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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
36/60

高度に発達した技術力で仕事をチョンボしようとすると大体ロクな事にならない

前回のあらすじ


 今カノVS彼女面の怪獣戦争勃発





 チョンボ


麻雀用語でざっくり言うとズルの事。



 スカディがギルドに帰還して以降、ウルフの周囲は悪い意味で更に騒がしくなった。


 ウルフが絡むと仲が悪くなるアリシアとスカディの2人が顔を合わせる度に喧嘩するせいで、ウルフの業務に2人の仲裁なんて一番大変な恒常業務が追加される羽目になってしまった。



 アリシアはウルフの周りをうろつく悪い虫を追っ払おうと常にピリピリし、スカディは抜け駆けしたアリシアが気に食わないのが分かりやすいくらいに不機嫌さを隠そうともしない。

 彼女達が顔を合わせる度に不穏な雰囲気が漂うせいで職場の士気は最低ラインをうろちょろし始める始末。

 居合わせた冒険者達に至っては我先にと逃げ出す程だった。


 それを仲裁する羽目になるウルフが一番被害を受ける事になるのは最早火を見るより明らかで、ある時は迂闊に割って入ったせいで戦場と間違う程の過激な攻撃の応酬に見舞われ、ある時は朝はパン派かご飯派かで詰め寄られ、ある時はどっちがウルフ好みの体型(スタイル)かで口論になった2人を諌め、またある時は犬派か猫派、もしくはキノコかタケノコかで全く関係のない言い争いまで始める始末。


 お互い自分がウルフを一番想っているんだと信じて疑わない故にタチが悪い不毛な喧嘩が勃発しているのだった。


 ……こんな調子で1週間程喧嘩する2人を諌めて回る度に流れ弾で命の危機に瀕し、ついでに性癖をでっち上げられてどうでも良い名誉が傷付けられているウルフは当然ながら心身共にボロボロにならない筈も無く……





「……もうやだ…」

「―班長大丈夫すか?」

「…逆に大丈夫に見えるか?」


 白よりも白く、このまま空気と同化して消えそうなくらい真っ白になっていたウルフは、自分の机の上に上半身を預けて溶けそうになっていた。


 生気を無くした瞳が悲壮さを醸し出していた。


2週間徹夜しても尚ピンピンしているウルフが疲労困憊になってる時点でもうすでに2人の喧嘩を仲裁する過酷さを物語っていた。



「鷹、虎、バッタ、鷹、孔雀、コンドル、ライオン、虎、チーター、クワガタ、カマキリ、バッタ、サイ、ゴリラ……」

「どうしようこの人現実を直視したくない余りに動物の名前唱えだしたぞ」

「―なんで鷹と虎とバッタだけ2回出たんですか?」



 ぶっちゃけこの状態で仕事が手につく筈も無く、ウルフが溶けたアイスになってる合間にもどんどん書類が積み上がって行く。


「――当のお二人方は?」

「なんか決着つけるとかで修練場の方に…」


 もうこれ全員残業確定だ…

溜息を吐くキール達4人だったが、それに割って入る胡散臭い影が現れる。



「――やぁやぁお困りのようだねぇ諸君!!」

「あっ支部長」


 執務室の入り口から得意げに顔を出した支部長(ロマン)がひょこり顔を出す。

「だいぶ参っているねぇ…」と、悠々と執務室に侵入して人差し指で反応しないウルフを突っつく。

 そんなウルフをさて置いたロマンは、キール達に向き直ると一つ咳払いをする。


「今日は君達に良いものを持ってきたんだけど……欲しい?え、欲しいでしょ?」

「――嫌な予感するんでもう帰っていいすか?」

「失礼な。今回はまともな物だよ――アネットくーん。カモーン」

「は〜い」


 ぱんぱんと手を叩いて鳴らすロマンに合わせて、小脇に水色のゲル状の何かを封した小瓶を抱えたアネットが入り口から姿を表す。

 キール達の正面までやってきたアネットが得意気に小瓶を掲げて注目を集める。


「じゃじゃーん♪今回の発明品は『メタモルスライム2号』君で〜す♪」

「私直々に調査班の人手不足を回収する為の発明をアネット君に依頼したのさ。今日はそのデモンストレーションって訳……アネットく〜ん。やっちゃってー」


 「は〜い♪」と元気よく返事を返したアネットは小瓶の栓を抜いて軽やかな足取りでウルフの下まで向かうと、ウルフの髪の毛を徐に掴む。


「―まず班長君から細胞を採取して『メタモルスライム2号』君に与えま〜す。……えい♪」

「――いったぁぁ!!?なになに!?」


 割と雑に髪の毛を数本持ってかれた痛みで正気に戻ったウルフが周囲を見回す。

 ストレスで白髪になったウルフの髪をゲルの入った小瓶に落としたアネットは、小瓶の中身を戸惑う事無く床に垂らして行く。



「うぇ!?一体何が!!?」


 トロリと床に落ちたスライムはしばらくしてボコボコと泡立ちながら体積を増やして肥大化し人の形を形成して行く。

 

 そうやって彼らの目に映ったのは水色のプルプルしたゼラチン質の、半透明な1分の1ウルフ(スライム)が2本の足で立っている姿だった。



「……スライムが班長になったぁ!?」

『――支部長仕事シロ』

「しかも喋ったぁ!?」


 辺りを見回したスライムが突如動き出し、状況が飲み込めずに戸惑っていたウルフを机から押し退けると、ペンを片手に溜まっていた書類を処理し始める。

 その手際の良さは普段のウルフと遜色がなかった。


「…す…すげぇ!班長が増えたみたいだ!!」

「驚くのはまだ早い!『メタモルスライム2号』はコピー元のDNAを取り込む事で本人の運動能力や趣味趣向、個人の癖までバッチリ再現することが可能なのだ!!なんならツッコミだってできちゃう!!」


 驚愕するゼフ達に気を良くしたロマンが開発者を差し置いてアネット開発の『メタモルスライム2号』の解説を声高らかに買って出る。

 「じゃあ代表して…」とキールがスライム班長の前に出てくると咳払いした後に適当にボケて見る。





「班長は熟女趣味――」

『ナンデヤネン』

「――ごぼぉっ!!」

『キールぅぅぅ!?』


 ボケる名目で適当にウルフの名誉を貶したキールがスライムに飲み込まれた。

 雑なツッコミを食らって捕食されかけられ、足だけを出してバタバタともがくキールを救出するアイン達を尻目に開発者サイドは改善点をまとめ上げていた。

 鬼かコイツら。



「――本人と比べるとやっぱりツッコミの雑さ加減が気になるなぁ…」

「再現度についてはもう少し記録できる許容量をあげるしかないですからぁ〜」

「なんにせよこのスライムを量産して代わりに仕事をさせれば、私が堂々とサボれる口実が出来るっ…!!」

「――良くねぇよっ!!なんでツッコミだけスライム準拠何ですか!!俺の髪の毛持っていかれたんですけど!?」


 やっぱりロクな事を考えてなかった支部長に救出されてヌルヌルになったキールが非難しながら詰め寄る姿を尻目に、ずっと危機察知能力が警鐘を鳴らしていたハヅキが首を傾げてうんうん唸っていたウルフに耳打ちする。



「……班長。2号って事は、あのスライム1号がああったって事ですよね?……1号の方はどうなったんですか?」

「待って。今思い出そうとしているけど、何故か思い出せない……なんか無理に思い出そうとしたら頭痛と腹痛と目眩と吐き気に襲われそうな気が……」



 多分ロクな事が起きなかったらしい。

青い顔で額から大量の脂汗を流すウルフの反応からそう決断付けたハヅキは、キールの髪の毛を取り込んでから動くなったスライムからそっと距離を取る。


 心無しかキールの髪の毛から彼の情報を取り込もうとしてるようにしか見えなかった。



「………アネットさん…例えば…例えばですよ?このスライム二人分の情報を取り込む事って可能なんですか?」

「あはは♪無理矢理。現段階は一人分の情報しか取り込めないから、一回漂白してリセットしないと……」

「――おい、あのスライム動かなくなったぞ?」




「…………え、取り込んじゃった?」






『下剋上っ!!』


 突如再起動したスライムが人の腕を形取っていた部位を触手のように伸ばして鞭の様に振るった。


 空を切ってしなる触手は仮面の上からロマンの頬を叩き倒し、アネットの口に中身の入った酒瓶を投擲する。


「――おぶしっ!!?」

「んぶぅ!?――あぁ、お(しゃけ)だぁ〜♪」

「支部長っ!?アネットさん!?」


 一瞬の内に製作者2名が無力化されてしまった。


 その事態に危機感を覚えたウルフ以下は戦闘態勢を取るとスライムを包囲する。



『……えらーえらー。深刻ナえらーガ発生。……正常ナ思考ガ不能……コピー元(オリジナル)ノすとれす値……異常値ヲ突破………原因ヲ捜索……原因ヲ「アリシア・フォン・ベルベット・カルロス・ヴィクトリア」ト「スカディ・イオ・ドラゴニア」ノ二名ト判断………………原因排除………排除………――






――メンドクサイカラ2人ニヒタスラせくはらシテ好感度ヲ下ゲテ破局サセル作戦ヲ実行スルっ!!!』



『――な、なにーーっ!!?』


 面倒ごと追加決定。


 キールの細胞を取り込んで文字通りトチ狂ったスライムは、ウルフが社会的に殺されかねない狂気の作戦を実行する事を宣言した。

 ウルフの肉体とキールのスケベ心が化学反応を起こした結果ろくでも無いモンスターがここに誕生してしまった。




「――手始メニ……2人ヲぬるぬるニシテおっぱいヲ揉ミシダク!!…ソシテおっぱいヲ揉ミシダクッ!」


「おいアイツおっぱいの事しか頭に無いぞ!?セクハラの定義がエロガキの悪戯レベルだぞあれ!?」

「――ウルフ君…君やっぱり巨乳フェチだったのか…」

「ごめんちょっと黙って!?」


 いつの間に復活していたロマンに生温かい視線を向けられてやるせなくなったウルフは強制的に話を断ち切る。

 それと距離をとって自分の身を守るように胸を掻き抱くハヅキからの憐れむような蔑むような失望したかの様な視線がずっと突き刺ささってくるのに耐えきれなかった。

 視線だけで女の敵を非難しているのが痛い程感じられた。

風評被害なのに…



「とにかく!!どうにか止める方法ないんですか支部長!?」

「あのスライムは核の伝令で人型を作っている筈だからそれを壊せば変身を保てなくなって自壊するはず!!」

「――聞いての通りだ!やれハヅキぃ!!」

「御意!!」


 弱点を暴いたウルフがハヅキに指示を飛ばし、命を受けたハヅキは一瞬でスライムへと距離を詰める。

 

 急接近し、眼前に現れたハヅキを迎撃する為に伸ばされた触手は全て空を切り、残像を残してスライムを翻弄する。



「――御免!!」



 横一線。


背後から不意を突いて強襲したハヅキは核目掛けて勢いよくクナイを振り抜き、スライムの胴体を真っ二つにする。

 これで核に攻撃が届いていれば確実にスライムを倒せた一撃だった。





「―嘘っ!?しまっ…きゃぁあっ!?」


 すんでで体内の核を移動させ、ハヅキの斬撃を躱していたスライムは、切断部位に液体の体を埋めて傷を塞いだ後、背後からハヅキを触手で雁字搦めにして宙吊りにする。

 ついでとばかりにちゃっかり彼女の胸を鷲掴みにして揉みしだいていた。



『……ハヅキ・ハットリ……身長156センチ……上カラ81.9、59.3、84……体重……』

「やめて!!体重だけはやめて!!…い、いやぁぁぁぁぁあ!!!!!」


「――ハ…ハヅキちゃぁぁぁん!?」

「おい誰か秘書さん呼んでこい!!」

「あの人今日に限って休暇取って街でプリン巡りしているからどこにもいねぇよ!?」






『ストレス…睡眠不足…眼精疲労…その他諸々を解消スルつぼヲ刺激シマス』


「イダダダァ!?――ぁぁぁぁぁあっ!!?」


『は…ハヅキぃぃぃっ!?』

「―なんか労われてない?」

補足


 1号は間違ってアネットさんの酒を取り込んだ結果、なんらかの化学反応を起こして執務室が吹き飛ぶ程の大爆発を引き起こす。


 結果執務室に保管していた書類全てが消し飛び、ウルフは全てを修復もとい作り直す為に1か月程徹夜で作業し続けたのがトラウマになってしまい、当時を思い出そうとすると体調不良を引き起こす様になりました。

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