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我ら異種族3馬鹿トリオ

 休みながら、ちょっとずつ書いていこうと思います。

 「……疲れた…」



予想通りというかなんというか、支部長室から調査班の執務室に戻るまで、ウルフは職員、冒険者問わず質問攻めにあっていたので有る。

なにせ、第二王女とギルド職員のスキャンダルだ、食いつかない訳が無い。


純粋に祝福する者、好奇心で聞き出してくる者、嫉妬心を剥き出しにしつつも祝ってくれる者、祝いつつも殺害予告を出す者、賭けていたカップリングくじが外れて、その恨みをぶつけてくる者。


 (…どうでも良いが、最後の冒険者はゆるさん。次の訓練でシゴき倒してやる。)


だが執務室に帰った程度でウルフが一息つけるはずも無く…



「この新聞はどう言うことですか班長!!」



 新聞を突きつけてウルフに詰め寄るのは、身長190センチ越えの緑色の肌をした巨体を、筋肉ではち切れそうなスーツで身を包んだ、ゼフ・ドンゴはオーク族の少年だ。


 オーク族の中でも、死を恐れぬ戦士を排出してきた部族「ドンゴ」の出身でありながら、思春期特有の素直さと背中がむず痒くなるような感性を持つ可愛い奴だ。


そんな彼は、悔しそうに身を震わせると、ポケットに詰めていたピンク色の紙を空中に放り投げる。

 


「オレはスカディさんに全賭けしてたんすよ!?まさかアリシアさんを選ぶなんてぇ!!ちくしょう!今日からもやししか食えないじゃないすか!!!!」


「お前もかコラ」


 うわぁぁぁん、と膝から崩れ落ちるゼフを、ウルフは養豚場の豚を見るような目で見下していた。


そんなゼフを窘めたのは、自分の机でずっとわれ関せずを貫いて本を読んでいたエルフの少年だ。


「そこまでにしておけゼフ」


「キール…お前!」


「班長だって1人の人間だ。好きになった女ぐらい自分で選ぶさ」


「ちくしょう!お前が言うとなんか腹が立つ!」




 エルフの森出身のキール・ゼネライは、「エルフは美形揃い」の例に漏れず、すっとした鼻だちと切長の目から醸し出すもの静かな雰囲気は間違い無くイケメンで有る。



 「…で、班長はアリシアさんとヤったんすか?」


「ヤってねぇよ」



 ただしどうしようもない変態である。実際さっきまで読んでいた本はタダのエロ本だ。

 男女問わず性欲に振り切った変態発言を連発するせいで、「クソエルフ」、「セクハラクソエルフ」、「ゲスエロフ」等のあだ名(蔑称とも言う)をつけられた残念な男だ。



 「…でも羨ましいっすよ班長。アリシアさん美人だし、強いし、おっぱいおっきいし…あぁオレもめちゃくちゃ美人な年上のお姉さんとお付き合いしてぇなぁ…」


「そこに有る木材なら好きに使っていいぞ童貞」


木彫りしろ(作れ)ってか!?この童貞クソエロフ!」


 そして、ゼフとキールが喧嘩し出すのもいつもの事だ。別に特別仲が悪いというわけではないが、口の悪いキールがゼフを煽るせいで、不毛な喧嘩に発展するのはいつもの事である。


 取っ組み合いになった結果、力負けしてゼフにフルボッコにされるキールを見下ろしながらまた始まったと、ウルフはため息をつく。


 喧嘩(ほぼ一方的)する2人に対し「ほどほどにしとけよと」釘を刺して書類仕事を始めようとするウルフに、もう1人の班員が彼に注いだお茶を持ってきた。


 「お疲れ様です班長」


「……あぁうん、いつもありがとうアイン」



 ウルフにお茶を注ぎに来た青褪めた肌をした少年はアイン・リットナー。


ヴィクトリア王国の主教である、「クリスタリア教」の敬虔な信徒であり、冒険者としては希少な回復魔法の使い手だ。


「…ところでアイン…嫌がらせじゃなければ、なんでこのお茶は、雨が降った後の水溜りの泥を煎じたような色をしているんだ?」


「あ、それうちの地元の特産品の「干し猛毒ナメクジティー」です。寄生虫は取ってあるんで大丈夫ですよ」


「………じゃあ、このティーカップの中で浮いている人間の眼球みたいなものは?」


「あ、すいません。注いでいる時におれの左目が取れてそのまま入ってしまって…」




「………アイン、君が飲みなさい。ほらおれの分は気にしなくて良いから」



 「えー、美味しいんですよコレ」とウルフに押し返されたティーカップから自分の左目を掬いあげて、あるべき場所に入れ直したアインは、そのままお茶を一気飲みし、満足気に一息つく。


 アインは人間では無い、不死魔族(アンデッド)の一種であるゾンビという魔族だ。本来、和平条約を交わしたとは言え、不死魔族は教会にかけられた守護等の神聖なものを避ける傾向にあるのだが、何故かアインだけは平気な顔で教会に出入りしてミサに参加し、聖職者しか使えない回復魔法を使えるのである。


 以前その事を本人に聞いてみたのだが、「自分信心深いですから!」の一言で終わってしまった。多分本人も理解して無いに違いない。


 「…それはそうと班長…」


「…んー?」


「…班長は非常にモテますよね?」


「ごめん今その話しないで」



 瞬きして左目の具合を確認していたアインから、今一番されたくない質問をされた瞬間、ウルフは無の表情になり、視線を明後日の方角に向ける。


 確かに異性から恋慕されるのはウルフとしても嬉しいが、何故か慕ってくれている女性からのアピールの手段が、全て斜め上にぶっ飛んでいるのだ。


結婚を迫られたり、大型犬のごとく後ろにくっついて歩いたり、自分が使っている物と同じ柄のマグカップが勝手に増えてたり、自分を巡って熾烈な喧嘩を目の前で繰り広げたり、しまいには昨日スキャンダルをすっぱ抜かれたり…



(………あれ、なんか泣けてきた…)



ウルフ・ダイドー、今年で21歳にして、早くも女性関係に疲れ果てていた。


 一体何がいけなかったのだろうか?彼女達には上司として、1人の人間として普通に接していただけなのに、仕事に明け暮れ過ぎて下からの好意を有耶無耶にしていたのがいけないのだろうか。


過去に戻れる魔法があるのならば、ウルフは過去の自分に警告をしていただろう。

 

 そんな後悔に浸って部下達の豹変に気づくのに遅れたのがいけなかった。




「…ところで班長…」


「女性からモテる秘訣というものを…」


「伝授していただきたいのですが…」


 いつの間に結託したのやら、目を血走らせた3人がにじりよってくる。この時点でもうロクな事にならない気がしてきた。




 「…おれ、支部長に用事が有るからちょっと席外すわー」


『逃がすかぁ!!!!』




 ウルフが離脱するより先に、3バカが先に飛びかかるのが早かった。

 ウルフを逃がすものかと必死にしがみつく様は、必死すぎて周囲に第三者がいたのなら確実にドン引きしていただろう。


「やめろお前ら!離せコラ!おれにそんなの聞いてる暇があったらナンパでもして来い!」


「離せと言われて離すバカがいますか!」


「女性に話しかけるだけでも、心臓がバクバクするシャイボーイを舐めるなよ!」


「俺に至っては女性から避けられるのですが!?」


「知るか馬鹿共!」




 ギャーギャー騒ぎながらウルフにしがみ付き、ウルフはウルフで振り払わんと暴れる様は非常に見苦しかった。


 後キールに至ってはタダの自業自得だ。


それだけ騒いでいたら、誰かがドアを開けて入ってくるのに当然気づきにくくなるため…


 「…ずいぶん楽しそうじゃない…」


 空気が凍った。ブリキの人形のようにぎこちなく振り向く4人の目に映ったのは、入り口で仁王立ちしているアリシアと、そんな彼女より先に執務室に突撃してきたニーアの2人である。


 アリシアは一見すれば見惚れるような微笑を浮かべているが目が笑って無かった。

 後輩達(3バカ)がウルフに危害を加えようとしていると誤解したのか、怒りで彼女の氷の魔力が漏れて、実際に部屋の気温を現在進行形で下げていた。


 そんなアリシアに恐れをなしたキール達は、顔を青ざめさせると、さっとウルフから離れた。なんなら部屋の隅で正座して、恐怖でガタガタ震えていた。

 

 ニーアの方は、「そら見たことか」と鼻を鳴らすと固まってるウルフにピッと指を差した。


 「見たでしょアリシア!?男同士で浮気よ!ホモでDV野郎で浮気性の甲斐性無しなんて最低なクソ野郎じゃない!!」


「ニーアちょっと黙ってて」


 なんか誤解されてた。

 3バカトリオは同期ですが、ゼフ16歳、アイン19歳、キール184歳でキールがダントツの年長者です。

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