後片付けは恐らく誰もやりたがらない仕事
最近の発見
ケロロ○曹って面白いよねって話(全く関係無い)
次回で一回このお話を締めます
太陽が昇り、ヘカーティアを燦然と照らす晴れ。
子供の誘拐事件から立て続けに勃発したアリシア暗殺事件は、関係者に箝口令が敷かれたおかげで大半の冒険者に広まる事無く終結したのだった。
だがそれは表面上の話…。
これは事件解決後のある男は、今回の事件の後始末に精を出していたのだった…。
「…以上が、ギルド職員のウルフ・ダイドーからの報告になります…」
「お疲れ様秘書さん。…参ったなぁ…まさかこんなに早く静謐な牙が…アリシア様を狙っていたとは…」
読みが甘かったなぁ…と支部長室の椅子の背もたれに体重を預けたロマンはローズ伝いで受け取ったウルフの報告書全てに目を通すと、溜息を吐いて黄昏た。
ロマンは証拠品として回収されたショートソードの破片を袋に密閉しながら今朝の朝刊を片手で広げる。
一面を飾っているのは「静謐な牙」のアリシア暗殺未遂事件では無く。
反アリシア派の貴族の邸宅だった場所が更地へと変貌している写し絵だった。
「……不幸中の幸いと言うかさ…王宮騎士団が反アリシア派の貴族の敷地に強行捜査してくれたおかげで、今回の暗殺未遂は余り大々的に取り上げられなかった事かなぁ…」
「――ふむ…」
「いやぁ…ホントやり過ぎじゃねこれ?…抵抗されたから黒判定出して突撃とかテロリストかっての」
「ほうほう」
「…まぁ実際静謐な牙と取引した記録は有った見たいだし?なんか何処かの貴族の子供を攫っていた見たいだし?他にも余罪有りそうだし?」
「一件落着でよかったよかった」
「……そう言えば王宮騎士団の資料室に大量の静謐な牙の資料をぶちまけて逃げたバカがいるそうですね?」
ジリジリと微笑を浮かべて詰め寄るローズの一言に、ロマンの肩が跳ね上がった。
「――最初に確認された静謐な牙によるものと思われた変死体は内ゲバで発生した刀傷沙汰を偽装して彼女に押し付けただけ…よくまぁそこまで調べる事が出来ましたね?」
「………へぇ…そうなんだぁ〜。気づかなかったなぁ〜」
「――王宮騎士団の強行捜査に関しても、普段腰を上げるのが遅い彼らにしては少し早すぎますよね?」
「……だ、だよね〜…」
「――そう言えば今朝もトイレから戻って来るのが遅かったですよね?5時間くらい」
「………」
「………」
「…支部長?」
「私が裏でリークしてました」
すんませんした。と机に手をついて頭を下げる
ロマンは、仮面の下で滝の様に汗を流していた。
そんな支部長を見て呆れた様に溜息をついたローズは、ロマンが握って居た朝刊を取り上げて一面を広げた。
「……王宮騎士団に顔がきくからって、私達に黙って行動するのは頂けませんよ元副団長殿?」
「……古巣の肩書で呼ぶのはやめて貰えないかなぁ…?」
昔な話だよ。と顔をあげて頭を掻く彼は本気で居心地が悪そうに肩を縮こませた。
あの時は、王宮騎士団から証人として呼び出されて現場まで出迎え羽目になっていたのだが、まさかシャルロッテがアドリブを効かせてアリシアに襲い掛かるとは考えていなかった。
もうちょっとちゃんと準備してから行動に移すと思い泳がせていたがそのせいでアリシアを危険に晒してしまった。
結果的にはウルフ達が無断で救出に向かったおかげで事なきを得たものの、無断は無断。
陥れるつもりは毛ほども無かったが、それはそれこれはこれ。
救出隊の編成で揉めた挙句。勝手に出て行ったウルフ達には分厚い始末書を書く様にきっちり言い渡したのだった。
「…そういえば、シャルロッテ元女王陛下を引き渡す様にと帝国の役員から催促が来ていますが…」
「……静謐な牙の正体はベルナルド公の部下でシャルロッテ様では無い…そういう事にしときますか…」
ロマンはウルフの報告書の一部に修正液を塗ると、「静謐な牙」の罪状をそのまま自滅したベルナルド公の部下に押し付ける。
そんな支部長にローズは良いんですかそれ?と苦笑する。
「流石に無理が有りますよ?」
「――彼らはどうせ他にも公に出来ない事をやらかしているんだ。だったら一個くらい身に覚えが無い罪が増えても大した事無いさ」
まっ、何とかなるさ。と窓の外の青空を仰いで、ロマンはウルフの書類に印鑑を押していくのだった。
「――滅べ支部長ぅ!くたばれロマンっ!!」
一方その頃調査班の執務室のウルフは、書損じの書類を束ねて作った巻藁に(ロマンの写し絵を貼り付けたもの)向かって故障して槍のまま戻らなくなっているオルトロスを力一杯投擲していた。
全身のバネを使って巻藁(書損じの書類)に向かって放たれたそれは、ロマンの写し絵ど真ん中に命中。
風穴を開けてそのまま壁に巻藁諸共轟音を上げて壁に突き刺さったのだった。
ウルフがいつも以上にくまを濃くして大荒れしている理由は単純。
昼まで全く寝てないからである。
何を隠そうこの執務室。今現在、ウルフとアネットしか出勤していないのだ。
救出されたアリシア達は風邪を引いていた為に休ませたのは良かったものの、何故かキールとゼフが人の手によってボコボコにされてダウンしていたのだ。
今現在、遠くに出張っているもう1人は当然ながら出勤できず、ウルフとアネットは2人で今回の誘拐事件から始まる報告書やら自分の分の始末書やらを作成していたのだがここまではまだウルフは正気を保てていたのだ…そう、この時までは。
『――あっ。急ぎだからキール君達の分の始末書もよろしく〜』
ロマンのこの無茶振りで、ウルフ達は脳みそがプリンシェイクになって言語機能に著しい損害を出してしまったキールとゼフの分の始末書を書く羽目になったのだった。
ウルフは不満と疲労を心の中に押し込んで始末書の代筆をしていたのだが、流石に戦闘等の疲労が溜まっているせいで何度も書き直す事になり。
同じく始末書組のニーアとシェフィールドに協力してもらおうと2人を探したものの、シェフィールドからはずっと目を合わせて貰えず、ニーアは自分の分だけを書いて逃亡。
何故かギルドに広まって居た、色情魔から始まる不名誉な噂を耳にし続けた結果、ウルフは爆発した。
溜まったストレス、不満、疲労、鬱憤その他諸々が行き場を無くして徹夜明けのテンションとごっちゃになった結果、ロマン(巻藁)相手に八つ当たりしているのである。
「……荒れているねぇ…君いつもこんな感じかい?」
「……なんでアンタがいるんですか。シャルロッテさん…」
ロマン巻藁(書損じ書類)を滅多刺しにしてストレス発散していたウルフは、この場に居てはいけない筈の女性に声を掛けられて我に帰った。
振り返った視線の先にいたシャルロッテは、ウルフの奇行を目にしてドン引きしていた。
ウルフからしたら、脱ぎ魔にドン引きされるのは割と不本意だったが、第三者から見たらどっちもどっちである。
数時間前まで殺し合っていた筈の女性は、なんて事無い様に執務室のソファーでくつろいでいた。
ちなみに、今は昼前である。
「窓から入ったのさ。アネットさんに差し入れを渡したら通してくれたよ…ほら」
「…差し入れと言うか賄賂にしか見えないのですが…」
さっきまで突っ伏していた筈のアネットだったが、シャルロッテが差し入れた瓶の封を切るとそのままラッパ飲みし始めた。
蒸せ返る程のアルコール臭が部屋に充満させるそれは、どう見ても酒である。
視線に気がついたアネットは赤ら顔でウルフに酒を突き出したのだった。
「班長く〜ん?一緒にどう〜?」
「飲みません。てか禁酒どうしたアンタ」
「良いじゃない。アネットさんだって頑張ったんだから。はいコーヒー」
「良くない。甘やかしたらまたなんか酒でやらかす…あっコーヒーありがとうアリシア――っぶっーーー!?」
「うわっ汚なっ!!?」
何故かアリシアがいた。
病欠で休みを取らせていた筈の人間が、何故か普通に注ぎたてのコーヒーを持ってきて普通に会話参加していた。
髪をいつも通りのシニヨンでまとめた私服姿での突然のエントリーにウルフは不覚にも驚いてつい古臭いリアクションを取ってしまった。
ちなみにシャルロッテはいつの間にかいなくなっていた。逃げ足の早い女である。
「アリスっ!?お前なんで…!?」
「?…薬飲んでちょっと寝たら少し良くなったから手伝いに来ただけよ」
いやそれはおかしい。…覚束ないながらも床に散らばった書類や筆記具を片付けるアリシアの背中に向かって、ウルフは静かにツッコんだ。
普通なら数時間休んだ程度で風邪が治る筈は無いのだが、アリシアが特別と言う結論でウルフは落ち着いたのだった。
ウルフの視線に気がついたアリシアは、彼に向かって振り返ると風邪とは別の症状で頬を赤らめて捲し立て始めた。
「……えーと…ほら、わたし達恋人になったからこれくらい当然よ。……大丈夫よね?…わたし達恋人よね?間違って無いわよね?」
「うん落ち着け?」
「あっ…できれば今朝の事は忘れて貰えないかしら割とガチでお願いします」
「わかったから落ち着け?」
今朝の暴走を思い出してテンパるアリシアを見て、ウルフは少し落ち着いた。
視線を忙しくあちこちに泳がせ、バタバタアワアワと手を振り回すアリシアにとっては、あの熱にうかされていた時のあの言動は本人が振り返ってもかなり恥ずかしかったらしい。
顔から湯気を上らせながらあたふたと慌てるアリシアは新鮮だった。
「…いやまて…そもそも病み上がり(?)なんだからまだ大人しくしてろ。また悪くなるぞ」
「大丈夫よ。…これくらい大した事無いわ――ねぇ、ウルフ…」
「――本当にわたしでよかったの?」
窓からの日差しに照らされたアリシアは両手の指を合わせて、不安げにウルフに尋ねた。
もし、あの告白が夢ならば…虚な意識の中で見た幻ならば…アリシアはそんな不安に苛まれていた。
ウルフはそんなアリシアに対して呆れた様に溜息を吐くも、彼女に向き直って自分なりに言葉を紡が始めた。
「…後悔しないよ…おれは自分の意思で、恋人としてアリスの隣に居続けるって決めたんだから…まさか後悔してるの?おれと恋人になった事」
「そんな訳無いじゃない!」
一転してむくれて頬を膨らましながら否定するアリシアの様子に、ウルフは駄々をこねる子供を連想して思わず笑みを浮かべた。
何がおかしいのかと更に膨れるアリシアに軽く謝ったウルフは、改めて自分の気持ちを伝える。
「――夢かも知れないって思っているよ。あんな酷い告白で君に受け入れて貰えた事」
「…おれは君に釣り合わないんじゃないかってずっと思っていた――だからずっと親友のままでって距離を取って我慢している気になっていた」
「そもそも、アリスがおれの事を釣り合わないって思ったらいつでもおれを捨ててくれても構わないよ」
「捨てるって…そんな」
「――おれなんかに固執しなくても、君が自由にすれば良いって事さ」
「――おれは自由に馬鹿なことやっている所も含めて君のことが大好きだから」
全てウルフの本心だった。
ウルフはアリシアが自分を好きになった経緯を詳しく聞いていない。
始まりがどうであれ、自分の事を好いてくれた女性に無理強いしたり束縛したりしたくないだけだった。
不器用でも独りよがりでも、それは本心からアリシアを想って出た言葉であった。
「――そう…それならわたしも好きにさせてもらうわ」
目を瞑ってこほんと咳払いしたアリシアは、ウルフの手を取ると、そのまま駆け出して執務室からウルフを連れ出す。
廊下を駆け抜け、階段を一気に下ると、ギルドの正門から飛び出してあった言う間にギルドから遠ざかって行く。
「―ちょっ待て!?おれはまだ仕事が……」
「代休の申請を出したから大丈夫よ!」
どんどん遠ざかる職場に帰ろうとするウルフを引っ張り、町の石畳を蹴って風になる。
桜色の髪を陽光に照らされたアリシアは、ウルフに向かって振り返ると、それは見惚れる様な、華やかな満面の笑顔を咲かせるのだった。
その頃のアネットさん
アネット「今日は調査班は休業でーす」
支部長「えぇー…」
次回、「この堅物絶対におとす」完結っ!




