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変形ギミックには男のロマンが詰まっている

前回のあらすじ


 ウルフ、激おこぷんぷんガチギレ丸

「…死ぬか逃げるか選べ…だと?…ずいぶんと偉そうじゃないかウルフ君?…まさか私に勝てるとでも?」

「…おれとしては逃げて欲しいんだけどよ…誰だって好き好んで嫌いでもない人を殺したくないさ」


 「あんたがさっさと居なくなってくれれば、こっちはアリシアの治療に専念できるんだから…」と困ったように銃口を下ろして、壁際で座り込んでいるアリシアを親指で刺し「だから帰ってくれません?お願いだから」と改めて懇願するとアリシアを隠すように一歩後退する。


 ウルフの目的がアリシアの救助である事を悟ったシャルロットだったが、はいそうですかと引き下がれるほど聞き分けが良い人物では無い。


 それにダンジョンの出入口にティタノウルフをはじめ魔獣達を配置していたはずだが、その防御網を突破してきた事になる。


「…どうやってここまで辿り着いたんだい?まさか着いて来たと言っていた仲間達を囮にして――」

「囮じゃないですよ。…アイツら来るなって言ったのに黙って着いて来た挙句、ティタノウルフ相手に大暴れしているところだ」


 「不壊煌石(オリハルコン)級の冒険者も混じって着いて来てるのが立ち悪いよ…」と呆れたようなこそばゆいような表情をなおしたウルフは、シャルロットに向き直る。


「…ついでに言えばアインとハヅキはアネットさんが保護しましたからこのまま時間を掛けたらあなたが不利になりますよ。シャルロッテさん」

「…不利か…その前に君達を殺して仕舞えばそれで終わりさ―」


「――いや…そんな事より――どこで知った。私の本名を」


 ギロリと先程と比較にならない圧の殺気を睨み返して放出したシャルロット――いや、シャルロッテは、両手の得物をいつでも投げつけれるように構える。


 対するウルフは膨れ上がった殺気をなんて事無いように受け流し、傷つき心身共に弱っているせいでシャルロッテの殺気に震えるアリシアを守るように立ち塞がる。


「――知ったも何も大した事じゃあ無い…うちのギルドの人事班じゃあ調べきれない程にあんたの経歴に不審な所があったから調査班(おれ達)に調査の依頼がまわってきただけさ」

「調査班が調べるのはダンジョンや狩場の生態系、自生している薬草だけじゃあない。不審な動きをする冒険者の経歴調査もおれ達の仕事だ」


 「悪かったな。教えて無くて」と撃ち尽くして空になった黒い弾倉をオルトロスから外して捨てたウルフは、新たに青い色の弾倉を込めていつでも動いて良いように身構え駆け出す。


 これ以上は会話(交渉)しても意味がないと判断して、シャルロッテを取り押さえる為に駆け出したウルフは、同じくいつでも攻撃が出来るよう構えられていたシャルロッテのショートソードが宙を舞い、足を止められる。


 ウルフが防ぐ為にオルトロスを構えるより先に、ワイヤーで操られたシャルロッテの得物(ショートソード)、「跳ね回る猟犬タンツェン・ヤークトフント」の変則的な軌道に翻弄され、左脚を切り裂かれてバランスを崩してしまう。



 傷口から血が飛び散り、痛覚がウルフの脳まで駆け上がって彼の表情を歪めさせる。

 痛みに絡め取られた足の動きが鈍くなり、石畳へと向かって顔から倒れ込んでいく…





「――ナメんなっ!」


 アリシアがウルフの名前を叫ぶより早く、痛みを打ち消すように吠えたウルフはオルトロスの銃口を床に突きつける。




 左脚から鮮血を噴き出してバランスを崩したはずのウルフは引き金を引いた直後、銃口から放たれた衝撃波で空中に飛び跳ねる。




「!?っクソ!?」






 左脚を負傷した筈のウルフの思わぬ跳躍に面食らったシャルロッテは、続け様に得物を放って今度こそ致命傷を与えようとするが、ウルフが目元に向かって左足を大きく振りかぶって傷口から血糊を飛ばして目眩しを仕掛けたせいで、視界を奪われてワイヤーの操作が単調になってしまう。





 鮮血が掛かって存在を露にされたワイヤーを銃剣で斬りつけてショートソードを地面に叩き落とし、右脚の蹴りで迫る刃をシャルロッテに蹴り返す。

 蹴り返された「跳ね回る猟犬タンツェン・ヤークトフント」はシャルロッテの足下に突き刺さり、抜けるまでの時間稼ぎとなった。



 この機を逃すまいと左足を庇いながら着地して、銃口の衝撃波で再び跳躍。



 空中で体勢を整えながら衝撃波で加速し、軌道修正と加速で撃ち切って空にした弾倉をオルトロスから排出して、突きの体勢で構え直す。鋼色に鈍く光る銃剣をシャルロッテに突き付けて後は突き刺すだけだ。










(――と思っているんだろうウルフ君!)


 だがシャルロッテもタダでは終わらない。


彼女は、なんとか床に刺さった武器を抜こうともたつくフリをして腰のベルトに隠していたとっておきの切り札の毒針をこっそりと左手の中に握りしめる。


 彼女の切り札であるこの小さな針は、ハヅキに使った睡眠薬を塗った物とは違い、一刺しで龍ですら苦痛にのたうちまわり最後に命を落とすと言われる「アビススコーピオン」の毒を100倍まで希釈した物を針先に滲ませた文字通りのとっておき。


 暗殺が失敗した時の自決用をまさか対人目的で使うとはシャルロッテも思っていなかったが、最小限の動きで振りかぶり勢いよく投げられた毒針は、ウルフが構えるオルトロスの銃身スレスレをなぞるようにウルフの喉元を狙って真っ直ぐ飛ぶ。




 すかさず隠していた4本目の「跳ね回る猟犬タンツェン・ヤークトフント」を右手で構えて、飛び込んでくるウルフを斬りつけんと、斬撃が当たる範囲にまで潜り込む。





(――あれだけ撃ったんだ。いくらあの銃が頑丈だとはいえ流石に銃身が焼き付いてまともな射撃ができない筈!)


(であるなら攻撃手段は刃の刺突か斬撃!ならば銃剣のリーチより深いところに飛び込んで急所を切り裂く!)


(毒針が当たればそれで良し!気づいて避けても体勢を崩したところでその首を両断する!私の勝ちだ!!)


 シャルロッテは勝ちを確信した。毒針さえ刺されば後は止めを刺すだけなのだから。






だがシャルロッテはウルフの武装のスペックを少し特殊な銃だと思い込んでたのがいけなかった。


 一応言っておくが、ウルフが得意とする得物は槍だ。練成のお陰でかろうじて実戦で戦えているが断じて銃では無い。


 そんな彼が自分の得意な武器のアドバンテージを捨ててまで歩兵銃を使うの何故か?

その答えはただ一つ――










「喰らい付けっオルトロス!!」


 ウルフが銃身のハンドガードを押し込むと同時に銃身が裂けて銃口を支点に180度思いっきり跳ね上がる。



 転回して銃身の中に隠された獣の爪か牙を連想させる刃が飛び出して毒針を叩き落とし、本来の銃剣は銃口共々銃身の中に飲み込まれ穂先から再び固定された。



 銃床も長く展開されて持ち手となり、同時に最先端が石突として形を変える。





「――は…」


 突然の奇抜な変形に思わず間抜けな声が出てしまったシャルロッテの握る得物をウルフは鍔から切り落とし、槍に生まれ変わったオルトロスの鋭い穂先を彼女の左肩目掛けて勢いよく突き刺し、壁ごと縫い付けんばかりに勢いよくダンジョンの壁に叩きつける。


 その際に氷漬けの石壁を破壊し、衝撃で一瞬呼吸が止まったシャルロッテの目に砂塵と氷の破片が宙に舞う様が映るその先に、オルトロスを構えて引き金に手をかけこちらを人形のように壁に縫いつけた男の陽炎のように揺らめく殺気。


 そして狼の頸を持つ双頭の魔獣が睨む姿を幻視した。



 「変形式量産型魔導歩兵銃試験機」。銃と槍の2つの形態に変化するこの武器は、2つの頭を持つ魔獣にあやかってオルトロスと名付けられ、ウルフの手元に渡っていた。



 この戦いを制したのは、オルトロスの機能をギリギリまで隠していたウルフが勝ちをもぎ取ったのだった。

 多分今回が今年最後の更新となります。


それでは皆様!良いお年を〜〜!!

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