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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
39/60

あまり怒らない人がブチ切れると手に負えなくなる

前回のあらすじ


 アリシア&スカディ無双




 今回は前回のオチなのでちょっと短めです。

うっかりであんな凡ミスするとは思わなかったです…


 前回はお騒がせして大変申し訳ありませんでした。


 アリシアに凍らされ、スカディに焼き尽くされて荒れ放題になった修練場には数えるだけの人影しかなかった。



「――お前ら生きてるか……?」


「なんとか――」

「あったけぇ……今回マジでダメかと思った。」


 アリシアに支えられながらだがようやく酔いから復活して立てる様になったウルフが、解凍されて氷から解放されたキール達の無事を確認する。


 身を寄せ合いながら暖をとる男性3人組はともかく、解放されて尚酔い潰れて爆睡するアネット(大体の元凶)は平常運転だから良いとして本題は――



「――支部長(コイツ)どうする?処す?」

「まぁどうせ今回も支部長(これ)が原因だろうしこのままで良いんじゃないかしら?」


 一応トップである筈のロマンは未だに氷漬けだった。

 今回見たいなトラブルは大体ロマンかアネット、もしくは両名の合同なので事の経緯に立ち会っていない2人からしたらもう犯人は決まった様なものだった。


(――すんません…)

(今回だけは暴走したの(こうなったの)おれらのせいです…)


 真犯人というか原因というか、今回の騒動の元凶となったウルフとキールは、氷漬けの支部長の前で仁王立ちして判決を下すアリシアとスカディの両名から気まずそうに視線を逸らした。


 2人がどう弁明してもロマンの判決が覆るどころか余計に拗れて悪化する未来しか想像出来なかった。

 思った以上に人望が無いロマンに泣けばいいのか、謝ればいいのか分からなくなった2人は心の中でロマンに平謝りしつつ真実を黙殺する事に決め込んだ。



 こうして一名ほど若干の濡れ衣で処理されつつも、事態は一応の終息を迎えて万事解決。


めでたしめでたし。
















「――ふふ。うふふふふふ」





 ――で終わらなかった。



 歴戦の猛者ですらも怯む濃密な殺気がぶち抜かれた入口から瘴気として噴き出される。


 可視化された真っ黒な靄に真っ先に反応したスカディがウルフ達を庇う様に戦闘態勢を取り、遅れてアリシアも両手剣を構える。



 突如走った緊張にウルフ達も身構える中、入口から濃厚な殺気を撒き散らしながら現れたのは意外にもいきなりスライムの犠牲になって倒れたあの人だった。






「――あれ……ハヅキちゃん…?」




「はい。調査班のハヅキですよ………うふふふふふふふふふふふ」





 ふらふらと覚束ない足取りで現れたハヅキに拍子抜けした溜息を零したアインに返答するハヅキだったが、スカディ達の警戒は解かれなかった。


 ぐりんとアインに振り向いた瞳はぐるぐると渦を巻き。狂気と怒気を孕んでいた。

そんな眼光に射抜かれたアインは思わず小さく悲鳴を上げてゼフの背中に隠れる。



 普段と明らかに様子が違う。

 三日月形に歪んだ口元から漏れ出る笑い声と据わった瞳からチラチラと見える狂気が、彼女の異常さを際立たせていた。




「………スライム……やっつけたんですね……ふぅん……」


「…お、おう?」



 俯いて顔色を隠し、スッと右手を高く掲げ、動きを止める。

 掲げられた右手には十字形の何かが輝き、それを中心に風の流れが集まる様に何処からとも無く風が吹き荒ぶ。




「……私……真っ先にスライムと戦ったんですよ……やられちゃいましたけど……」

「うん……うん?」


「誰か1人くらい助けに来てくれるかなぁー……って思ってたんですよ……誰も来てくれなかったですけど……」

「へ……いや……ハヅキさん?」


「みーんな、私の事ほっぽり出してスライム相手にどったんばったん大騒ぎ……いや分かってますよ?執務室壊されるかもしれなかったですもんね………壊れちゃいましたけど…」

「――ハヅキ…ひょっとして怒ってる…?」


「いーえこれっぽっちも?全然怒って居ませんよ?1番に突っ込んで返り討ちにあってヌルヌルにされて霰も無い悲鳴を上げさせられた後そのまま捨てられてだーれも助けに来てくれなかった事もむしろ忘れられているんじゃ無いかってくらい放置された事を含めても私はぜーんぜん怒っていませんよ?…………うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」




 嘘だ。絶対怒ってる。



 ギュルギュルと音を立てながら回って風を集めて竜巻を起こしている暗器の下で、右手を高く掲げて暗黒微笑を浮かべるハヅキに戦慄するウルフ達に「何をしたらここまで怒るのよ」と呆れた様な非難する様な表情で振り返る女性陣2人の視線が突き刺さる。




 アリシア達に非難の視線を向けられて居心地の悪くなったウルフ達だったが、ハヅキを止めないといけないのは決定事項だった。


 何をするつもりか分からないが、彼女を止めないと修練場ごと吹っ飛ばされかねない竜巻に襲われるのは明白だった。

 最悪ギルドが崩壊しかねない。




「――えーと……ほら一回落ち着こうハヅキちゃん!おれらも情け無いやられ方されたし!!」

「そうそう!支部長なんかカチンコチンだぜ!?ひとまず溜飲を下げようぜ!なっ!?」



「……落ち着けですって?」



 必死に宥めようとするアインとゼフのセリフに彼女の何かが触れたのか、声を振るわせるのと同時に、ふるふる止めない小刻みに身体を震わせ始める。


 自分の感情を押し殺す様に震えていたハヅキはキッと眼前の面子を睨みながら顔を上げ、目尻に涙を溜めながら顔を真っ赤にして憤怒の形相を浮かべ、涙声で叫んだ。






「……私はっ!!(スライムの)班長にっ!!胸を揉みしだかれてヌルヌルにされた上にっ!!スリーサイズと体重まで暴露されたんですよっ!!――女性として色々弄ばれたこの怒りを一体何処にぶつければいいんですかっ!!?」



(((あかーーーんっ!?)))



 そういえばさらっとセクハラ受けてたわこの人。

 ウルフとキールの合体事故を起こして暴走したあのスライムのセクハラ被害者1号と化したハヅキの真っ当な怒りを鎮める方法が思いつかないキール達は助けを求める為にウルフへと視線を向けるが……






「――ちょっとウルフさん?」

「――説明しろ。詳しく」

「違うやったのスライムの方!!――やめてっ?!地味に痛いから剣先でチクチク突っついてこないで!?」


 ウルフを頼るのは無理だった。うわずって一番大事な単語を抜かして訴えたハヅキの証言によって、今度はウルフが弾劾裁判の被告人席に座らされていた。


 絶対零度の視線とチリチリと焼き尽くす様な視線に挟まれたウルフは青褪めた顔で必死に誤解を解こうと弁明するものの、2人の得物でチクチクと突っつかれながら詰問を受けていた。


 社会的に抹殺されそうな班長に助けを求めきれなかった3人組は、ウルフに頼るのを諦めて自分達だけでハヅキを慰める覚悟を決めて彼女に向き合う。



「いやその……俺らなんも聞いてないから!?……なっ!?そうだろ?!」


「そうそう!!ドタバタしていて何も聞いて無いよおれらっ!?そうだろゼフ!?」


「そうだよ心配すんなよハヅキっ!!









ハヅキの体重くらいの方が健康的だから気にする事無いってば!!」












「滅べぇぇぇえっ!!!!」


『ぎゃぁぁぁぁぁあっ!?!?!?』




 この日、顔を紅葉より真っ赤に染めたハヅキの手から放たれた巨大な手裏剣によって発生した竜巻によって、ギルドは完全に崩壊したのだった。


今回の被害


 ロマン 言い出しっぺ。濡れ衣を着せられた

 アネット ほぼ主犯。禁酒が伸びた。

 ウルフ 大体の原因。性癖を暴露された。

     名誉を勝手に汚された。

 キール以下3名 ヌルヌルにされた。

         病院送りになった。

 ハヅキ スリーサイズと体重を暴露された。




 ギルドの被害総額

  修繕費   ■■億ルビィ

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