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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
42/60

仲直りしてあけおめことよろ (前編)

 今更年越しの話かよ…もう二月だぞ…

 ヴィクトリア王国。親魔族領ヘカーティアには様々な人種が集う。


 人間、エルフ、獣人、オーク、異国人、ゾンビ、変態など様々な人種がこの街に居住し、賑やかに毎日を送っている。



 常識人も変人も入り乱れるこの街の冒険者ギルドは当然ながら忙しい。

毎日の様に仕事をよこせと押し寄せる冒険者達を捌きつつ、報酬の支払いや怪我人の治療。毎秒毎に変化する狩場やダンジョンの状況に目を光らせて手に負えない時はその調整に奔走する多忙なお仕事をこなすのがギルドの職員である。




 その肝心のギルドの方は、現在紆余曲折あって更地になってしまった為に、年明けまでの復旧を目処に現在ギルド職員も冒険者達も現在年末休暇の名目で骨を休めていたのだった。



 そして今日が今年最後の1日。つまり大晦日である。








「――――251っ!…252っ!…」



 ウルフ・ダイドーの朝は早い。


日課の素振りを終えたウルフは、トレーニングをそこそこに切り上げると、湯気の上る体をタオルでサッと拭いて、冬特有の刺す様な冷たい空気が漂う庭からそそくさと家の中に戻る。


 シャワーを浴びて汗を流したウルフは、即座に着替えを終えるとそのままキッチンへと直進し、フライパンを握って朝食の準備に取り掛かる。


 今日のメニューの落とし卵(ポーチドエッグ)とホットサンド。付け合わせのコーンスープをサッと仕上げたウルフは、居候一の寝坊助を起床させる為の特別メニューの作成に取り掛かる。




 取り出した大きめのマグカップにココアパウダーを大さじ一杯。続けて砂糖を大さじ五杯分ぶち込み、追い討ちとばかりに蜂蜜を投入。

 それを温めた牛乳で溶かして軽く混ぜ、十分中身が溶けたところで冷凍庫から取り出したアイスクリームをスプーンで掬ってぽちゃんと浮かせる。


 この明らかに世の栄養士にケンカを売る様な代物は、徹夜明けで疲労が溜まっている時に飲むとっておきの多用が出来ない贅沢品だが、こうでもしないと起きない女性がいるのだから仕方がない。


 しばらくしてウルフ特製カロリー爆弾ココアの甘い匂いにつられたのか階段からゴロゴロドタンと人が転がり落ちる様な音が響いてくる。

 そのままずりずりと開きっぱなしのリビングの扉から匍匐前進で現れたのは台所の天敵のゴキさんでもお腹を空かせたワニでも無く、寝起きのスカディその人だった。



「――スカディさん。おはようございます」


「―う――うぁ…」


 まるで獣の様なうめき声で返事を返したスカディは最早瞼すら開いていないが、返事の代わりに右手を挙げてひらひらと手を振ると、大きな尻尾や翼を有するにも解さず寝ぼけた状態でノソノソと椅子に座るとココアの入ったマグカップに手を付ける。

 因みに、こんな調子だが今日のスカディは寝起きがいい方だ。



「――おはよう…」


 マグカップを傾けてココアを啜るスカディに遅れて現れたのは身支度を整えて降りてきたアリシアだ。


 彼女はウルフと顔を合わせないように一言かけると椅子に座ってウルフの作った朝食を口にする。



「……おはよう…アリス…」



 そんなアリシアに気まずそうに返事を返したウルフは何か言いたげに彼女に話しかけようとするものの、なんて声をかけたら良いのか結局思いつかず、溜息をついて自分も食事に手を付ける。






「……じゃあわたしは公務の方に行ってくるから」


「いってらっしゃい…」



 そして食事を終えて再び身の回りを整えたアリシアは、王族としての公務の為にウルフに見送られて出勤する。

 今日は年末という事も手伝って挨拶等の仕事でぎゅうぎゅうなので早めに出ても休む暇すら無いのだ。




「……アリス…」


「――なに?」


「……なんじゃない」


「……そう…」




 最後にウルフがせめて何か一言でもと、声をかけるも、不機嫌そうな表情で振り返ったアリシアの視線を受けてすごすごと後ずさる。


 そんな彼の姿を見たアリシアも特に何も言う事無く玄関から出て行く。



 ウルフとアリシアが喧嘩してほぼ一週間ほど……2人は仲直りするきっかけすら作れずギスギスとした雰囲気がウルフ宅にて漂っていた。










「――それで…謝りたいけど、中々きっかけが作れずにここ一週間近くずっとギスギスして気まずいままになってるせいで精神的に参っていると?」


「……何故さも当たり前の様にアンタがおれん()に平然と上がり込んだ挙句コーヒーまでご馳走になっているのかが甚だ疑問ですが、大体貴女の言う通りですよシャルロッテさん……」




 何で当たり前の様にいるんだよぉ…とお茶菓子を用意しながら項垂れるウルフを他所に、彼の淹れたコーヒーをリビングの椅子に座って堪能する元貴族専門の殺し屋「静謐な牙(サイレント・ファング)」ことシャルロッテ・ビスマルクは、何故かウルフの家に遊びに来ていた。



 この世の終わりみたいな表情で落ち込む彼の噂を何処かで耳にしたのか、いつの間にか玄関から上がり込み、彼からあれやこれやと質問攻めで彼から現状を聞き出し、ウルフに自分の考察を披露して彼にトドメを刺したのだった。


 

 

「――それで…喧嘩の原因を君は把握しているのかい?」


「……恐らくおれがアリス……アリシアのおっぱいをガン見してしまったせいかと…」


「初すぎやしないかい?」


「あれ以降口を聞いてくれなくなってしまいまして……謝りたいんですけど、どうして怒っているのかもちゃんと把握して無いですし的外れな事謝ったら今度こそ関係終わるかも……」


「よしたまえウルフ君。君妄想が悪い方に行きすぎているからその辺にしときたまえ」




 お茶菓子を持って戻ってきたものの、椅子につくと同時に頭を抱えるウルフを窘めるシャルロッテは、手間のかかるカップルの様子に思わず呆れた溜息を吐く。


 こんなヘタレ共に自分はコテンパンにされたのかと悲しさを覚えたが、まぁ今まで異性と交際した経験がないそうだし仕方ないか。と諦めたシャルロッテは自分の鞄をゴソゴソと漁り出す。



「――そんな2人に良いものを持ってきたんだ…どうだね?気になるかい?」


「……一応周囲に被害が出ない範囲でお願いします…」


「君私の商売道具を危険物か何かと勘違いしてないかい?」



 心外だなと憤慨するシャルロッテだったが彼女は知らない。

 先日ウルフ達は身内(主にアネット)が制作した魔道具の所為でギルドが倒壊する程の被害を受けた事実を彼女は知らない。


 精神的に参っているウルフは悩みつつもシャルロッテの商品に頼る事にしたのだった。

 それに気を良くしたシャルロッテはテーブルの上に鞄から取り出した金色に塗装された香炉を置く。



「ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃ〜ら〜ら〜♪恋人とか夫婦が愛の確認作業を行う時にいい雰囲気にする為に炊くお香〜」


「平たく言えば媚薬だろうがこれ!?アウトだアウトォ!!」



 自信満々に取り出したいかがわしい逸品に、思わず目を吊り上げてテーブルを両手でバンバン叩くウルフが猛抗議する。


 期待して損しましたと訴えるウルフに対して得意気な姿勢を崩さないシャルロッテは、分かってないなぁと人差し指を立ててちっちっちと舌を鳴らす。

 その様子が更にウルフをイラつかせたのは言うまでも無かった。




「いやほら極東のことわざで言うじゃないか?夫婦喧嘩と外れた襖はハメればなおるって」


「いわねぇし!?つかそも存在すらしねぇよそんな最低なことわざ!!」



 描写出来ない様な下品なハンドサインで正当性をアピールするシャルロッテにいつもの調子を取り戻したウルフのツッコミが突き刺さる。


 「揶揄うのも大概にしろ」と憤慨するウルフにお構いなしにあくまでもマイペースを崩さないシャルロッテはウルフを本職となった行商で培った口八丁で彼を丸め込みにかかる。



「君の言いたい事も分かるが…どうせ君らまだヤる事ヤって無いだろう?」


「――うぐっ…」


「まぁそうだね?……未婚の王女が非処女だなんて外聞が悪いからとか言って結婚してから〜とか呑気な事君が言い出した口だろう?」


「……うぐぐっ……」



 図星だった。

何もかもシャルロッテに見透かされたウルフは悔しそうに歯噛みする。


 勢いに負けて押し黙ったウルフに追い討ちをかけるようにシャルロッテは彼に人差し指を突き刺し、自分自身(経験無し)のこれまでの経験もとい集めた情報から得た残酷な情報をウルフに叩きつけた。




「――彼女を大事にするのは良いさ。好感に持てる……だがしかし!夫婦とカップルが別れる原因の一つが()()なのだよウルフ君!!(※彼女の偏見です)」


「なっ………!?」



 ウルフの脳内に稲妻が走った。


 普段のウルフなら人それぞれだと突っぱねる事が出来ただろうが、精神的に参ってしまった彼にその一言がストンとはまってしまった。



「覚悟を決めたまえ!今なら特別価格でエグいくらい効く精力剤もつけとくよ!?」


「うぬぬぬぬ……!?」




 頭を抱えて悩むウルフを煽るように、更にテーブルの上に小瓶を追加するシャルロッテは下世話半分、心配半分でウルフ達の様子を見にきたのだった。

 まぁそれはそれ、これはこれで商品を売り付けようとしているのでウルフからの印象はプラマイゼロになっているのだがそんな事を気にしているようじゃ商人なんてやっていけない。

 売れる時に売っとかないと生活費が入って来ないのでシャルロッテも必死だった。







「――――………」



 そんな2人(主にシャルロッテ)の様子を冷めた視線で扉の隙間から伺う火龍人(ファイアドレイク)の女性の視線に、ウルフは兎も角シャルロッテまで気がつかなかった。

 シャルロッテさんの発言は大体個人の見解もとい偏見が多少混じってますのであまり間に受けないでください。

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