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大人しくて人懐っこいのでペットとして人気です



 ゼフ・ドンゴは硬派だ。(自称)


まだ思春期真っ盛りの彼はモテオーク(男子)を目指す為に日夜筋トレに励み、尊敬するウルフから紹介して貰った一般教養の参考書の問題を毎日ノートに解いていく。




 そんな勉強熱心な彼は、毎朝駆け足でギルドに汗を流しながら出勤してる最中、いつもの通勤ルートの途中にある路地裏で、ゴソゴソとごみを漁るとんがった耳を見付ける。




 野良猫でもいるのかと怪訝そうな表情で足を止めたゼフは、脇目も振らずにゴミを漁るピンク色した何かを摘み上げる。


 190センチを超える強面に捕まったにも関わらずにツルッとしたゼラチン質の体を持つ小さな魔獣はつぶらな瞳をゼフに向けると尻尾をピンと立てながら無邪気な鳴き声をあげるだけだった。




「――にゃんぷい」












「ということで拾って来ちまった…」


「何ですかこの子!?すごいかわいい!!」




 結局何か別の力によって、ネコ耳を有するピンク色のスライムを放っておけなくなったゼフは、執務室にこの桃色ネコ耳属性過多のスライムを連れて来てしまったのだ。



 真っ先につぶらな瞳とネコ耳の手足の無い丸っこいゼラチンボディの可愛らしい容姿に反応したハヅキがスライムに向かってかわいいと連呼するが、つい最近スライムによって酷い目にあったばかりなので机を2個挟んだ距離を取っていた。



「――こいつは『スニャイム』か?……ピンク色した個体は初めて見たぞ…」


「珍しいのか?」


「……多分…」





 何気に調査班の中だと年長者の枠組みにいる。キールが物珍しそうな表情でネコ耳スライムことスニャイムを抱き上げる。

 割と長い間生きていて植物や生物に詳しい彼でも、ピンク色の体色をしたこのスニャイムは珍しい個体の様だが、そんな奇異の視線を向けられて抱き上げられているスニャイム自身は、眠たそうに大きなあくびを繰り出すだけだ。


 抱き上げられて捕まっているとは思えない程緊張感の無い挙動に、当初物珍しげな視線を向けていたキールも、暴力的な癒しオーラを放つ小動物(スニャイム)にほっこりとした視線を向ける。チョロい。





「―――かわいいなぁ〜。こいつぅ…」


「だろぉ〜?」



 だらし無いくらいに緩み切った表情でスニャイムを撫で回すキールを引き摺り込む様に相槌を打つゼフは、「スニャイムって何を食べるのかなぁ…」と破顔した顔で図鑑のページを捲ってスニャイムの生態を調べる。





 そんな彼らから距離を取られる様に離れた場所で、毛糸玉やら猫じゃらしやらを用いて意地でもスニャイムの気を惹こうと、必死こいてアピールをする聖職ゾンビが1人……。




「ほらほらおいで〜。……ネコちゃんおいで〜」


「――ぷい」



 動物好きのアインだったが、悲しいくらいに彼は動物から嫌われるたちだった。



 ゾンビ特有の発酵する様な酸っぱい臭いが動物達から嫌われる原因なのだが、これは生まれ持ってしまった種としての特性なので可哀想だが仕方が無い事だ。



 野良犬には、死体を漁りに来た感覚で噛みつかれ、野良猫からは一目散に逃げられ続けた結果、生まれてこの方動物好きなのに動物をまともに触れる機会が無かったアインは、意地でもスニャイムを撫でてやろうと躍起になっていた。




 スニャイムと視線の高さを合わせる様に腹這い寸前になるまで膝を曲げ、目を血走らせて荒い吐息を吐きながら猫じゃらしなどのおもちゃを振り回すほぼ不審者と化したアインがよっぽど不気味だったのか、キールの手を離れたスニャイムは、目に映るもの全てが珍しくてあっちこっちを興味深々で跳ね回っていたが、アインの周りだけを明らかに迂回していた。




 香水で誤魔化して尚、敏感に発酵臭を嗅ぎ取った優れた嗅覚にまたもや敗北をきっしたアインは無惨にも泣き崩れ落ちていくのだった。





「……そういや首輪着いてないから野良だろこいつ?」


「オレの職員寮ペット禁止だったもんな〜…」




 さめざめと体育座りで敗北の涙を流す友人を傍に置いて、再びスニャイムを捕まえたキールは、不思議そうな顔をするこの愛玩魔獣の首周りに首輪がつけられていない事をあらゆる角度で覗きながら確認する。




 半透明で、猫に近い特徴を持つこのスニャイムという魔獣は、魔獣の中でも特に小柄で、育て方を間違えると巨大化して家屋を破壊してしまうサイズにまで成長してしまうケースもある事にはあるが、おとなしくて人畜無害で愛くるしいその姿から、魔獣には珍しくペットとして犬、猫並みにポピュラーな存在だ。




 もちろん飼い主は野良と見分ける為に首輪を装着させることを義務付けられるが、青や赤の体色が8割を占めるスニャイムの中ではピンク色の体色をした珍しい個体だ。


 そんな明らかにレアな存在が逃げ出したら間違いなく飼い主は血眼になって探すだろうし、何より回覧板とかですぐさま情報が出回る筈だが、この生後1年くらいの大きさのスニャイムが逃げ出したという話は全く聞いた事が無いし、今はなすがままにアイン以外から撫でられているが、多数の人の気配がするギルドに連れてきた途端に警戒する様に忙しなく尻尾を左右に振っていた為、首輪を着けていた形跡の無いこの個体は今まで野良として生きてきたのだろう。







「………キール。どうよ?」


「うちは姉貴がメンドいことになりそうだからパス。……ハヅキは…?」


「――私もスライムにはいい思い出が…」




 連れて帰って来た以上、再び野良として野に解き放つ事に引け目を感じたゼフ達だったが、トラウマ持ちのハヅキと隠れかわいいもの好きの姉が暴走する未来を予知したキールでは、このスニャイムを引き取る事は難しかった。







「………じゃあおれが…」






「班長はどうすか?」


「――うちは既に大食らい2人を養っているから無理」



 立候補するアインを見なかったことにしたゼフは、ずっと会話に参加せずにギルドの予算配分会議に向けて資料を作成していたウルフにも助けを求めるが、手を止めた彼が両手で大きなバッテンを作って首を左右に振った為、希望が絶たれてしまう。


 それと再び膝から崩れたアインの背中をさすって励ますハヅキを何気に見逃さなかったキールとゼフは、「――あの2人最近距離感近くね?」と関係ない疑念を深める。





「……そう言えばスカディさんは分かるんですけどアリシアさんも大食いなんですか?」


「少なくともギルドの収入だけだと確実に家計が傾くくらいには食うぞアイツ」




 これ以上ペットの話題が続くと、今後一切動物に懐かれる見込みのないアインが延々と追加ダメージが入ることになるだけなので、それを避ける為に機転を効かせたハヅキが脂汗をを流しながら咄嗟に話題を変える。


 ハヅキの目論見通りに本人がいない事で油断し切ったウルフがそれに食いついたのだった。





「あいつさぁ…初めて会った時から体型とか体重を気にしているくせにめちゃくちゃ食い意地張ってんだよ。この前なんか変装して近所の定食屋が開催していた大食い大会でこの机くらいあるハンバーグをペロリと食い切って優勝――」






 本人的には恋人の可愛らしいギャップを自慢したかったのか、いつも以上に饒舌に喋っていたウルフの顔が突如消えた。




 いや、消えたのではない。


 音も立てずにいつの間にか帰ってきたアリシアが、目にも留まらぬ速さで椅子に座ったウルフの背後を取り、愛剣ブリュンヒルデを頭上から思いっきり振りかぶって無防備なウルフの後頭部に音を置き去りにする速さの峰打ちを叩き付けただけのことだった。



 不意打ちの威力に負けて顔面を頑丈な机上にデスマスクがくっきり刻みこまれる程に思いっきり鼻っ柱から机に叩きつけられたウルフは、作っていた書類を衝撃で撒き散らしながら派手な轟音と共に意識を刈り取られてしまう。






「―――何も聞いていない……良いわね?」


『イエスッ!マム!!何も聞いておりませんっ!!』



 ウルフを物言わぬ骸に変えて口封じを終えたアリシアは、禍々しい波動を放ちつつ一見すると美しい暗黒微笑を浮かべてゆっくりと、いつから居たのかと戦慄するキール達に顔を向ける。


 小さく悲鳴をあげた彼らにドスの効いた声で釘を刺し、完全に怯え切ったキール達4人は規則正しいビシッとした敬礼で応えた直後に一目散に執務室から我先にと逃げ出していく。



 あれは人殺しの目だった。


あれと目を合わせたら次に物理的な方法で記憶を消される(ヤられる)のは自分だと本能で理解してしまった彼らは、内心で荒れ狂う憤怒の感情を笑顔の仮面で押し留めているアリシアに完全に恐れを為してカタカタと小さく震えるスニャイムを庇う様に猛ダッシュで逃げ出したのだった。



















 その後も見知った顔を片っ端から当たってみたはいいものの……





『――その子は?………そう…拾ったのね………………まるまるとしてるわね……ってちょっと?なんで逃げるのよ?』




『ペットぉ?ごめんね〜。私もうペットがいるのよ〜。……え?見たい?しょうがないわねぇ…………はい。タカアシグモのエリーちゃんでーす。………えっ…大きすぎる?……明らかに脚の何本かを義肢に挿げ替えられた小型犬並みの大きさのタカアシグモが存在してたまるかですって?………やーねぇ。ここにいるじゃない?』




『――ごめんネコ耳が被っているからムリ』















「――なるほど……それで最後は私を頼るしかないと…」



「不本意ながらもう頼れるのが支部長くらいしかいないんですよ!不本意ながらっ!」


「支部長ならいい年こいて独身だし、無駄にお金貯め込んでそうだし、時間や家のスペースも持て余してそうだから大丈夫かなって!」


「家に帰っても誰もいない寂しさをどうかこの子で紛らわしてください!!」


「お願いします支部長!!」


「――うん君達まず人に頼み事をする時に相手をディスるなと親から習わなかったのかね?」




 実際全部事実だから言い返すことのできないロマンは、巡りめぐって「うちの支部長って金とか時間とか持て余してそうだから大丈夫じゃね?」と失礼な理由でスニャイムを連れてきた4人に頭を深々と下げられながら、机の上でうとうとと居眠りしているスニャイムを撫でていた。







「――そもそも私がまともにペットの世話をできるとでも?」


『ですよねぇ……』




 ――がしかし、自らダメ人間なのを自覚しているロマンの、的のど真ん中をダーツどころか掘削機(ドリル)をぶん投げてぶちぬく様な質問に、ダメ元で頼み込んできた彼らは揃って肩を落とす。



 その様子に少ない良心が若干揺れたロマンは、考え込む様に右手を顎に添えてしばらく考え込むと、知り合いでペットを飼えそうな人物を割り出し、彼らに教えるのだった。






「――ここは秘書さんとかどうだろうか?」


「秘書さん……って…ローズさんすか?」


「あの人規律の鬼みたいな所があるからギルドに魔獣連れ込んだなんて知られたら爆殺されるんじゃないかなぁ…オレ達…」





 ロマンとしては名案のつもりだったのだが、キール達の反応は良くなかった。


 彼らの中ではローズといえば、支部長を飼い慣らして暴走を制御し、時には実力行使も用いてやらかしたロマンにお仕置きを行う彼とは真逆の場所にいる真面目を通り越した堅物人間というのが彼らの見解だった。




 実際自由人が半数以上を占めるギルド内部の風紀委員もとい規律そのものと化している為、オイタばかりしている冒険者や職員からは恐怖の象徴として恐れられているのだ。



 そんな彼女に無害とはいえ、魔獣を連れ込んだなんて知られたら間違い無く殺される。爆殺される。






「――君らが思う程秘書さんは怖い人じゃないって……結構優しい人だよ?」


「えぇー…あの堅物委員長みたいな人がですかぁ?」




















「――申し訳ありませんね。堅物なのは生まれつきなので」


『ぴぎゃぁぁぁぁぁぁあっ!?』


「あっ。秘書さんおかえり〜」





 ローズとの付き合いが浅いのもあって彼女に怯えるキール達に苦笑しながら相方のフォローを入れるロマンだったが、いつの間にか両手一杯の資料を抱えて戻って来たローズに、音も無く後ろに立って突然声をかけられた事で驚いたキール達が悲鳴をあげて跳び上がる。


 そんな彼らを尻目にのほほんとした雰囲気のロマンは気さくにどこかむすっとした表情のローズを労うのだった。




「……珍しく仕事にやる気を出していると思えば…何かと私に無茶振りをするのをやめて貰いたいのですが…」


「ごめんごめん。ギルド(ここ)の書庫の全貌を把握しているの管理人を除いて君しかいないからさぁ」


「………貴方の方が、大量の書類を運ぶのに向いていると思うのですが………おや?」




 苦情と皮肉をロマンに垂れ流していたローズだったが、机の上で丸まって眠るスニャイムを見つけると怪訝そうな表情を浮かべながらスニャイムを抱き上げる。


 スニャイムがローズに見つかってしまった事に顔を青褪めさせたキール達は、大慌てで彼女からスニャイムを守ろうとするものの、ローズの意識は完全にスニャイムに向いてしまっていたのだった。




「あぁ!?ローズさんそいつは!!」


「――見たことのない色をしたスニャイムですね?」


「いいでしょ?ゼフ君が拾ったってよ」




 ほう。とどこか思案深げに4人に向けて振り返ってローズの視線に射抜かれて、思わず肩が跳ね上がってしまう。まずい。ヤられる。首輪を魔獣をギルドに連れ込んだ事を問いただされて最後は目の前でスニャイムを処分される。


 だが罪なき小さな命を救う為にもローズの眼鏡越しの鋭くも怪訝な視線に負ける訳にはいかなかった。




「ローズさんそいつに罪は無いんです!!どうか見逃してやってください!!」


「ガラス玉みたいなつぶらな瞳をしているのですよ!!コイツは悪い奴じゃないんです!!」


「魔獣を連れ込んだ件については罰でもなんでも受けるんでどうか!どうかその子を見逃してください!!」



「……どう言った事情で私が悪者扱いされてるのかは分からないですが…テイミングもしていない上に首輪をつけていない魔獣を連れ込んだ事については関心しませんね?」



 一気呵成の勢いで、スニャイムの存在を見逃す様に嘆願を捲し立てるキール達だったが、呆れた様に溜息を吐いたローズの正論によってその勢いを失ってしまう。


 そんな彼らを咎める様な口調で静かに、穏やかさの中に力強さを含んだ口調でローズは彼らを諭すのだった。




「……基本的に大人しいスニャイムだったから良かったものの、魔獣にはふとした事で突然凶暴化して人を襲う種もいます……そんな魔獣がギルドから街へと解き放たれてしまったら大変な事になりますよね?」


「――そ、それは…」


「それに飼育できる暇が無いにも関わらず野良魔獣を拾ってきたのも見過ごす事はできません。…一度人の手の入った動物は、再び野生で生きていくのに苦労するのですよ?…何も考えずに連れて来ると逆にこの子が可哀想な事になると考えたことは無かったのですか?」


「す、すいません……」




 聞き分けのない子供を諭す様に正論を並べて静かに彼らを窘めるローズの手によって、キール達4人は完全に俯き、しおれてしまっていた。



 そんな彼らの姿を見て、「分かればよろしい」と締めくくったローズは、疲れた様に溜息をつくと、まだオネムのスニャイムを慈しむ様に優しく

撫でるのだった。



 





「……今回は被害が出て誰かに迷惑をかけた……という事にはならなかったのでこの件については全員不満とします」


「ロ…ローズさん?」




「――それとこの子に関しましては、私が面倒を見る事にします。……ちょうど支部長室のねずみ取りが欲しかった所なので」


「そ、それじゃあ…」




 ハヅキの喜びを堪える様な絞り出す様な声に、はいと答えたローズは柔らかい笑みを浮かべてずり落ちかけていたスニャイムを抱え直す。


 抱え直した振動で目を覚ましたスニャイムは眠たげな瞳を瞬かせて、不思議そうに周囲を見回すと優しい笑みを浮かべていたローズと目が合う。


 嬉しそうに一鳴きしたスニャイムに柔らかく微笑んだローズは、胸の中で甘えて来る小動物を赤子の様に優しく撫でるのだった。







「――この子は私が預かります」


「――ロ…ローズさぁぁぁぁぁん!!」















 それから数時間後……


「――はいご飯ですよ」


「にゃぷ!!」




 その後、わざわざ専門店で首輪を調達してきたローズは、甘えて擦り寄って来るスニャイムの首にきつくならない程度に首輪を着けてあげると、普段仕事中では見せない柔らかい笑みを浮かべてスニャイムを構い倒すと同時進行で仕事を捌いていったのだった。


 ただ、お昼ご飯としてプリンを与えるその様子は一見微笑ましいが、彼女のプリンジャンキーぶりを知っている者から見たらどう考えてもプリン狂いを増やそうとしている様にしか見えなかったが、それはそれ。これはこれ。


 ようやく引き取り手を見つけたキール達は、昼休みを使って様子を見るついでに支部長室に遊びにきたのだった。




 あの後、調査班に割り当てられた執務室に戻ったら、頭を包帯でぐるぐる巻きにしたウルフが殴られた前後の記憶を忘れていたのは全く関係が無い。


 殺人鬼の様な無機質な目で口を滑らせないかを監視していたアリシアが怖くて逃げただけとかそんな事実は存在しない。


 無いったら無い。






 身近で今もきっと現在進行形で起こっている恐怖体験を頭の中から消し去る為にスニャイムに癒されにきて(逃げてきた)愛くるしいその容姿と挙動にほっこりしていた4人だったが、その直後事件に巻き込まれてしまう。




 突如、ピタッと動きを止めたスニャイムはその場に蹲ると力む様にゼラチン質のプルプルした身体を震わせる。


 しばらく震えているとお尻の方からぽとっと、ナニカを排出し、それが身体の中から完全に出て行ってしまうと、スッキリした様な表情を浮かべた。



 要は生き物としての生理現象(あれ)をしただけである。




「あっはっはっ!ローズさんに怒られる…ぞ…」


 出すものを出してスッキリした顔をするスニャイムを煽りながら爆笑していたキールだったが、ふとローズの方を見た瞬間にみるみると顔から血の気が引いていく。



 キールが顔を青褪めさせるきっかけとなった当のローズはというと、支部長室の全面に敷かれているそれなりの値段はしそうな高価な絨毯の上で思いっきり粗相をしてしまったスニャイムを、まるで屠殺される家畜を見るかの様な据わりきった眼差しで見下し、昼食として齧っていた食パンの包み紙を千切り、魔力を込めて丸めていた。




 そんな不穏なオーラを漂わせるローズに気がついた他の面々が、キールと同じ様に顔を青褪めさせ、恐怖で身体を震わせつつもローズを諌めようとするが時すでに遅く、彼女は千切って丸めた紙屑をスッキリした表情のスニャイムの足元に向かって軽く放り投げた。






 ここで少し特殊な魔法について説明しよう。


 基本的に魔法は、火、水、風、土と言った基本的な四属性を主とし、修練を積んだ者はそれを派生させて雷や氷といった別の属性に変換させることで日常生活でもそれを便利に使いこなし、食べ物を冷やしたり、灯りを点けたりなどで日常生活に活かす事が可能だ。そんな余程難しい魔法じゃなければ魔法使いじゃなくても簡単に使える魔法の中には、4分の1の確率でどの属性にも属さない固有魔法と呼ばれる特別な魔法を使える者が存在している。


 ローズもその4分の1の1人で、彼女が触れた物に魔力を注いで、無機物に限って爆弾へと変化させる「殺戮令嬢(キリング・レジーナ)」と呼ばれる魔法の使い手なのだ。



 その威力は本人の匙加減で閃光を放つだけの虚仮威しや、強固に造られた城壁を木っ端微塵に砕く大爆発まで自由自在に調整する事が可能で、その気になれば日用品の皮を被った時限爆弾を身体検査に引っ掛からせる事無く目的地に持ち込むが出来る危険な魔法。



 行使者本人の命令の伝達で起爆する為、よっぽど距離が離れすぎていたり、魔力を遮断する何かが間に入っていたら起爆出来ないという。あまり弱点として機能しない弱点が存在している事以外は非常に高い殺傷能力を誇る危険極まり無いこの魔法を、人間爆薬製造機と呼ばれる事が偶にある彼女が普段なにに使っているかと言うと…








起爆(めっ)



 着弾と同時にローズから発せられた起動の伝達により、包み紙だった物は甲高い破裂音と火花を上げて爆竹の様に何度も爆ぜながら、スニャイムに火花が飛ばない程度に周囲を焦がしてバッタの様に跳ね回る。




 普段から威力を抑えているこの魔法をロマンにお仕置き(しつけ)として用いているローズは、この度自分の庇護下(ペット)になったスニャイムにも容赦なく。一応ロマンに用いているものより更に小規模な爆発でスニャイムを躾けるのだった。





 そんな訴える所が訴えたら間違い無く訴訟ものな鬼畜の所業(飴と鞭)を涼しい顔で敢行するローズに、ロマン以下4名は顔を青褪めさせてドン引きし、爆発の餌食となったスニャイムも、うんこをしたと思ったら自分の周囲でバチバチと音を立てて何かが跳ね回った事に本能的な恐怖を覚えたスニャイムは、プルプルボディを恐怖でカチカチにして細かく震え、涙目で飼い主である女性を見上げる。



 当の女性は、生ゴミを見るような目から打って変わり、絨毯ごと糞の処理を終えると満足気に頷きながら屈むと、スニャイムに砂を詰めた猫用トイレの場所を指で指し示す。







「――もようしたらあそこでしなさい。いいわね?」




 絶対この人には逆らわねぇ……




 猛烈な勢いで頷くスニャイムを見て、改めてローズに恐怖心を植え付けられた一同だった。

おまけ





「今日からこの子の名前は『ももいろはるかぜニャップリン一号』とします」



「………正気なの秘書さん?」






 命名


ももいろはるかぜニャップリン一号(ローズ命名)














 更におまけ


 ローズって結構血の気が多い所以外は割と常識人に見えますが、実家のカサンドラ家は表沙汰に出来ない方法で反社会的勢力の抑止力として王国を守ってきた家系です。本人も数年前まで後ろ暗い仕事を躊躇なく引き受けて生きてきたので、ロマンとは別方向のろくでなしです。


 そんなろくでなしコンビの出会いのお話をいつか書ければなと

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