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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
32/60

脳筋が2人。問題児全員


「…流石に冬場で本格的に活動する冒険者の数は少ないけど、ギルドに無断で潜る違反者も多くなってきたな…」

「それだったら今度監視で立たせる職員の視察を行いましょう。これだけ数が多いと袖の下を受け取っている職員の存在がいる事を考えるべきだわ」



 休暇を迎えようとしている調査班の執務室ではいつもと少し様子が違った。


いつもなら山の様に積み上がっていた書類の多くは、アリシア直々の仕分け作業によって急を要する書類と、それ以外。緊急性の低いもの等に分けられていた。


 これによってウルフの負担が大幅に減ったのは調査班で1番の変化だった。






「――来ちまったかぁ…」

「――来たんだよなぁ…」

「――帰ってきて欲しくなかったなぁ…」

「…あの…どうされたのかですか?」


 …がそんなウルフ達をさて置き、各々のデスクで絶望を隠しきれてない凸凹トリオのキール、ゼフ、アインの3人は、各々天井を仰いだり机に突っ伏したりしながら完全に絶望し切っていた。


 平常運転なのは事情を知らずに3人を心配そうに見下ろしているハヅキと、魔道具をいじっているアネットぐらいだった。



「……スカディさん」



 誰が呟いたのかは分からないが、おもむろに飛び出した名前に反応したのはウルフとアリシアだった。

 ウルフはピクッと肩が跳ね上がり、アリシアは大きな溜息を一つ。



「――ハヅキちゃん…気をつけなよ…」

「え…」

「――暴れ出したら余計な事を考えずに自分が助かる事だけ考えて逃げるんだぞ…」

「……ゑ…?」



 その人暴君か何かですか?というツッコミは出なかった。名前だけは聞いていたが先輩達(主にゼフとアイン)のありがたいアドバイスが手に負えない魔獣の対処方にしか聞こえない時点でハヅキは自分の中の警報が止まらなかった。




「……説得出来るかな…スカディさん…」


 両手を組んで大きな溜息を吐くウルフは、不安そうなのが見てとれるくらいには参っていた。

そんなウルフの肩にポンと手を置いたアリシアは、「最悪自分が割って入るから」と悲壮な覚悟を決めた表情でウルフを励ます。


 そんな彼らの様子に、ハヅキは「大丈夫かなこの職場…」と内心で留めて置いた。


 今更だからだ。






「――ただいま」


「来たぁ!!?」


 


 両開きの扉が弾かれる様に開いて件の彼女が姿を現した。



 およそ1か月以上も調査班のデスクを開けていたその女性は夜の闇の様に真っ黒な滑らかな黒髪を肩まで流し、燃え盛る炎の様に情熱的な瞳は無気力そうに開かれ、155センチ程の背丈をショートパンツとセーターで包んでいた。

 


 彼女の異形を示す様に背中と尻からは黒くて大きな翼と尻尾を生やし、側頭部からは尖った耳と左側だけ欠けている大きな角を生やし、手足の先を黒い鱗が敷き詰められて鎧の様に覆い、剃刀の様に鋭い爪を生やしたその女性の名はスカディ・イオ・ドラゴニア。


 又の名を、調査班最後の問題児。




「………?…ただいま?」

「おかえりなさいませぇ!!スカディさん!!」

「えっ!?」

「出張お疲れ様でしたぁ!!アリシアさんと喧嘩しないで貰えると助かりますっ!!」

「――えぇっ!?」



 いつまでも返事が返ってこない事を疑問に思って首を傾げたスカディがもう一度声をかけると、整列したキール達3人が床と水平になるまで頭を下げて出迎える。


 ハヅキはあからさまにスカディを恐れるキール達に困惑し、視線をスカディと深々と頭を下げるキール達へと交互に向ける。




「――誰?」

「ひゃい!?」



 そんな綺麗な直角を作ったキール達をスルーしたスカディは、無表情をぱっと見変えずにハヅキの眼前に詰め寄った。



 一見むすっとしている様にしか見えない表情の女性がいつの間にか視界の全域を占領するまでに詰められたハヅキは、心臓が跳ね上がったと思う程驚いた弾みでデスクに尻尾が当たるまで後ずさった。


 スカディもハヅキを追って同じ数だけ詰め寄って、ハヅキの逃げ場を奪う。


 多分彼女は距離間を分かっていない。




「――こ…この度調査班付になったハヅキ・ハットリです!よ、よろしくお願いします!?」











「よろしく」

「4文字!?」



 覚悟を決めて敬礼までして自己紹介をしたハヅキだったが、興味を失ったスカディによってあっさりと解放される。


 額がくっつくまで顔を近づけていたスカディが目の前から離れていくのと同時に腰を抜かしたハヅキがヘナヘナと力無く座り込む。


 「歓迎されてるわぁ〜…多分…」とアネットからフォローされたが、スカディの無言の威圧感から解放されたハヅキには届いていなかった。




 ハヅキから興味を無くして真っ直ぐにウルフが座る執務室の机に向かって行ったスカディだったがウルフの隣に立つアリシアに気がつくと、今度は分かりやすいくらいに不機嫌な事が見てとれる様に目を細めてアリシアを睨みつける。


 アリシアもそんなスカディに負けじと威圧するように睨み返した。



「……死んでなかったのか猪女」

「……そっちこそどこぞでのたれ死んで無くて良かったわ……あまり()()に迷惑を掛けないで」

「言われるまでも無い…」



 一触即発。ただ一瞬視線を交わして、一言会話しただけなのに心なしか室温が下がった気がした。



 アリシアとすれ違ったスカディは、ウルフの机を飛び越えると、さも当たり前かの様に彼の椅子に自分の身を捩じ込んでウルフに抱きつく。



 ウルフの右の太腿に自分の左脚の太腿が当たる様に調整し、彼の腰に尻尾を巻き付け、広げた翼をまわしてウルフを包み込んで肩を抱きよせてウルフと密着させた。




「……それじゃあ、私の報告書の事なんだけど…」



「まてぇ?!待ちなさい!まてぇ!!」


あまりにも自然にウルフと一緒の椅子に座って密着したスカディに間髪入れずにアリシアが突っかかる。


 一連の動作が自然過ぎてツッコミを忘れてしまったウルフは、恐る恐るアリシアを伺った。


 完全に怒気を隠そうともしない彼女と視線があったウルフはつい体を縮こませてしまった。



「――何さりげなくウルフの隣に座っているのよ!?しかもべったり密着してぇ!!」

「これが私とウルフの適正な距離感だから。…さぁ、ウルフ。早く終わらせて一緒に食事――」

「認めるものですかこの距離感オンチ!!わたしだってウルフにそんなはしたない事すらした覚えはないのに!!」



 自分の事を棚に上げてスカディを引き剥がしに掛かったアリシアは、唯一掴めそうだった尻尾の付け根に両腕を回すと思いっきり引っ張り始める。


 対するスカディも更に強く尻尾をウルフに締め付け、更に両手両足をウルフの体に回してウルフにコアラの様にしがみつく。

 絶対に離れるものかと意思表示するついでに、さりげなく彼の右肩に顔を埋めて匂いを堪能する。




「離れなさいこの無愛想トカゲっ!!」

「絶対に離れるものかこの駄肉猪女!!」





「痛い痛い爪食い込んでるっ!!尻尾で腰砕けるぅぅぅ!!?」



 尚、一番ダメージを受けていたのは怪力で締め付けられ、それを剥がそうと馬鹿力で思いっきり引っ張られているウルフだった。

調査班人数内訳


班長 ウルフ(社畜)


班員 アリシア(脳筋)

   スカディ(脳筋、無口)

   アネット(アル中)

   キール(エロフ)

   ゼフ(童貞)

   アイン(信仰ガチ勢)

   ハヅキ(苦労人)






 ナニコレ酷い…

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