロイヤルストレートフラッシュ」って!?なんで3回連続で絵札3枚握れてんですかっ!?どんな天文学的数字が働いてんすか!?」
「しかもポーカー初心者にそれします普通!?あの時班長とスカディさんが居なかったら、オレら見ぐるみ剥がされてましたからね!!」
「うぐっ……」
不服そうに申し立てたクレームは、当時、彼女のイカサマの被害に遭いかけた2人によって糾弾され、結果申し訳なさそうに言い淀んだのだった。
あれから三、四年経って尚、未だに悪癖が治っていないアリシアの事を何も知らずに、勝負をふっかけてコテンパンにされたアインを含めた3人は、彼女の手腕が完全にトラウマになってしまってた。
それとどうでも良い話だが、今、何気に初めて彼らが正論でアリシアを言い負かす珍しい光景が、誰も気づかぬ間に繰り広げられていた。
そして過去さりげなく後輩達をカモろうとした天罰が降り注いだのか、たじろいで後退した時に昼寝中のスカディの尻尾に躓いてひっくり返ったアリシアは、自分で作った渾身の出来のお城を巻き込んで、自ら倒壊させてしまうのであった。
「あぁ〜〜!?わたしのヴィクトリア城がぁ〜っ!?」
床に悔しげに手を突いて悲痛な叫びをあげるアリシアの姿に、なんで積み木で無駄に立派なお城を作れるの?とか、そもそもジェンガの遊び方が違うとか、色々ツッコミどころはあったものの、後の事は、涙混じり彼女のヘイトを一身に受けている寝ぼけ目のスカディに任せることにしたのだった。
つついた蛇が出そうだったとかでは決して無い。
「…………ただいまぁ……」
もういっそやっかみで、ハヅキとイチャついているアインを賭けの対象にしようか?と2人がゲスい悪巧みをし始めたところで、元気のないウルフが、ふらぬらと帰ってきたのだった。
項垂れ、顔色がやたらと悪く、足元もおぼつかないウルフの姿に、一同は首を傾げるも、喧嘩をしていたアリシアとスカディは彼が帰って来るなり、直ぐ様何事も無かった様に取り繕ったのだった。
「――おかえりなさいウルフ」
「会議どうだった?元気がないけど大丈夫?」
あまりの変わり身の早さは思わず呆れる程だった。
先程まで幼稚な喧嘩を繰り広げていたとは思えない程に騒いでいた痕跡を消して、ウルフに詰め寄るアリシアとスカディだったが、いつもならここで何かしらのリアクションが返ってくる筈が、今日に限ってはノーリアクション。
それどころか、さらに肩を落として申し訳なさそうに震える始末。
「――――ら………」
「ちょっと。ほんとにどうし………ら?」
「どうしたんすか班長?」
2W徹(2週間徹夜の略)をした時の方が、もっと元気そうに見える程に意気消沈しているウルフの姿に、自然と注目が集まったのだった。
そして顔をあげたウルフは、申し訳なさそうな表情で、決壊寸前の涙腺をなんとか引き締めながら、昼休みまで掛かった予算会議の結果を彼らに報告するのだった。
「――来年度の予算………おれらのギルドの総額が削られまくって30万ルビィしか本部から支給されませんでしたぁ!!」
「………え?」
「えっ?」
「え」
「――えっ?」
「ゑ??」
「ェっ……」
「えぇ!?」
アリシア達は、ウルフの発言の意味が理解出来なかった。
ウルフの爆弾発言が聞き間違いじゃないのなら、「調和の証明」は30万ルビィしか来年度の予算を貰えないという事になる。
それを問題児揃いのこのギルドで分配するとなれば明らかに足りなくなる。
最早このギルドの壁がいつも通りに吹っ飛べば最後、破産まで一直線になってしまう事になるのは想像するまでも無かった。
『――――ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇっっ!?!?!?!?』
おまけ
アリシアの遍歴
アリシア、当時15歳。
王族の習わしで市井に溶け込む為に冒険者デビューする。
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アリシア15歳
騎士を辞めたロマンと再会する。その後色々あってウルフとバディを組む事になる。
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当時自棄状態から復帰したばかりで、今ほど自制出来なかったウルフから、間接的にロマンの悪影響を受ける。
↓
アリシア19歳
ロマンの悪影響を受けて成長したウルフを見て育った結果はっちゃけ、今の残念な性格の姫騎士アリシアが出来上がる。ぶっちゃけ大体ウルフが悪い。
なにこれひでぇ……。
ウルフが自分の所為でアリシアが駄目人間になってしまった事に気がつくのはもう少し後になるかなぁ…




