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迫る嵐。伸ばした手の先



「走れ!!早く!!」



 背中を木々を薙ぎ倒しながら吹き荒ぶ爆風に叩かれながらも、黄金(ゴールド)級冒険者のニック・スティンガーは残った仲間を先導しながら森の出口を目指してた。



 


 彼らは8人で活動する「調和の証明(ユニオン・サイン)」冒険者パーティ「チーム・ニードルズ」を名乗り、「青銅(ブロンズ)級」が3人、「白銀(シルバー)級」が3人、「黄金(ゴールド)級」が2人で編成されたギルドの中ではそれなりの中堅に位置するパーティだった。




 当初ヘカーティアから数百キロ離れた郊外の森で稀少な薬草を採取して、納品するだけの彼らにとっては簡単な依頼を受けて、もしもの可能性を想定して装備や応急キット。遭難した際の保険に食料やコンパス、周辺地域の地図など入念に準備を行なって森の奥へと進んでいったのが彼らの不幸の始まりだった。













「――くっそ最悪だ!!今年はまだ観測されていなかっ―――」



「文句を言ってないで走れ!!」




 目的の薬草を入手し、後は森から脱出して帰るだけになった所で突如森の雰囲気が変わった。





 突如強風が吹いて木々が唸る様にざわめき、地面が揺れるように細かい振動を繰り返す。



 異変を察知し、不気味さを増す鬱蒼とした森からの脱出を優先した彼らだったが、彼らを追いかける様に細かい振動が段々と大きくなり、けたたましい地鳴りを響かせながら、複数の何かが群れを為して森の奥から迫ってくる。






 最初に犠牲になったのは殿を務めていた「黄金(ゴールド)級」の盾使いで、ニックの相棒の男だった。



 周囲を警戒しながら森から逃げる彼らを庇う為に単独で盾を構えた彼は、群れの先頭として飛び出して来た、帯電する巨大な角を持つ鹿の様な魔獣「イカヅチヘラジカ」の角一撃で跳ね飛ばされ、後列の複数の魔獣達に踏み潰されて見るも絶えない姿に変わり果ててしまう。



 次に命を落としてしまったのはチームの中で1番若い魔術師の少女だった。


 パーティの中で1番体力が少なく、盾使いの前でなんとか味方のフォローを受けて脱出を目指していたが、なす術もなく命を落としてしまったチームの最大戦力の1人の、先輩冒険者の姿を見て硬直し、我に帰る間もなく、勢いよく突っ込んできた刃の様な牙を持つ「サーベルボア」の突進を受けて、腕を残して吹き飛ばされ、飛ばされた直線上に生えていた木に激突し、血の塊を吐き出してそのまま動かなくなってしまった。





 突然訪れた仲間の死に、動揺が広がり、悲しみ、激昂し、混乱する頭をなんとか切り替えたリーダーのニックは、無謀な仇打ちに走ろうとする仲間達をなんとか諌め、雑多な種族の魔獣の津波からの逃亡を指示し、自ら先陣を切って仲間を誘導するのだった。














(―――どうにかならねぇのかちくしょうっ!!)



 ここまでの道で更に仲間を失い、彼を含めて元の人数の半分となったチームを誘導しながら内心で悪態を吐く。



 ここで仲間達に手詰まりだと弱音を吐こうものなら瞬く間に士気は崩れ、あっという間に全員あの魔獣の行進に踏み潰されてしまうだろう。






 ニックは20年以上冒険者として活動するベテランだ。




 仲間の出会いと別離を繰り返し、すいも甘いも噛み分けた彼は、長い経験の中で熟成され、その自信と経験でパーティやギルドに貢献して来た。




 そんな彼だがどうしても、更に上の「魔導銀(ミスリル)級」冒険者の肩書を手に入れる事は出来なかった。


 












 ――いや……手に届く事すら無かった。















 ルーキーから僅か2年で「黄金(ゴールド)級」に成り上がり、更に上を目指す野心を抱いたニックと相棒は結成されて間もない「調和の証明(ユニオン・サイン)」でなら楽に「魔導銀(ミスリル)級」へ昇格出来ると踏んでギルドを移ったニック達だったが、その最後の最後までその先の栄光を得る事が出来なかった。



 違う。




 「魔導銀(ミスリル)級」冒険者達の得体の知れない何かに絶望し、恐怖を覚え背を向けて逃げ出したのだ。








 今のギルドの「魔導銀(ミスリル)級」冒険者は、「輝きの8人」と呼ばれる8人で構成され、皆飛び抜けて頭がおかしく、狂気的で、そして明らかに他の追随を許さぬ何かが、狂った様に撃ち込み続けた努力で築き上げた何かが、生まれながらにして授けられた(取り憑いた)何かが、「魔導銀(ミスリル)級」と「黄金(ゴールド)級」の冒険者の間に、分厚く、高く、壊すことも乗り越えることも出来ない隔たりで遮られていた。





 見えない死神と恐れられ、「依頼の達成率100%」のあり得ない記録(レコード)を叩き出した「ミス・パーフェクト」ビビ・スカーレット。



 多数の有力な魔法使いを世に解き放った、「紫水晶《アメジスト》の塔」出身の何を考えているのか全く分からない男。「鋼の賢者」マックス・ブラウン。



 いつの間にか医務室を根城にして医師として活動し、夜な夜な人体実験や、勝手に肉体改造を施そうとする「不死」に取り憑かれた倫理観皆無の闇医者。

 患者を救うこと以外に良心的な思考が無いその男の名は「医務室の狂人」ブラッド・スネーク。



 かつて将来を有望視されていたが、終戦前、敵対中の魔族を匿った罪で「紫水晶(アメジスト)の塔」を追われた。調査班と技術班を掛け持ちする問題児筆頭のアル中魔女。魔道具絡みのトラブルは大体彼女の所為。

 「全知全能」アネット・バーガンディー。



 「魔導銀(ミスリル)級」冒険者一の常識人。

怪力無双。剛腕乱舞。

 戦斧を振るって嵐を呼ぶ元魔王軍の女鬼人(オーガ)

 二大姉貴の片割れが1人。「女戦士(アマゾネス)」ヘルガ・ライオット。



 その眼から誰も逃げられない。

 正確無慈悲に何千里と離れていても獲物を撃ち抜く経歴不明の無口な元傭兵。

最新鋭の改造ライフルを手に、敵を撃ち抜く冷血漢。

 「掃除屋」クロウ・ホークアイ。



 聖女は全てを受け止める。

 嘘か真か、五百を超える傭兵達を説き伏せ、交戦する事無く改心させ、撤退させたと言われる慈愛のシスター。

 「恍惚」のセリカ・エンバー。



 その瞳は龍への憎悪で燃えたぎる。

生涯の全てをドラゴン討伐の為に捧ぐ、文字通りの狂戦士。

 ドラゴンを憎み、ドラゴンに怒り、ドラゴンのみを獲物とする「ドラゴンハンター」。

 「龍殺し」ジーク・ハンネマン。








 その常軌を逸した経歴や能力を誇る彼ら(化け物達)の更に遠くに…いや、遥か別次元の強さを誇る3人の「不壊煌石(オリハルコン)級」冒険者達。



 いざ闘いとなると、身の丈程の両手剣を片手で振るい、普段は民に向ける慈愛の表情を一点させて歴戦の戦士となる「吹雪の化身」。

 「姫騎士」アリシア・フォン・ベルベット・カルロス・ヴィクトリア。



 あらゆる物を焼き尽くして進撃し、全ての敵兵に等しく理不尽な死を与えたかつての魔王軍切り込み隊長。

 歩く煉獄と名高い「黒龍の騎士」スカディ・イオ・ドラゴニア。



 3人の中で最初に龍殺しの偉業を成し遂げ、倒した風龍の魂を矢に込めて放つ百発百中のエルフの射手であり、二大姉貴の片割れ。

 「龍奏の射手」シェフィールド・ゼネライ。





 更に真偽不明だが、調査班の問題児達のリーダー。「猟犬」ウルフ・ダイドーや、支部長室の実質的なボス。「殺戮令嬢(キリング・レジーナ)」ローズ・カサンドラも「不壊煌石(オリハルコン)級」の実力を隠してると噂され。あの普段締まりのない顔をしてのほほんとしている支部長に至っては、得体の知れない魔法を使う「|王宮騎士団《国家公認のテロリスト集団》」の元副団長だ。







 そんな自分達を遥かに突き放す実力を有する彼らならと、らしくない思考にたどり着くが、例え彼らが孤軍奮闘の力を有していても、この魔獣の進軍を押し留める事で精一杯だろう。





 そう思わせる勢いと力が、()()()から逃げ惑う様に我先にと群れを為して迫り来る魔獣達が、土煙をあげ、地を鳴らし、暴風の追い風を背に受けて狂った様に木々を薙ぎ倒す彼らの鬼気迫る姿が、ニックにそう絶望を確信させたのだった。











「――ガッ!?こ、のっ!!」


「ニックさん!?」





 そして今度はお前の番だと言わんばかりに、逃げきれない事を確信したニックが魔獣の凶刃を受ける。






 彼らの足元を通り抜けてきた小柄な魔獣「一角兎」の角が、猛スピードで飛び出した勢いのまま、偶然先頭を走っていたニックの右太腿に深々と長い角を突き立てた。






 背後からの意図しない不意打ちを受けてバランスを崩したニックは、お返しと言わんばかりに何に突き刺さったのか分からずにもがく一角兎の首をナイフで刎ね、傷口から鮮血が噴き出るのも厭わず、脇道へと魔獣の亡骸を投げ捨てる。







 だが、槍を彷彿とさせる角が刺さった影響は大きく。突進を受けてバランスを崩し、無理矢理反撃したニックは、足をもつれさせて木の根が張った硬い地面に、側頭部から倒れてしまう。





「ガッ……ぐ…ぐ…」


「――ニックさん!!」


「しっかりして下さい!!」


「……お…お前ら……」





 ニックの脳裏に白い火花がちらつく、受け身を取れずに冷たい森の地面に倒れ、硬い木の根に頭を強打して、傷口から止めどなく地を流すニックに、残った3人の仲間達が集まる。





 朦朧とする意識とぐらつく視界には、唯一残った「青銅(ブロンズ)級」の新人が2人と、最近「白銀(シルバー)級」に昇格できたばかりの若い冒険者の仲間達が、彼を覗き込んで、助け起こそうと足を止めて覗き込んでいる姿が写りこむ。






 「馬鹿が」とニックは毒突いた。


 すぐ後ろに魔物の集団が死の象徴として迫っているのにも関わらず人を助けている場合かと。


 「今すぐ俺を見捨てて逃げろ」と彼なり良心から来る叫びを、聞こうともせず最期の最後まで苦楽を共にしたリーダーを助ける為に命を投げ捨てようとするあまちゃん達の姿が、死を受け入れる覚悟が出来ていたニックを余計にイラつかせた。



















 そして極限状態の中に見出した光明は、時に人を狂わせる。





 仲間達に肩を貸されて起き上がったニックは、既に目と鼻の先に迫っていた魔獣の集団を視界に入れ、そして自分に肩を貸し、迫り来る暴徒達から逃げる為に駆け出そうとする仲間達が淀んだ瞳に移り、弱った心に悪魔が囁いた。








 「コイツらを身代わり(犠牲)にすれば助かるのでは?」と…







 種類も体格も違う様々な魔獣達は、長い列を為して我先にと駆けて来るが、幸いにもあの行軍の横幅は思ったより広くなく、今肩を借りている仲間を思いっきり突き飛ばした勢いで大きく跳躍すれば、さっきから直進しかしていない集団の直撃コースから外れる事が出来そうだった。






 蜘蛛の糸に縋る様な気持ちで降って沸いた希望(誘惑)に、ニックの良心の呵責が引き止める。




 それでも地を鳴らす魔獣達は猛スピードで突っ込んで彼らの背後に迫り、踏み潰し尽くさんと言わんばかりに無慈悲に圧を掛けてくる。









 悩んだ末、咄嗟に勢いよく仲間達に向かって手を伸ばしたニックは、背後を振り返り、もうだめだと、躱す間も無く、死を受け入れるしか無い状況に絶望する後輩達を力の限り思いっきり突き飛ばす。













「――ニックさん!?」


「お前達は逃げろ!!良いな!?振り返るんじゃ―――」





 ニックは悪魔の囁きを振り払った。




 硬直した未来ある若者達を思いっきり脇道に突き飛ばし、自分の命と引き換えに彼らを助ける道を選んだのだ。








 「なんて最悪な終わり方だ…」そう内心で毒突きながらも笑ったニックの目に最期に映ったのは、いつの間にか宙に放り出されていつもより近くに感じる鬱蒼とした森の高い木々の枝と、涙を流しながら自分の名前を呼ぶ命を賭して守り切った仲間達の泣き顔を最後に、彼の意識は二度と戻って来る事は無かった。
















 数年に一度、島国のヴィクトリア王国の領域である「ケルグランド諸島」の何処かで、春を迎える頃に突如謎の嵐が発生する。





 その嵐は近くに生息する魔獣達を貪り食う様に、生きている様に移動を開始し、それから逃れようとする魔獣達が大群を為して一直線に駆けていく。





 押し寄せる魔獣達の暴走によって過去に街一つを潰す程の壊滅的な被害を叩き出し続けるその災害の名は「春一番」。






 ニックが助けた仲間達が「調和の証明(ユニオン・サイン)」に命懸けでこの情報を持って帰るのは、また後の話である…。


おまけ


 「魔導銀(ミスリル)級」冒険者戦力内訳





 ビビ (泣き虫、会話可能)

 槌使い:前衛



 マックス (筋肉バカ、意思疎通可能)

 賢者:前衛



 ブラッド (元闇医者、ギリ意思疎通可能の要注意人物)

 外科医:医療支援



 アネット (トラブルメイカー、一応会話可能)

 魔法使い:後衛



 ヘルガ (元魔王軍、常識人)

 斧使い:前衛



 クロウ (元傭兵、人前にあまり出ないので会話不能)

 狙撃手:後衛



 セリカ (シスター、大体意思疎通不能)

 僧侶:前に出たがる後衛



 ジーク (元農民、ドラゴンが絡むと暴走する)

 狂戦士:前衛












 大丈夫かこのギルド………。

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