当時秘書さんも一緒にぶちぎれた
王国暦176年かつて争いを続けてきた人類と魔族はこの日をもって和平協定を結んだ。
数世紀にもわたる長い戦いに疲弊した魔王軍は人類に和睦を持ちかけ、対する人間側もこれを承諾、彼らも自分たちより屈強な魔王軍と敵対することに疲れていたのだ。
そして王国暦180年、王国は魔族と積極的な交流を目的として、かつての戦争跡地に試験的に親魔族領を設立。
かくして目論見は成功し、人間、魔族、エルフに獣人と日を跨ぐ毎にあらゆる種族が居住し、同時に交易も活発になっていった。
だがしかし、人口の増加に伴い、トラブルも発生しさらには終戦と共に落ちぶれてしまったかつての兵士が荒くれ者として、悪事を働く事件が発生。
もはや現地住民達の血で血を洗う戦いが再び勃発するのも時間の問題だった。
これを重く見た両国は、冒険者ギルド本部に荒くれ者たちに土木作業等の雇用先を用意するために冒険者ギルドを新たに設立。
現地の住民から職員を雇用、教育する時間のなかったギルド本部は、各地のギルドから選ばれた優秀な職員を派遣し、設立されたのが、この「調和の証明」の成り立ちである。
当時職員になったばかりのウルフは、現支部長である上司の「まあ、こういうのは中々ないし手をあげてみたら?」という酒の席でのノリと勢いだけの酔っ払いのテンションで勝手に他薦された結果、ギルド職員の中でナンバー1の死亡率(自殺含む)を誇る調査班の班長に抜擢。
なおこの話を飲みの席での戯言だと流していたウルフは、この辞令を突きつけられてしばらくの間呆然とし。
原因を自分の上司である胡散臭い仮面の男だと特定した後は、二日酔いで頭を押さえる犯人を彼の秘書と共にボコり倒し、今に至る。
「…で、急にとち狂って結婚を迫ってきた姫様の言い分を聞いてやろうではないか」
「別にとち狂った訳じゃないわよ!?ただ…その…ちょっと個人的な理由があるの!」
「…尚理由によっては、貴方を王宮に強制送還
させますからね」
「最近のあなたほんとに容赦がないわね!?」
調査班の執務室でウルフはアリシアを馬乗りで組み伏せていた。
これは別に恋人同士でイチャついている訳ではなく。(そもそも恋人ですらない)
婚姻届の提出を阻止しようとしたウルフは、それを奪われんと執務室内を逃げ回るアリシアを追いかけ回しなんとか押さえつけたところである。
結果2人の息は荒くなり、部屋の中は荒れ放題、スーツは若干はだけ、鎧を着たままの女騎士を押し倒した男の絵面になってしまったのである。
ちなみに、先程までドタバタと騒いでいたので、注意しに上がってきた女性職員に今の状況をガッツリ見られてしまい、生暖かい目で見られ、「ごゆっくり〜」と弁明をする暇も無く去ってしまったのである。
ちなみに女性職員が去った後、組み伏せられているはずのアリシアが勝ち誇ったドヤ顔を浮かべていたのにイラッときたウルフは、仕返しの意を込めて彼女の頬を軽く引っ張りまくった事をここに明記しておく。
「…それで…本当の所はなんなんです?結婚迫ってきたの」
一通り柔らかいほっぺを弄り倒したウルフは、アリシアを解放した後、自ら散らかした書類や机を整理しながら再度問い詰める。
アリシアはまだ赤いままの自分の頬を擦りながら恨めしそうにウルフを睨んでいたが、覚悟を決めたのかぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「…ニーアがね…惚気るのよ…私の彼氏がーって」
「あぁ…大体わかった」
もっぱら冒険者の女友達が惚気ているのを見て羨ましくなったのだろう。それで元来の負けず嫌いな性格が触発されて、段階がすっ飛んでしまったようである。
…だからといっていきなり結婚は無いが…
「それで、焦ってつい自分にその話を振ってきた感じすかね…」
「ちがっ!?いや違くはないけども…!」
「そもそもあなた何人たらしこんで…!」とか「言うべきか言わないべきか…!?」とか言い出して頭を抱え始めたアリシアに「誰がたらしだ」とツッコミかけたウルフは喉元まで出かかった言葉を飲み込んで作業しながらアリシアの次の言葉を待つ。
認めたくは無いが思い当たる節はあるし、つっこんだらつっこんだで話が脱線するかもしれなかったからだ。
それでも俺はたらしじゃない
やがてまとまったのかアリシアは気まずそうに視線を逸らしながら気まずそうに再び話始める。
「…支部長が…」
「支部長が?」
「…『貰い手いないって前ボヤイてたでしょ?』って無神経なこと言ってきたからつい…」
「あの人マジで余計な事しか言わないのな!?」
そのセリフにブチギレたアリシアは、支部長の秘書のローズさん(25歳独身)と一緒に支部長をボコボコにした後、指輪と書類を用意して執務室に突撃したそうな。
後支部長の発言は立派なモラハラである。
尚秘書さんは前のギルドの時からずっと一緒に支部長と仕事してる模様