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プロローグ ぎぶみー愛とチョコレート

 今更になってプロローグでバレンタインネタを拾ってくるノロノロ更新の自分が情けない…でも書きたかったんじゃ…。











 あっできればブックマークとかいただけるとモチベ上がるのでどうかおひとつ…(妖怪ブクマくれ)


 2月14日。

この日のギルドの雰囲気はいつもと違った。


 男共はしきりに髪型を整えたり、やたら香水を振りかけたり、掲示板を気にするふりをしてチラチラとロビーの様子を伺ったり、玄関で誰かを待つ様に出待ちしたり、挙句しつこく何も入っていないポストの中身を確かめて勝手に落胆していたり普段以上に浮ついた雰囲気が流れていた。





「おはようござ――――え…何これ?」


 そんな男衆(ムサイ野郎ども)から距離を置く女性達の姿に、鞄を片手に持って出勤したばかりで状況を飲み込めないウルフは表情を引き攣らせたのだった。




 「今日なんか様子がおかしいな?」と首を傾げて自分の職場に向かおうとしたウルフに、1人の女性が駆け寄ってくる。


 彼女は冒険者の依頼の仲介となる受付の職員の1人で、美人というより可愛らしい容姿から同僚や冒険者達から看板娘(アイドル)扱いされている女性だ。


 そんな男性人気の凄まじい彼女が頬を赤らめてウルフの眼前まで駆け寄ると、顔を赤く染めたまま両手に抱えた物を彼に突き出した。




「あの…ダイドーさん…これを!!」


「―――んん?」





 朝早くギルドに出勤してロビーに顔を出した直後、唐突に可愛らしい容姿をしたギルド職員の女性から、可愛らしくラッピングされた袋を突き出されたウルフは、困惑して「何故?」や「なんで?」とか「なにゆえに??」等と尋ねる前に、頬を赤らめているあまり面識の無い女性職員から無理矢理袋を押し付けられる。


 大人しそうな外見とは裏腹に、ぐいぐいとチョコをゴリ押ししてくる彼女の勢いに流されてしまったウルフは、あれよという間に女性職員にチョコを握らされてしまう。



 ウルフに袋を押し付けた彼女はよしと頷くと、両手で頰を覆って足早にウルフのが前から逃げる様に駆け出して、受付のカウンターまで戻ると彼に振り返って大声で一言伝える。



「渡しましたからね!?バレンタインですから!」



 刹那あらゆる方向から殺気が飛び交い、ウルフにチクチクと突き刺さる。


 

 ある者は怨嗟の声を呟き、ある者は呪詛を己の拳に込め、ある者は嫉妬心を剥き出し、別の一団は誰のとは言わないが殺害計画を立てていた。





「―――今年も来やがったかぁ…」


 女性職員の言葉に続いて四方から濃厚な殺気を浴びせられたウルフは、これまで以上に物凄く嫌そうな表情を浮かべて、疲れた様な溜息を吐いてギルドの天井を仰いだのだった。




















「――バレンタイン爆発しろ…」


「班長…その発言は全面的に同意しますがいきなりどうしたんすか?」


「つかチョコを山の様に貰っている人が言っても説得力ねぇよ」



 あれから更に他の職員、冒険者問わずに女性達から包みを押し付けられたウルフは、襲いかかる

モテない男性諸君(うえたけもの)の攻撃を躱し、時にボコボコに叩きのめし、両手いっぱいに山盛りのチョコやらクッキーやらのお菓子を抱えて執務室にたどり着いたのだった。

 彼は、不機嫌さを隠す様子すら無い程に分かりやすく不貞腐れて自分の机に突っ伏し、呪詛の台詞をこぼしていた。


 仕事人間の彼にしては珍しくやる気が皆無だが、今現在机の上は大量のお菓子で占領されているのも手伝ってウルフの気力は現在進行形でガリガリと削られていくのであった。




 真面目なハヅキですら珍しく遅れてきているせいで久々に男性陣しかいないこの状況で溶けたアイスみたいにだらけて愚痴るウルフを、奇異な目で見るキール達だったが、事実ウルフが大量のチョコを両手に抱えて現れた彼に対しある種の殺意と戦慄を覚えていた。



「――聞きました?ゼフさん?この人これだけチョコを貰っといて文句しか言っておりませんよ?」


「――これは処すしか無いですねぇアインさん?……どうします議長?」


「問答無用でギルティ判定じゃい。どうせアリシアさん達からも貰うくせに不平不満ばっか言いやがって…」




 妙な小芝居を始める嫉妬心前回のアイン達の見下ろす視線がウルフに向けられたものの、ウルフは机にべったり突っ伏していた顔を上げてやはり不満そうに彼らに言い返す。




「――そもそも今日はどこぞの聖人の命日かなんかだろうが……それをなんだ?そいつにあやかってやれ恋人の日だの、好きな人に想いを伝える日だの、便乗して勝手に記念日にしやがって…あ〜気にくわねぇ…バレンタイン滅びろクソが」


「ヤベェよ。この人思ったよりバレンタインへのヘイトがヤベェよ…」



 何をどうすればここまでバレンタインに対する憎しみが募るのか。いつぞやのハヅキかそれ以上に深い闇を露わにして毒づきだらけるウルフの姿に怖気付いたキール達は後ずさりかけるが、これだけ貰っているくせにと何言ってんだコノヤロウと苛立ちと嫉妬心で持ち直す。


 そんな彼らを代表するかの様に先制攻撃に出たキールが、包装されたお菓子の山を崩さない様巧妙にチョコを抜き取って中身を取り出そうとする。



「そこまで言うんだったらこのチョコの山もいらないんすね班長!?うわー残念だわぁ〜だったら俺が全部食ってやるわゴラァぁぁ!!」


「――やめとけお前?」



 普段より2時間程早く出勤してずっとロビーにスタンばっていたものの、予想通りというか自業自得というかチョコ一つどころか、紙切れすらもらえなかった者代表としてキールが雑に包装を破いて取り出したチョコにかぶりつこうとするのを、無気力そうなウルフがやんわりと静止する。

 そんなウルフの静止を聞いていないふりをしてチョコに齧り付く瞬間、チョコにデコレーションされて何か書かれているのを確認して動きが止まる。














 チョコにはただ『親愛なるアリシア様へ』とだけしか書かれていなかった。



「――それ大体アリシア当てなんだけど?」



『すんませんした』


 やるせない様な溜息混じりにお菓子の山を指さすウルフの告白に、先程まで殺意と嫉妬とこの世の不平等さへの怒りを隠そうともしなかった3人は、さっきとは打って変わって腰を綺麗に90度に曲げてウルフに謝罪する。




「――アリシアはさぁ…強くて美人でスタイル良いから結構女性のファンが多いんだわ……でもあいつあれでも一応この国のお姫様だろ?……んで…近寄り難いけどせめてチョコだけは渡したいが為に、あいつと親しいおれを配達員代わりにして渡すんだよ…そいつら皆んな……しかも毎年…」



 光を失った瞳でポツリポツリと愚痴るウルフの姿は哀愁を漂わせていた。



「……なにかが混入されていたら流石にまずいから一回人気の無い所で毒見したら、渡してきた子がちゃんとアリシアに届くのか気になってついてきていて……よりにもよってその子のチョコを毒見してる所を見られてガチ泣きされたわ…」


「………うわぁ…」


「その日中にギルド全域に伝わってしばらく老若男女から悪者扱いだぜ?………アリシアや支部長からもしばらく距離取られたわ……」


「――班長!!まだ希望はありますから!このチョコ山の中にせめて一個くらい班長あてのが―」






「――残りが半々でスカディさんか、シェフィの分だから……おれ当てのなんて一つもねぇから…」


『―――oh……』



 この世(バレンタイン)の不条理の集中砲火をその身一つで受けとめ続けて真っ白になったウルフの姿に、3人は餌の奪い合いに負けたモルモットの様にフリーズした。


 一体何をどうしたらこの人ばかり貧乏くじを引くのか…










「――俺らちょっと外回り行ってきますね?」


「――班長は…その………アリシアさん達が来るまでゆっくりして行ってください…」


「別にオレら傷心中のを班長に気を遣って出て行くとかじゃ無いんで」










「―――まぁまてお前ら」



 このまま残り続けてもこの人が余計にダメージを負いそうな事をなんとなく察した3人は揃って執務室から退室する事を選んだ。

 決して飛び火しそうだから戦略的撤退を選んだとかじゃ無い。


 そんな3人を、絞り出す様に地獄の底から響く様な低い声でウルフは呼び止めたのだった。








「――今年はお前らがいてよかったと心の底から思っているよ……」


「急にどうしたんすか班長?」


「ちょっと仕事を手伝って貰いたいだけさ……なにそんな難しくねぇよ」


「いや……あの…班長?……見たところ机の上はチョコばっかりで、書類とか仕事道具らしきものはどこにも………」


















「―――そのチョコを仕分けるのを手伝って欲しいんだよ」


「―――チョコ……」




 にっこりと笑顔を浮かべて親指でチョコの山を示すウルフに釣られて、3人は改めて机に山積みにされたチョコの山脈に視線を向かせる。


 ウルフの机いっぱいを占領するかの如く積み上げられたチョコの山は、天井まで届くんじゃないかと錯覚する程に高く聳え立っていた。

 最早柱か何かとしか思えないくらい真っ直ぐに積み上げられたチョコは、一歩間違うと、倒壊して執務室で雪崩を起こして部屋の中を甘ったるい香りで茶色く染めることは間違いなかった。


 というかチョコの仕分けだけで1日が終わりそうな量だった。



 それを理解した彼らの判断は早かった。





『――急用を思い出したので失礼しますっ!!』


「逃がすかぁ!!」




 回れ右で執務室から逃げ出そうと駆け出した3人だったが、それよりも早く飛びかかったウルフが3人に組み付き、纏めて羽交い締めにして拘束する。



「離してください班長っ!!……俺は病気の妹の様子を見に行かなければ――」


「お前の姉弟(きょうだい)シェフィだけだろうが!!」


「あいたたたぁ〜!急にお腹がぁー!!班長オレ早退します〜!!」


「とか言いつつ全力で暴れてんじゃねぇ!!」


「嫌ですよ班長!!食べれもしないチョコの山を前にして延々と作業し続けるなんて!!」


「安心しろ。おれはここに来てから毎年やってきている。」


「この鬼!!悪魔!!班長!!」




 騒ぎながら全力で暴れる3人を力づくで押さえ込みつつ、チョコ山まで引きずって連行していく。

 このままだと身内のチョコの仕分けだけで1日が潰れる事を本能で理解した3人は全力で抵抗するものの、嬉々として道連れにしようとするウルフに抵抗虚しくバレンタインの闇に引き摺り込まれてしまう。




「――俺だけでも逃げる!」


「いけぇー!!キールぅ!!」



 上着を身代わりにして脱出したキールは脇目も振らずに一目散に執務室の扉へと駆け抜ける。


 せめてキールだけでも逃がそうと彼に一抹の望みを託したゼフとアインがそのままウルフを足止めする。

 対してウルフはキールの離脱を許すつもりなのか、達観した様に執務室のドアノブを握りしめるキールの背中に一言助言するだけだった。



「逃げるのなら良いさ…別におれは構わん…だが覚悟しろキール――執務室の外は地獄だぞ」


「誰がそんな脅しに引っかかるもんか!俺は誰かが無差別に配っている義理チョコの可能性にかけ――」



 扉を開き外に一歩踏み出したキールのセリフを遮るかの様に、スカディが偶に力加減をミスってドアを破壊し、その度に修理を繰り返した結果彼女の馬鹿力に耐えられる不壊煌石(オリハルコン)製へと交換された頑丈な扉に彼の頬を掠めてナイフやフォーク等の凶器がいくつも突き刺さる。


 一瞬、濃密な殺意のこもった不意打ちに襲われてフリーズしたキールは、見たくなかったが、古びて油の切れた機械の様にぎこちなく首を動かして視線を凶器が飛んできた方へと向ける。












「――パターン青。同士(キール)です」


「ようキール!まさかチョコを貰いに行くとかじゃねぇだろうな?」



 廊下をところ狭しと埋め尽くして武器を構えていた冒険者の集団がにこやかに構えていた武器を下ろしてキールに向かって手を挙げる。

 だが、キールは気づいていた。

あの集団の中に女性が1人もいないことに、今手を挙げた男の目が全く笑っていない事に。



 バリエーション豊かに武器を構えるむさい集団から放たれるドス黒い殺気と負のオーラから目を逸らしたキールは何事も無かったように執務室に戻ると、扉に鍵をかけて無表情で振り返る。


 何が起こったのか理解が出来ないアインとゼフを押し除け、やっぱりなと溜息を吐いたウルフがどうだった?とキールに尋ねる。


 外の光景を理解したく無いキールは、顔面から感情を殺して現実逃避をしていたが、エロ本の事を考えて無理矢理脳を再起動させ震える声でウルフの質問を質問で返す。







「―――なんすか……あれ?」


「義理チョコすら貰える見込みが無い連中だ」




 嘘だ。そんな事あってたまるか。


 人間はチョコが貰えないだけであんな暴挙に出る事ができるのか?

 チョコは人をあれだけ狂わす事ができるのか?

 バレンタイン恐るべし。



 戦慄して冷や汗を流すキールに自分の上着を預けたウルフは、ぽきぽきと拳を鳴らすと、真っ直ぐに扉へ向かう。




「……あいつらの狙いはおれだ……連中は女性からチョコを貰った奴を見境なく襲う蛮族と化している…」


「……は…班長…何処へ」


「………去年まではおれ当てじゃないと説明していたが、それでもお構いなく毎年この時期になったら襲って来やがる……」


「は、班長?」


「毎年毎年チョコの仕分けとバカ共のしつこい襲撃のせいでどれだけこっちの本来の仕事が滞っているのか分かってんのか?………今年は本当にお前らがいてくれて良かったよ…」


「ま、まさか……」







 3人の震える声を背に、ドアノブを握りしめたウルフは、振り返ると笑顔でサムズアップする。

 怒りとストレスで両目が血走り、最早笑顔が歪んで威嚇している獣様な形相で声にドスを効かせるウルフに、3人は思わず小さく悲鳴をあげて跳ね上がった。










「―――ちょっとあいつらシメてくる。チョコの仕分けは任せたぞ」



 それだけ言い残して勢いよく扉を蹴破ってチョコを狙う暴徒と化した冒険者達(ヒャッハー集団)の荒波に自ら飛び込んでいく。







「でやがったぞ!!ダイドー(すけこまし)だ!!」


「野郎ども出あえ出あえ!!今年こそをチョコを独り占めする鬼畜野郎に鉄鎚をぷしる!?」



「誰がすけこましだゴラァぁぁっ!!」






 怒号と悲鳴と破砕音と打撃音が響き渡り、ウルフの乱入で世紀末と化した廊下から隔離する様に、キールはウルフが蹴り開けた扉を閉ざして鍵をかける。



 事態を飲み込めず、呆然と突っ立っている同僚2人に向けて振り返ると、彼らの視線がキールに説明を求める様に集まる。




 キールは全てを悟った様な無表情のまま深く深呼吸をして、そのまま脳裏に出てきたセリフを読み上げる。



















「――仕事するか」


『賛成』





 関わらない方が良いや。


 世の中チョコを貰えない幸せが存在する事を3人はこの身に深く刻み込んだのだった。






















「―――――今年こそは…ウルフにチョコを……!!」





 そして人知れず、とある女騎士の戦い(独り相撲)の火蓋が切られたのであった。








                   続く


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