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ヴィクトリア王国親魔族領冒険者ギルドの調査班班長の日常  作者: 真っ黒オニオン
絶望(激務)と希望(休暇)とやっぱり絶望(休み明け)の年末年始物語
30/60

プロローグ 最後の1人は大体もったいぶってから出てくる

 とあるダンジョンの地下深く、地上の光が届かない奈落の世界は地獄と化していた。


その煉獄と化したダンジョンの最下層で対峙するのは、ダンジョンの主である巨大なドラゴンと、傷ついた数名の冒険者を守る様に立つ魔族の女性だった。



 ドラゴンは恐怖した、ダンジョン(縄張り)にノコノコ入り込んで来た小動物達をを一方的に叩きのめして遊んでいた筈だった。


 たった1人、同類に近しい筈の片角の雌に割って入られるまでは蹂躙する側の筈だった…。



 地下迷宮の主が作り上げた紅に染まる世界に飛び込んで来たのは1人の黒髪赤目の女。


 まだ若い男達がドラゴンの一撃で命を落としかけたその時。

一瞬で燃え盛る檻を突破して、鞭のようにしなる巨木の如き太さを誇る尻尾の一振りを右手に構えた盾を構えて割って入り、羽虫を払うかの様に軽く打ち払って尻尾の一撃を逸らしたのだ。



 闇色の肩まで伸びた長髪をたなびかせ、側頭部の隙間から覗く一対の角は左側だけ半ばで折れていた。


 黒い鎧は下半身と身体の前面だけを覆い、剥き出しの背中は、漆黒の鱗が鎖帷子の様にびっしりと並んで背中を覆い隠し、人間には存在しない筈の龍を連想させる大きな翼が肩甲骨辺りから生えていた。


 これまた身の半分程は有る太くて立派な尻尾を通す為だけに、鎧の臀部はくり抜かれてできた大きな穴から生える様に鎧から覗いていた。


 焔の様に赤い両眼は、対峙する龍を映すつもりなど全く無いかの様に無気力に何も無い筈の天井を見据え、それぞれ剣と盾を装備した両腕は戦闘中にも関わらずだらりと脱力していた。




「――お前邪魔だ」


 直立し、炎に同化してゆらりゆらりと身体を揺らしていた女性は床を蹴って跳躍する。



 恐怖を感じたドラゴンは、口腔内に収束して口から溢れていた炎を火球に変えて吐き出し、女を撃ち落とさんと天井に向かって火の雨を降らせる。


 身の丈を飲み込むほどの火球の一つは、重力に引っ張られて急降下していた女を包み、天井に打ちつけた。



 仕留めた。とドラゴンは確信した。

あの炎を喰らって無事だった侵入者など居なかった実績がそう確信させた。








「――ぬるいっ」



 ――ただし、相手が火炎に対して絶対的な防御能力を有していなかったらの話だが……


 黒煙から天井を蹴って飛び出した女に焦げた後すら無かったように――それこそヒヒイロカネの鎧で全身を包んででもいないと突破出来ない筈のそれを喰らって尚も平然とし、真っ直ぐ自分に向かって急降下する女に戦慄したドラゴンは後退しようとたたらを踏み――





 逃げるより早く、炎の様に波打つ赤い刀身が振われ、ドラゴンの首は宙を舞った。




「………おーわり」


 片手剣を振るって敵の首を刎ねた女性は、翼をブレーキ代わりに広げて着地の衝撃を和らげると、倒した獲物に目もくれず、倒れた冒険者達を4人纏めて担ぎ上げると、出口に向かって歩みを進める。




 彼女の仕事はドラゴンの討伐では無く、彼女が抱えているダンジョンに無断で入った冒険者達を連れ戻す事だった。


 運良く最下層まで行けたものの、ダンジョンのボスのドラゴンに出くわして全滅しかけた所を、追いついた彼女が割って入っただけなのだが。

 結果的に無理矢理にでも連れ帰る予定だった彼女にしては、余計な手間が省けてその分楽できたのは幸運だった。


 本来なら昨日、「調和の証明(ユニオン・サイン)」の調査班執務室に戻れる筈だったが、余計な仕事を増やした身の程知らずの冒険者(ざこ)をボコる代わりに、本来ならアリシアくらいの冒険者でも連携しないと勝てないドラゴン相手にストレスをぶつけた彼女は、ギルドに冒険者達を放り込むと翼を広げて、そのままヘカーティアに向かって飛んでいく。






「――ウルフ…今帰るから」

 


 彼女の名前はスカディ・イオ・ドラゴニア。


 かつて魔王軍の騎士団に属し、何人もの高名な戦士を屠った切り込み隊長として、今尚ヴィクトリア王国で「黒龍の戦士」と恐れられる火龍人(ファイアドレイク)の女性は、脳裏に愛する男を想い浮かべ、ヘカーティアを目指すのだった。

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