表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
33/60

争いは同じレベルの者同士でしか起きない

前回のあらすじ


 スカディ帰還


「離れなさい!!」

「断る!!」

「はなれろ!!」

「イヤだ!!」










「――いい加減離れろばーかばーか!!」

「お前の言うことなんか聞くかばーかばーか!!」




 結局アリシアとスカディの、ウルフを巡る大人気ない喧嘩は30分くらい経過した今現在も続いていた。


 お互い相手を攻撃する悪口のレパートリーが尽きてきたのか、最終的に悪口の内容が子供の言い争いのレベルにまで下がっていた。






「お前ら俺を労っていたたたたっ!?」



 ヒートアップ(?)する喧嘩に比例するように、2人共完全にウルフの安否を気遣う事が頭から抜けていた。


頭から下をスカディの翼にすっぽり覆われて蓑虫状態になっているウルフの胴体は、しがみつくスカディの鋭い爪と戦闘に特化した火龍人(ファイアドレイク)の凄まじい膂力によって締め上げられてウルフの身体はコーラの瓶と同じシルエットになりかけていた。


 追い討ちをかけるかの様にスカディを引き剥がそうと引っ張るアリシアも、スカディがウルフにしがみつく力が段々強くなっていくことに比例するかの様に馬鹿力で遠慮なくスカディを引っ張るせいでウルフに余計な負担が掛かっていた。



 今のウルフの脳内にはくるみ割り人形で割られようとするドングリの構図が浮かび上がった。

 洒落にならない。




 アイン達に引っ張られて部屋の隅まで避難していたハヅキだったが、ウルフを巻き込んでレベルの低い喧嘩を繰り広げる2人を指差して「いつもなんですか…?」と尋ねる。

 

 アインが「いつもの」と頷いた。


今回は執務室が崩壊しない分大人しい方だと付け加えられたハヅキは、呆れた様な複雑そうな表情で室内の騒音値を跳ね上げている2人(プラス1人)から距離をとった。




喧嘩に動きがあったのはその直ぐ後だった。





「――いちいち重いのよ貴女は!!そんなんだからウルフから避けられているのに気付きなさいよ!!」



 どの口が言ってんだ。アリシアの頭に特大のブーメランが刺さったように見えたが誰もツッコまなかった。


「――馬鹿な…私がウルフに避けられる事は無い……無い筈…」


 当初否定しようとしていたスカディだったが、思い当たる節があったのか、口調が段々と弱々しく尻すぼみになっていく。


 その様子に弱みを握った者特有の意地の悪い笑みを浮かべたアリシアが、ここぞとばかりに畳み掛ける。


 大人気ない。



「あらあらあらあら?まさかあなた思い当たる節があるんじゃ無いの?避けられている自覚があるんじゃないの?」

「――そ…そんな訳無い!私はウルフに避けられてなんかいない!!――そ、そうだよねウルフ!!」



「アダダダダっ!ギヴギヴっ!後ノーコメントで!!」

「………は、ははは。ウ、ウルフもそんな冗談言えるのね…」


 

 スカディの口から漏れる乾いた笑い声が虚しく響く。


 髪と手足と背中を覆う鱗で全身真っ黒な印象が強いスカディだったが、今は若干白くなり掛けていた。

 なんだかサラサラの灰になってそのまま風に攫われてしまいそうだった。



「現実を見なさいイオ。むしろ貴女の為を思って言葉を濁したウルフに感謝するべきよ」


 ウルフを拘束するスカディの力が弱くなった一瞬をついて彼女を引っこ抜いて後ろから羽交い締めにしたアリシアは、勝ち誇った笑みを浮かべ、スカディの耳元でそう囁く。


 解放されたウルフは白目を剥いて顔面から自分の机に倒れ込み散らばった書類を下敷きにする。

 丘に上がった魚のように酸素を求めて小さく痙攣していた。


 アリシアに負けず劣らずの立派な巨峰を有するスカディは確かに女性らしい柔らかさを有していたが、それを差し引いても上半身に掛かる負担で締め殺されかけたウルフはそんなものを堪能する暇なんて無かった。

 むしろ僅かでも下心が起き上がる度にそれを敏感に察知したアリシアの射殺すような鋭い眼光を受けていたので実質地獄だった。


幸いにも腕の関節は増えなかった。




「――嘘よ!そんな事はあり得ない!!」


 我に帰ったスカディがアリシアの拘束を抜け出さんと暴れ出し始め無理矢理瀕死のウルフに詰め寄る。

 暴れた勢いで更に崩れた書類の山がウルフの頭にのしかかった。


「お、お願い答えて!私の悪い所を教えて!!……言ってくれればなんでも直すから…!ウルフの為ならなんだってするから!!」

「だからそう言うところが重いのよ!?いい加減自覚しなさい!!」

「お前も大概だろう!!ウルフのパンツを盗んで嗜む女に重いなんて言われたく無い!!」



「――アリシアさん?」


 知りたく無い事実が飛び出た衝撃で復活したウルフが書類の山を書き上げてぬるっと顔を持ち上げる。

 なんか古いパンツから無くなって行ってる気はしたが、盗まれたと言うのはギリギリ理解できた。何の為かは考えたく無かったが変人に囲まれて過ごしたせいでなんとか理解は出来た。


 …でも嗜むって何?

(…吸うの?おれのパンツはタバコか何か?……趣向品なのおれのパンツ??)


「――ひ、人聞きの悪い事を言わないで……か…勘違いしないでウルフ。わたしは偶然…そう、偶然。同居する前にたまたま用事があって上がったあなたの家の寝室のクローゼットの下から2番目の棚の引き出しに落ちていた男物のパンツを拾っただけだから!!」


「…おれ、同居する前にお前を自宅にあげた覚え無いんだけど?」


 ウルフから向けられた胡散臭げな視線に耐えきれなかったアリシアは額に冷や汗を浮かべて必死に言い繕うも、結局自分から深めの墓穴を作ってしまう。

 そういやコイツに自宅の住所教えたっけ?と更にウルフの視線が冷たくなる。

 問い詰めれば他にも余罪が出て来そうだった。




「くそっ!聞き捨てならない何かが聞こえた気がしたけど色々羨ましいっ…!!……ウルフ。そう言えば私もウルフの家の寝室のクローゼットの下から2番目の引き出しに男物のパンツを忘れていた気がするから取りに行っても良い?」

「堂々と犯罪予告する女を上げる訳無いだろ…アリシアも後でおれのパンツ返せ」

「もう無いわよ」

「………は?」

「…それよりイオ…あなたよくも墓まで持っていくつもりだった秘密を暴露してくれたわね…」



 無くなったの?おれのパンツに何があったの?


第二王女(アリシア)の闇を垣間見て絶句するウルフから逃げる様に話を切り替えたアリシアは、殺気を撒き散らしながら仁王立ちするスカディに向き直る。


 今にも怪獣大戦争が勃発しそうだが、内容自体は子供の喧嘩並みにしょうもない。



「――いい気になってるのも今のうちよ。わたしだって貴女の恥ずかしい秘密を握っているのだから覚悟することね!」

「――滑稽ね…私にはウルフに聞かれて恥ずかしい秘密なんて一つもないもの…どんな面白い作り話が飛び出てくるのか楽しみね…」

「言ってくれるじゃない…貴女の恥ずかしい秘密…それは――」




『――班長君?…聞こえる…?私よ』

「…その声はアネットさん?!一体何処から……」


「ここよ」


 いつの間にか執務室から姿を消していたアネットの声に反応したウルフは、幸か不幸かスカディの恥ずかしい秘密を聞き逃していた。

 目を離した隙に取っ組み合いになっていた2人を見なかった事にして辺りを見廻すがアネットの姿は何処にも無い。


 ガコンと音を立ててウルフの足下の床板が外れ、そこからいつもの魔女帽を被ったアネットがひょこっと顔を出す。



「……どっから出てきてんですか…」


「スカディちゃんが帰ってきた時点でこうなる事は予想出来ていたから……ンんっ…」




「……アネットさん?」


「何も?……あ、後の仕事は私が手伝っても………うんん」


「アネットさん?」




 床に長手袋を嵌めた両腕を突いて這いあがろうとするアネットは、腰まで出た辺りで身を捩り始めるも、中々下半身が出てこなかった。


 なんとか誤魔化そうとしていたアネットだったが、ウルフの諭すような同情するような生温かい笑みに居心地が観念したのか、視線を逸らしていた顔をあげて堂々と答えた。



「ハマったみたい」

「……尻がですか…」

「お尻が……」



 バツが悪そうにアネットは答えた。

確かに、アネットが出てきた床穴は、人一人なら余裕で通れそうな大きさだったが、彼女の身体は一般的な女性より魅力的なS字を描く腰を持っていた。

 引っかかってもおかしくは無かった。




「…どうするんですかコレ」

「……お姫様抱っこで抱き上げるしかないわ…」

「――お姫様抱っこ…」


 ディープトーンの黄色の瞳に見つめられたウルフは、現実逃避するかの様に天井を仰いだ。

 

 未だ喧嘩を続ける2人の喧騒で我に帰ったウルフは、2人の視線がこっちに向いていない事を確認すると、アネットを救出する為に慎重に肩と腰に腕を回した。



 割とあっさりスポッと抜けたアネットだったが、今度はウルフにとっては洒落にならない事態になってしまった。


 アネットの露になっている胸元が目と鼻の先まで近づいてきてしまった。

 悲しきかな男のサガ。彼女の目の前と理解していても、ウルフの視線はダイナミックな渓谷に吸い寄せられていた。



「……あまり見られると流石に困るわぁ…」

「じゃあ、天井見ときます…」

「今度はバランスが崩れそうなんだけど…」

「――アネットさん……」





「ループはまった…助けて…」

「あらあらぁ…」



 ちくしょうなんでアネットさんの服は胸元がガッツリ開いてんだ。


 誰に向けたわけでも無いウルフの八つ当たりは、虚しく虚空に消えていった…。




「――それなら私の目を見たらどうかしら班長君?」

「――その手があったか」



 起死回生の一手を授けられたウルフは、進言通りにこちらをじいっと見てくるアネットに視線を合わせて見つめ返す。


 ダークイエローの瞳が穴が開く程に見つめ返してくる様になんとなく居心地が悪くなったウルフは、アネットを下ろそうと腰を屈めた。



「もう良いですか?下ろしますよ?」


「もう少し。もうちょっとこっちに目線をお願い……はいチーズ」





 アネットの指示に従ったらシャッターの鳴る音がした。

 ウルフが驚く間もなくアネットの帽子からポラロイドカメラのように吐き出されて複写された写し絵には、お姫様抱っこで抱き上げられたアングルで、顔を赤らめてこちらを覗き込むウルフの表情がくっきりと写っていた。


 ウルフが状況を把握するより早く彼の腕から抜け出したアネットは、帽子に仕込んだカメラから現像された写し絵を片手に喧嘩の渦中に飛び込んだ。









「撮れた!!ご要望通りの『お姫様抱っこしてくれる班長君が頬赤らめて恥ずかしそうに覗き込んでくる』シチュの写し絵!!ひゃっほう一点限りの早い者勝ちよぉ〜!!!」


「25万ルビィで是非!!」

「ちょっと抜け駆け禁止よ!!こっちは50万!!」

「大人気ないぞ貴様っ!!?」















「班長落ち着いて下さい!!弄ばれた気持ちはよく分かりますから座った目でアネットさんの後頭部にオルトロス(班長の武器)の銃口を向けるのはやめて下さい!!…班長!?はんちょ〜ぅ!!?」

 研究費獲得を目論んで盗撮作戦を敢行したアネットさんは、当然ながらウルフから制裁を受ける事になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ