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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
34/60

久し振りに会う友達が沼に全身どっぷり浸かりかけていたら全力で回れ右

前回のあらすじ


 ウルフ、売られる(写真が)


 夜の繁華街は賑わう。

特に年末の忘年会シーズンなら尚更だ。



 冷たい風が吹いて尚も、冒険者や呑兵衛達が賑やかに石畳を鳴らす夜の街をげっそりした顔でウルフは黒いケースを担いで歩いていた。




 アネットによる盗撮及び写し絵転売の被害にあったウルフは、金蔓2人の手に写し絵が渡る前にアネットから写し絵を奪い取りビリビリに引き裂いた。


 当然ながら今までの盗撮分の写し絵の原画の引き渡しを要求したウルフだったが、アリシアとスカディが不服そうに猛反対。

 金蔓2人を味方につけたアネットと共に3対1で徹底抗戦の姿勢を崩さなかった問題児達に対して班長権限を使って無理矢理原画を奪い取ったのだった。




 恨めしげな視線で訴えてくるアリシアとスカディは兎も角、研究費の不法な供給源を絶たれたアネットまでもが不貞腐れて敵対するような視線を向けてきたのでウルフは業務終了までの間生きた心地がしなかった。


 その後も隙あらば喧嘩しようとするアリシア達の仲裁やらで一日を終わらせてしまったウルフは、最近出来たと言う東国(あづまのくに)のおでんと言う食べ物を提供する飲み屋に1人で向かっていた。



 出不精のウルフは余りこう言った飲み屋には行かないが、今回アリシアと一緒に帰りたくなかったのと、割と親しい人間から呼び出されたという事もあってウルフは夕飯はそっちで取ることにしたのだった。



 あの衝撃の事実を知ってすぐにアリシアと一緒に帰って食事して1日を終えるのが少し怖くなったのも少しだけある。

 少なくとも結構深めの闇を抱えているアリシアが同じ屋根の下で生活していると考えるとちょっとだけ怖かった。







 「でんらく」と書かれた暖簾を入り口に垂らした和異国情緒溢れる建造物にたどりついたウルフは、この国では珍しい引き戸になっている入り口を開いて入店する。


 店員に案内され待ち人が待つ個室の部屋まで進み、障子を開けて目的の人物に声を掛けると卓上台を挟んで対面の座布団にあぐらをかく。



「――よお。息災か?」

「相変わらずだらしない格好してるな。デコ」

「デコ言うな若白髪」



 ウルフを出迎えた男は、手入れを怠ったボサボサの黒髪と寄れた白衣をシャツの上から羽織っていただけの確かにだらし無い格好をしていた男だった。


 無精髭を生やしっぱなしにし、メガネをずり下がったまま掛けているせいでだらし無さに拍車をかけているこの技術者然とした男の名は、「調和の証明(ユニオン・サイン)」技術班所属。

 名をゲンナイ・ガクタ(額田源内)。

名前で分かる通りハヅキと同郷の東洋人である。通称、デコ。


 ウルフの武器であるオルトロスの設計、製造は彼の発案によって作成された為、何気に凄い男である。



「――聞いたぜ?あの静謐な牙(サイレント・ファング)とやりやったそうじゃねぇか?…で、どんな無茶をしでかしたんだ?」

「お前の作ったポンコツがもう少し保てば、ギリギリで勝ってたよ」



 そりゃないぜと焼酎を煽るデコもといゲンナイを尻目にウルフは自分の取り皿を確保すると、ぐつぐつと音を立てて具材を煮込む鍋の中から大根をフォークで突いて自分の皿によそおい、4等分にカットして口に運ぶ。


 出汁が良く染みた大根は口の中でほろりと溶けてしまうくらいに柔らかくなっていたが、特に冷まさずに口の中に放り込んだ為にうっかり舌を火傷しかけてしまった。



「ばーか。おでんははふはふやって冷ましながら食うんだよ」

「……知ってたなら教えろよ…」



 創造以上の熱さに、慌てて水を口に含んだウルフを笑うゲンナイは彼の恨めしげな視線を流すと、「そういえばなんだよそれ?」とウルフが持ってきて壁に立てかけていたケースを箸で指す。

 立てかけられた90センチ程の大きさはあるケースに手を伸ばしたウルフは、「コイツで用事があったんだ」と畳の上でケースを解放し、中身が見えるようにゲンナイの方に押し出した。



 ケースの中に姿を隠していたのは、先日修理を終えてウルフの下に戻ってきたオルトロスその物だった。


「……なんだ。オルトロス(俺が作った奴)じゃねぇか……でっコイツを改造しろってか?」

「話が早くて助かる…そもそもお前が技術班に顔出さないからこうやって持ってきたんだろうが――」


「悪かったって……こっちも事情があるんだよ……で、要望は?」

「――脆いからもう少し頑丈にして欲しいし、せめて弾丸を連射できる様にしてほしいし……あぁ、そうだ。出来れば簡単に故障しない様にしてくれ」


「――無茶言ってんじゃねぇよ…」



 「お前の基準に合わせたら量産もクソもねぇっつの…」と毒づくと同時にケースを閉じたゲンナイは、ケースを手元に寄せると、ウルフの要望を懐から取り出したメモに箇条書きしていく。



「――無茶だって言ってなかったか?」

「俺を誰だと思ってやがる?()()とは言ったが()()とは言った覚えはねぇ――少し時間と金は掛かるが要望以上の出来に仕上げてやる。」

「――程々にしとけよ」


 相変わらずの捻くれ具合と自信家振りに訝しむ様な表情をしていたウルフは技術班を引っ張る天才の友人に呆れつつも、取り敢えず引き受けてくれた事に安堵し、酒が入って頬が赤くなって尚もペンを走らせる仕事人を労る。



「――ただし、条件がある」


 一通りメモ紙を使い込んだゲンナイは、がんもどきを噛みちぎりってビールで流し込むウルフに顔をあげると、薄暗い灯りで照らされた先程以上に真剣な表情でウルフに対面する。

 

 纏う雰囲気が変わった事を察したウルフは、こんにゃくが刺さったままのフォークを置いてゲンナイからの言葉を待った。






「――今日呼び出したのは他でもねぇ……頼む!お前ん()に泊めてくれ!!」

「――お前アリシアが目当てならやめておけ?――血の雨を降らすぞ?」

「違えって?!話を最後まで聞け!?」




 緊迫した表情からそのまま綺麗な姿勢で土下座を繰り出したゲンナイのせいで緊張した空気が霧散した。


 アリシアに対して割と独占欲が強めのウルフの牽制(もとい脅迫)にドン引きするゲンナイだった。


「――違うも何もお前、女とか酒とかギャンブルとかそう言う方面でだらし無いのを長い付き合いで知ってんだぞこっちは……で、何?借金取りにでも追われてんのか?」

「お前が件の王女さまに対して拗らせてんのは良いとして、コッチは借金取りよりタチが悪い奴に追われてんだよ…もうこの際地下の物置でいいから頼むよ!!」


 なりふり構わぬ必死の土下座で懇願するゲンナイの姿に何か感じるものがあったのか、ウルフは何があったとゲンナイに顔を上げさせてから尋ねる。

 対するゲンナイも土下座から元の体勢に戻ると、徳利の中の焼酎を飲み干すと信じられないものを見たかの様に顔を青ざめさせると震える体を押さえて語り出した。



「――俺の助手にルルって名前の魔族の女がいたのを覚えているか?……ほらおっぱいの大きい……」

「るる……ルル?…あぁ、サキュバスの?とうとう彼女に愛想尽かされたか?」


 ゲンナイの助手として彼をサポートしていたアメジストの様な髪をたなびかせる魔族の女性を思い浮かべたウルフは、なんて事のない様に軽い感じでゲンナイに問いかける。

 鍋の底の卵に手を出したウルフを視界に収めたゲンナイは、未だ震えるの止まらない体を掻き抱きながら訴える様に悲痛に叫んだ。



「――愛想尽かされた方がよっぽどマシだったさ………アイツ俺ん()に鉄格子を発注して取り付けやがったんだ」

「待って何?鉄格子って何やらかしたのお前?!」


 苦虫を噛み潰したような表情で告げられたゲンナイのカミングアウトに戦慄したウルフはサルベージした卵を再び鍋の底に落としてしまった。



「『ゲンナイさんは何もしなくていいんですよ』つってあの女全力で俺を甘やかしにきやがるんだよ……手錠持って恍惚とした表情を浮かべてやがった…」

「――なんなのお前?何をどうしたらそこまで拗らせさせる事ができるの!?…あの人割とうちのギルドだと理知的な方だと思っていたんだけど!?」

「しまいには首輪とかおしゃぶりとかガラガラを持ち出して来やがる始末だ……成人男性用とか一体どっから用意しやがった…」

「首輪……おしゃぶり………ガラガラ……」

「――もう逃げ回って1ヶ月…あの女が技術班で待ち構える限り碌に出社できねぇし、自宅にも帰れねぇ…」

「――――。」


 ウルフはショックのあまりに絶句してしまった。


 確かにこの(ゲンナイ)は女と見たら直ぐに口説きに掛かる下半身で動いているタイプ(キールとは別ベクトル)のクソ野郎だが、男以前に人間としての尊厳を踏み躙られ掛けているのは天罰だとでも言うのか?

 一体それらを使ってゲンナイ(コイツ)にナニをしようと言うのか?


 何故か他人事じゃない気がするウルフの憐憫の視線と何処からとも無く感じる熱っぽい視線を受けたゲンナイは火がついたのかヨレヨレの白衣を脱ぎ捨てると震える手で握り拳を作り、それを自分の胸に叩きつける。


「――アイツは俺を限界まで依存させて堕落させるつもりなんだ…いくらクソ野郎でもこの一線を越えたら俺は二度と人前を歩く事が出来ねぇ……俺はあんな女なんかに絶対に負けねぇ!!」


 もうダメな気がする。


 なんとなくこの男の末路に同情したウルフは熱くなる目頭を押さえてゲンナイの肩を軽く叩いた。




「――事情はわかった…部屋はアリシアと相談して日当たりのいい所宛てがうから…」

「…ありがとよ……無茶言ってんのはこっちの方だ…新婚ホヤホヤの2人の敷地に転がり込むなんて無粋にも程があらぁ…」

「いや新婚ってわけじゃ……そういやギルドの方は大丈夫なのか?」

「前から俺がいつ失踪してもいい様にマニュアルだけは作ってるよ…有事の際の連絡手段だって残してるさ」

「――その周到さは見習いたいくらいだな…」


 手際だけは周到なゲンナイに舌を巻くウルフに対し、ゲンナイは肩を竦めて被りを振った。

 本人からすればこの状況に陥った時点で不服なのも当然だ。


「だったらもっと上手くやらぁ…ナニが悲しくて職場から脱走しなきゃいけないのさ?」

「……じゃあ今日は大丈夫な方か…?」

「は…?何がだよ?」

「――えっお前気づいて無かったの?…さっきからずっとだぞ?…てっきり気付いた上でハッタリかましていたかと……」

「……もったいぶんなよ…一体なんの話だ?」

「――何って…」



 キョトンとした表情で入り口側の障子を指したウルフに釣られてゲンナイはウルフの指先を追う。










 障子に穴を開けて此方をじっと伺う紫色の瞳と視線があった。










「――ほら、そこの入り口だよ。







――ルルさんがお前を見ている」

教訓


 女は一種のホラー

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