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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
35/60

修羅場と怪獣大決戦は似たようなもの

前回のあらすじ


 強く生きて…

 すっかり暗くなった帰り道にてウルフは1人手ぶらでトボトボ歩いていた。


 


 あの後ゲンナイは障子から妖怪の如く自分に熱い視線を向けるルルに気付いた瞬間に個室の窓を破って一目散に脱出。

 ちゃっかりオルトロスを担いで逃げたその姿は沈み掛けの船から逃げ出すネズミより必死だった。



「…ヤロウ…結局おれに飯代と窓の修理費を押し付けて逃げやがった…」


 捕食者と被捕食者の構図を目の当たりにして食欲が失せてしまったウルフは沈む気分を毒づいて誤魔化さないとやってられなかった。



 堕ちるところまで堕ちてしまったゲンナイだったがウルフは他人事には思えなかった。

 現在同棲中のアリシアに24時間。おはようからおやすみまで仕事の量も管理されている彼にとっては、あの2人の関係が未来の自分達の縮図に見えてしまった。

 このままアリシアに甘やかされ続けていたら最悪自分も王城に軟禁されて飼い殺しにされかねない。


(――さらば、ゲンナイ…安らかに眠れ)


 軟禁エンドの可能性に気づかせてくれたゲンナイは次会う時はもう人としての威厳を保てていない気がしたので今回の料金は男の情けで代金を全額自分持ちにしたウルフは、数少ない友人へ静かに黙祷を捧げた。




 遥か遠くで成人男性の悲鳴が聞こえたがきっと気の所為だろう…。







「――ただいまぁ………アリス…?……寝ちまったか…?」


 灯りの消えた我が家のドアを恐る恐る開いたウルフにいつもなら直ぐ返ってくる「おかえりなさい」が聞こえなかった。



 もう遅い時間だから流石に寝てしまったと結論づけたウルフは、物音を立てない様に木造の廊下を静かに踏みながら二階の自室を目指す。


 明日は絶対に自分の待遇について話し合おう。せめて台所には立たせて貰える様に交渉しよう。と決意を固めたウルフは、自室のドアノブを握り音を立てない様にゆっくり開いた。

 こんな夜更けでもせめてお風呂に入って汗を流したかったウルフは自室から着替えを確保する為にドアの向こうに足を踏み入れた。








「――今日もお疲れ様ウルフ。ベッド温めておいたわよ」

「なんでアンタが居るのさスカディさぁぁぁん!!?」



 扉を開けたら自分のベッドに部下(スカディ)が寝そべっていた。


 部下というにはちょっと曖昧な所があるが書類上は一応部下扱いの火龍人(ファイアドレイク)の女性が当たり前の様にセクシーなネグリジェ姿で陣取っていた謎展開に冷静さをかなぐり捨てたウルフは全力シャウトでスカディにツッコミを入れたのだった。




「――何を驚いているの?貴方は私の婿になる男だからこうやって貴方の身を守る為に動いていてもおかしくないでしょう?」

「色々ツッコみたい所があるけど、大体ここおれの家!!一体どうやって入った!?」


 何を当たり前なと不思議そうな表情をするスカディに対して、動揺を隠せないウルフが詰め寄る。

 こうやって自宅まであっさり侵入された事に額から冷たい汗を流すウルフだったが、スカディの指先に誘導されて視線を冷たい風を部屋に送り込む窓に向けた。



「――鍵が無いからこじ開けて入ったわ」

「いや窓ぉ!!?」


 窓としての役目を放棄して力無くプラプラ揺れる窓の姿に思わず悲痛な叫びが出てしまった。

 

 辛うじて蝶番でくっついているだけの悲壮感溢れる窓の姿は、強い風が吹くだけであっさり外れて何処かに飛んでいきそうなくらいに力無く揺れていた。



「私を傷物にしといていつまでも放っておくからこうやって不法侵入するしか無かったじゃない?」

「不法侵入の自覚はあったのんかい!!……てかあなたに手を出した覚えは無いし、人聞きの悪い事言わないでくれます?!」

「――寂しいじゃない。アリシアにばかり構って…だから一緒に寝て私を温めなさい」

「いや言い方ぁ!!」


 有無を言わさずにベッドに引きずり込もうとするスカディに抵抗するウルフだったが、元の膂力が違うせいで力負けしてしまってズルズルと抱き寄せられる。



 ウルフの全力の抵抗も虚しく結局着の身のままベッドに引きずり込まれてしまう。

 捕まえたウルフを逃がさない様にウルフの頭を抱き抱えたスカディは、普段は鎧に覆って隠している豊満な胸の谷間に、強く彼の顔面を押し付けるのだった。


「ん〜!!ん〜〜!!?」

「――それとスカディは可愛く無いからイオって呼んでって言ったでしょ?」


「――ぶはっ!!?そもそも前から思っていたけど婿って何の話だっ!?」



 アリシアに負けず劣らずの大きさと柔らかさを誇るダイナマイトお胸様から脱出したウルフはスカディを見上げた。

 ウルフを見下ろすスカディは上気して赤く染めた頬で「ん」と短く吐息を吐くと、左の人差し指で自分の欠けて途中から折れている自分の左側頭部から生えた角のを指し示す。

 ウルフはその折れた角に覚えがあった。


「――私の左角…貴方と戦った時に折れたから…」

「……スカディさん…その…」

「イオって呼んで……折った事を気に病まなくて良い…あれは私に非があるし、貴方が必死に攻撃した結果、私の左角が折れた……それだけの話――」



 昔の話になるがウルフとスカディは3、4年前くらいの初邂逅で殺し合いに発展した事がある。


 当時魔王軍を新世代への世代交代という名目で辞職したスカディは、暇を持て余す為に血の気盛んな冒険者や魔獣を相手に襲撃しては一方的に叩きのめす辻斬りみたいな凶行を働いていた。


 幸い命に別状は無い程度で手加減していたのもあって被害にあった冒険者は全員軽傷程度で済んでいたが、「調和の証明(ユニオン・サイン)」では問題になっていた。


 この件を単独で調査していたウルフはスカディが冒険者を襲撃する現場を押さえたものの、興味の対象が彼に移ったスカディがウルフに攻撃を加えて戦闘になったのが事の発端だった。


 血塗れになるまで叩きのめした彼を「まだ若輩者」とスカディが油断していた所を不意を突いたウルフの猛反撃を食らい、防ぎきれなかった槍の一撃が彼女の左角を半ばからへし折ってしまったのである。



「―龍人(ドレイク)の角は私達にとっては一族の誇り……一生生え変わる事のないこの角は龍人(ドレイク)の強さと威厳の象徴……故に折られた者は雄ならば折った者に生涯の忠誠を誓い。雌ならば嫁がなければならない…」

「経緯は分かったけど要はしきたりに従えと?」



「――後個人的な好み」

「さっきの説明関係無い!?――ええぃ!!話を聞いて!!」



 さぁさぁ。と思った以上にゴリ押してくるスカディは、捕まえたウルフを押し倒し馬乗りになってグイグイと婚姻を迫って来る。

 この状況にデジャブを感じて遠い目をしていたウルフだったが、スカディの体重移動を利用して一瞬で馬乗りの彼女を振り払うと、ベッドの上で正座になって彼女に向き直る。





「―――ごめんなさい。貴女の好意に応える事は出来ません」



 それはウルフの真摯な気持ちだった。

正座の状態で深々と頭を下げる彼には既にアリシアがいる。

 これ以上曖昧な関係のまま引き伸ばすのはスカディにもアリシアにも失礼だった。


 ウルフの気持ちを目の当たりにしたスカディは流石にショックを受けた様子だった。



「――やっぱり…アリシアがいるから…?」

「……アリシアとはつい最近付き合い始めたんだ…その…今までスカディさんの気持ちを弄ぶ様な事をして……」

「――いいの…謝らないで」











「――既成事実を作るだけだから」

「状況悪化したぁ!?」



 諦めるどころか余計に火が着いた様子のスカディは、赤い瞳を妖しくギラつかせて舌なめずりするとウルフに飛びかかる。

 それを紙一重で躱してベッドから飛び降りたウルフは自室から離脱しようとドアに向かって駆け出すも、飛来した尻尾に身を絡め取られてとうとう捕まってしまう。


 尻尾の力で獲物(ウルフ)を眼前に引き寄せて再びベッドの上で馬乗りになったスカディは、興奮で赤く上気させた頬を恍惚の表情で歪ませていた。まさしく極上の獲物を捕食するドラゴンの様に。


「――貴方がいけないのよ?せっかく捕まえた龍人(ドレイク)の女をほったらかしにするから……今までの寂しさを埋めさせて貰うから」

「いや待ってぇ!!おれ彼女いるってさっき説明したでしょぉ!!」

「知らないなら教えてあげる――龍人(ドレイク)(おんな)は執念深いわ。――私のモノにならないならば堂々と寝取ってやろうじゃない――大丈夫よ。私も初めてだけど、ちゃんと気持ち良くしてあげるから…天井のシミを数えているうちには終わっているわ」

「それ強姦魔のセリフぅぅぅ!!!」



 最早絶対絶命。


 ウルフはスカディの人外の膂力で押さえつけられて、ぶちぶちとスーツのボタンごとむしり取られて上半身を裸に剥かれかけていた。

 上半身を凝視してスイッチが入ったスカディはネグリジェの肩紐がはだけ、興奮で息を荒くして執拗にウルフの内腿に自分の太ももを擦りつける。

 哀れウルフはスカディにぱっくりこれからぱっくりと……






「――させないわよっ!!」

「ちぃっ…!」


 食べられる(意味深)事は無かった。


ベッドを突き破ってタケノコの様に現れた蒼い剣先がウルフの右側頭部を掠めてスカディの脳天目指して飛び出した。

 発情したスカディを牽制した一撃は彼女の鱗で覆われた掌で受け止められて火花が散るだけで済んだが、色っぽい空気を爆発四散させてウルフをスカディの魔の手から庇ったのだった。



「アリスっ!!一体何処から…!?」

「――ここよ!」


 蒼銀の剣先がアリシア御自慢の両手剣「ブリュンヒルデ」のものだと理解したウルフが周囲を見廻すが何処からとも無く彼女の声が聞こえるだけでアリシアの姿は影も形も見当たらなかった。






 ベッドの下から窮屈そうに身を捩って出てきたアリシアを目にするまでは。


「――なんでそこからでてくんだよっ!!?」

「どうせイオの事だから貴方に夜襲(意味深)をかけると思ってずっとスタンばってたわ……3時間くらい」

「通りで家の灯りが全部消えてると思った!?」


 よっこいせと窮屈そうにベッドの下から這いずって出てきたパジャマ姿のアリシアは立ち上がって埃を払うと、上半身を露わにしたウルフの姿をさりげなく目に焼き付けるとスカディに対峙する。

 対するベッドから降りて立ち上がったスカディもウルフとの蜜月の時間(一方的)を邪魔された怒りを隠そうともせずにアリシアを睨みつける。


 ウルフははだけて色々露わになったスカディの姿を見ないように視線を逸らすことしか出来なかった。



「ホント貴女って節操が無いわねイオ!ウルフが巨乳フェチなのを利用して色仕掛けとか淑女として恥ずかしくないのかしら!?」

「その言葉をそっくりそのままお返しするわ。抜け駆けした分際でよくもまぁそんな事が言えたわね?未婚の女が独身の男の家に転がり込むなんてどんな情操教育受けてきたのかしら…?」


「――はぁ?」

「――あぁ?」



 ナニコレ。ウルフを挟んで凄む2人に完全には萎縮してしまった彼は今すぐにでも逃げ出したい気持ちを抑えるのだった。

 メンチを切る美女2人に挟まれて完全に逃げるタイミングを失ってしまったウルフは冷や汗を流しながら荒らしが過ぎ去るまで耐えるのだった。


 そもそもかたや、この国のお姫様とは思えない形相で睨み合う2人から逃げ切れるとは思えなかった。



 ウルフを挟んで睨み合っていた2人はこのままだと埒があかない事を悟り舌打ちを鳴らすのだった。





「――じゃあウルフの片腕を引っ張り合って最後にウルフを掴んでいた方が勝ちという事で」

「――乗った」

「待ってそれおれ裂けるやつ!!?……ぇ、嘘ホンキでやるの?やめて裂ける!!チーズみたいに裂けあああああっ!?」





 結局、朝日上るまで2人の引っ張り合いは続き、奇跡的にウルフは脱臼だけで済んだのだった。


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