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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
37/60

フラグ管理は慎重に

前回のあらすじ


 不幸な事故勃発


 ギルドの修練場に衝撃が響く。


 剣と盾が勢いよく叩きつけ合う衝撃で大気がビリビリと震えて観戦席や防護壁を揺らし、衝撃が床を伝ってギルド全体を震えさせる。



 小さくは無い建造物を微かにでも怯える様に震えさせる衝撃を生み出しているのが、2人の女性だと言う事実が彼女達を詳しく知らない人物なら驚愕で腰を抜かしてしまうに違いなかった。




「ほんっと!守りの硬さは尋常じゃないわね貴女って!!」


 整備された修練場の芝生に亀裂が走る程の力で踏み込み、両手剣を唐竹割りに振り下ろして重たい一撃を放ったのは、桜色の髪をシニヨンに纏め蒼銀の鎧に身を包んで冷気を剣に纏わす姫騎士アリシア。



「――そっちこそ良い攻撃をするっ!10年前の戦場でもお前程の戦士は中々いなかったぞ!!」


 対するは細腕から放たれたアリシアの一撃を上段に構えた右手の盾で受け止め返ってきた衝撃を膝を軽く曲げて殺し、カウンターの斬撃を横薙ぎに放つ龍人の女戦士スカディ。



 喧嘩の原因を辿れば「ウルフの下着の好みはショーツかティーバックか」と割としょうもない理由で始まった争いだが、今2人はすっかり喧嘩の原因を忘れて高度な鎬の削り合いに興じていた。



 手数と経験では勝るスカディだが、その差をアリシア自身の恵まれた身体能力と魔族ですらたじろぐ馬鹿力で埋めて拮抗し。

 互いに大怪我を負わせない程度に加減して切り結ぶ模擬戦ながらも、武器がぶつかり合う弾ける火花と轟く衝撃に火龍人(ファイアドレイク)の闘争本能を刺激されたスカディは愉しさを隠せない凶悪な笑みを浮かべ、自分の中に謎の充足感が募っていくアリシアも額に汗を浮かべながら高揚していた。



(…これ以上長引くとイオが有利になる……今決着を着けないとわたしが負ける…!)

「――はあぁぁーっ!!」

「っ!――来いっ!!」



 荒い呼吸を整え、雄叫びをあげて気合を込め決意を固めたアリシアは強烈な踏み込みと共に地面を蹴り、暴力的な加速で距離を詰めて勢いよくスカディに突撃する。

 対するスカディもアリシアが賭けに出た事を察し、真正面から迎え撃つ為に己の得物を構える。

 

 全体的な火力だとギルド内で1、2を争うアリシアを生半可な防御で受けるのは危険と判断したスカディは盾を捨て両手持ちで剣を構えて駆け出し自ら相手の間合いに飛び込んでタイミングをずらす。




「これで――」

「――終わりだぁっ!!」



 鋼鉄製の扉が2人の前を飛び去って行った。


 2人の一撃がぶつかり合う寸前に激しい破砕音が鳴り響き、目の前を頑丈な筈の修練場の扉が勢いよく横切っていくのに反応した2人は、その場に踏ん張ってブレーキをかけて勢いを殺し、戦闘を中断する。



 何事かと事態を把握しようと扉が飛んで来た入り口側を振り向く前に、2人にとって見覚えがありすぎる……そもそも、喧嘩もとい模擬戦もといストレス解消の発端である言い争いの原因人物であるウルフが、何故かヌルヌルになって2人の前に転がって来た。



「――ウルフっ!?一体何が!?」

「……なんか鰻みたいね…」


 目を回すウルフを助け起こそうと駆け寄ったアリシアだったが悪気無く呟いたスカディの一言によって一瞬自分の大嫌いな鰻が脳裏によぎってしまい思わず嫌そうに顔を顰める。


 割り切ってウルフを助けようと彼に触れたが、ヌルヌルと滑って掴みづらかったのが余計に鰻を連想させてしまい今度は嫌そうな悲鳴が漏れてしまった。



「お…お前ら…逃げ――」


 


『――■■■■■■■ッ!!!』



 ウルフがヌルヌルのまま警戒を発するより早く、吹き飛ばされた入り口から水色の体を持ったゲル状の魔獣が姿を表す。


 執務室を飛び出し、ギルド内の無機物有機物問わず様々な物質を取り込んで修練場まで前進したアネット作「メタモルスライム2号」は既に人型を保てずに崩壊した巨体が修練場に雪崩込み、アリシア達を捕まえようと無数の触手を伸ばす。



「何よアレ!?」

「…アネットさんの――」

「把握っ!」


 ウルフをお米様抱っこで抱えた状態で触手の攻撃を全て捌いたアリシアは、彼の口から「アネット」の名前が出ただけで全てを把握した。

 調査班に長く籍を置いている以上、こういうトラブルを何度か経験していない訳じゃない。(嫌な事だが)

 同じく剣に纏わせた炎で触手を焼き払いながらウルフに耳を傾けていたスカディもげんなりと嫌そうな顔をした。





「――どいたどいたぁ!!」




「支部長!」

「生きてたの!?」



 スライムを追いかける様に入り口から姿を表したのはこれまたヌルヌルの支部長(ロマン)と、同じくヌルヌルにされたキール、ゼフ、アイン達が巨大な大砲を引っ張り出して修練場の入り口を拡張しながら現れたのだった。




「――なんですかその馬鹿でかい大砲は!?」

「私が昔オークションで競り落としたコレクションの一つ!!その名も『3連発射式250口径砲』!!150ミリの砲弾を3門の砲口から3発同時に発射する浪漫ギミックを搭載していながらも製造コストの問題で量産がお蔵入りになって歴史の闇に埋もれた珍兵器の一つさ!!――キール君やっておしまい!!」

「了解ぃ!!キューティクルの恨みぃっ!!!」



 髪を取り込まれた際に十円ハゲを作られて怒り心頭のキールが束ねられ黒光する3門の巨大な砲口の照準をスライムに合わせる。

 流石にどデカい砲弾が連続で直撃すればあの巨体もひとたまりも無いだろう。








「わらしのはつめいひんになにしゅるんらぁ!?」


「―ちょっ!?アネットさん!!?」

 





――だがここで裏切り者が現れた。

 へべれけのアネットだ。


 恐らくシラフの状態ならアレを止める為に尽力しただろうが、アルコールが入った状態のアネットはぶっちゃけ邪魔でしか無かった。

 酒を飲まされて赤ら顔になったアネットがロマン達に追いついた瞬間に大砲に飛び移り、砲口の照準を無理矢理動かす。


 その際に大砲を固定していた留め具が外れ、あらぬ方向に向いた大砲が四方八方に砲弾を撒き散らしながらぐるぐると暴れ回る。



「なにしてんのアネットさ――ぎゃぁぁあ!!」

「あぁっ!?支部長がやられたぁ!?」



 一部天井に向かって飛んだ砲弾によって天井が破壊され、瓦礫の雨が降るどさくさに紛れて一人、また一人と触手を伸ばすスライムの手によって次々と仲間が取り込まれていく。



「何がしたかったのよあの人達は!?」


 最終的に瓦礫が空から降って来るようになっただけで結局味方の邪魔以外何もしていない。

 スライムに捕獲されてあっさり退場した支部長達のせいで派手な音を立てて崩落する天井にも飛んでくる砲弾にも気を回さなきゃいけない状況に陥ったのだった。



「うわっ!?ちょっ!……鬱陶しい!!」

「アリシアっ!上!!―前から触手っ…うぉっ!ちょっと砲弾が掠った!?」




「――っ!邪魔っ!!」


 何かを察知したスカディは、四方八方から飛んでくる攻撃に四苦八苦するアリシアに対して尻尾で薙ぎ払って吹き飛ばした。 


その直後アリシアが立っていた場所に瓦礫が降り注ぎ、彼女を庇ったスカディを下敷きにするとあっと言う間に積み上がった瓦礫で山が出来上がる。



「何するの…イオっ!?」

「スカディさん!!」


 いきなり吹き飛ばされた苦情を言おうと、受け身を取ったアリシアの目に入ったのは瓦礫の山が自分とスカディがいた場所に積み上がっていた景色だった。


 吹き飛ばされた弾みでアリシアから落とされたウルフは、悔しそうに床に拳を叩きつける。


 しばらく這いつくばり俯いていたウルフはは静かに立ち上がると、スライムからアリシアを庇う様に立ち塞がった。



「――アリシアはスカディさんを頼む。あいつの狙いはお前達だ…」

「ウルフ…貴方は何をするつもり…?」

「―――間接的にアレを世に解き放ってしまった責任を取る……」

「それって――」


 アリシアは息を呑んだ。

 声を掛けようとしたウルフから陽炎の様に立ち登る視覚化された怒りが空気伝いで感じ取れたからだ。


 ウルフは拳を固く握ると床を強く蹴って駆け出し、怒れる水牛の様に巨大スライムへと突っ込んでいく。




「――これ以上好き勝手されてたまるかぐぅぉるぁぁぁぁぁあっ!!」


 目尻を釣り上げ、身体の底から湧き上がる怒りのままに叫ぶウルフは迫りくる触手の猛攻を身を翻して避け続けながら遂に拳の射程距離まで肉薄する。



 武器は今手元に無い。先日悪友(ゲンナイ)に武器の改造を依頼して以降、当の本人が音信不通になって連絡が付かない為。

 唯一の武装であるオルトロスに頼る事は出来ない。

 


 頼れるのは己の身一つのみ。だからこそ固く握った拳に身体強化を掛け、力と魔力と怒りと日々の積もったストレスの全てを込めて勢いよく突き出した拳をスライムのゲル状ボディに全力で叩きつけた。










「やっぱ無理だった――ぁぁぁぁっ!!?」

「ごめん。なんとなくそうなるんじゃないかって薄々思ってた!!」




 ウルフの身体強化を何重にも重ねがけした拳はスライムの全身を波立たせて後退させただけに終わり、お返しとばかりに足に触手を絡まされて宙吊りにされて捕まってしまった。



 なんとな〜くウルフがやられそうな予感がしていたアリシアは、思わずこめかみを押さえて厄介事が追加された事で発生した頭痛に耐えるのだった。

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