出動!「調和の証明」調査班!
この章もそろそろクライマックスに入りますよ〜
「……わぶっ!?なんだ地震か!?」
ハヅキとアリシアの追いかけっこが始まって直ぐ、その振動で積み上げた資料が崩れ、ウルフを飲み込んでしまった結果、すやすやと眠っていたウルフを起こしてしまった。
飛び起きて直ぐのウルフの目に入ったのは机一面に広がる、書類と新聞の大平原だった。
壁にかけてある時計の日付が変わるか変わらないかの所を見て、ウルフは自分が思った以上に寝てしまっていた事を悟ったのだった。
「……あぁ、くそやらかした…机の上片付け無いと…」
再び調べ物の続きを行わなければ…。とウルフはシャルロットの事を調べる為に机の上を整理する。
今回ベルナルド侯が殺されたのは、シャルロットがギルドに来て直ぐの事だった。
偶然と言ってしまえばそれまでだが、各地のギルドから集めた全ての名簿にシャルロットという名前の調教師はいなかった。
基本、ギルドに登録されていない者は安全のためダンジョンに出入りする事は出来ない。
冒険者がギルドに登録するのは、ダンジョンに潜ってもしもの自体に陥ってダンジョンから出られなくなった際に、ギルドから捜索隊を派遣してもらう為に必要な処置なのだ。
これを怠った冒険者がダンジョンに潜って、負傷して外に出る事が出来なくなり、他の冒険者の証言で捜索隊が出動するまでにかなりの時間を要したせいで瀕死の状態で救出された前例がある事から、ギルドはダンジョンの前に職員の見張りを立ててその見張りにギルドが発行する「潜入許可証」を見せないとダンジョンに入れないようにどこのギルドでも統制されている筈なのだ。
詳しく調べたら、一昨日シャルロットを救出したダンジョンを見張っていた職員は、シャルロットがダンジョンに出入りしたところを見ていないと言う。
これだけなら職員の不注意という事で済ませてしまいそうだが、もしそうで無いのならシャルロットは見張りの職員に感づかれずにダンジョンに出入りする何かしらの手段を得ているという推測も立てられるのだ。
同時期に件のダンジョンでダイアウルフが大量発生しているというのも、ウルフは引っかかっていた。
「静謐な牙」にダンジョン内でダイアウルフの大量発生、さらにシャルロットがこの領地に入ったタイミングの何もかもが一致していたのだった。
「……シャルロットさんが…静謐な牙…まさかな…」
ウルフから見たシャルロットは露出狂の変態だが、今更変人が増えたところで別にどうこうするつもりはなかった。
むしろうちの支部長に比べれば可愛いものだ。
あれだけ気さくで、女子供に優しく接して、細かな気遣いも出来る。
そのプラス分を自らの変態性で台無しにしてはいるがうちの支部長と比較したら許容範囲だ。
だが、もし彼女の正体が「静謐な牙」だったら話が別だ。
その時は彼女を捕らえなければならない。
たしかに不審な店はあるが、頼むから今回だけはこの馬鹿げた考察は外れてほしいと願うウルフであった。
「ウルフっ!起きてる!?」
「…うわぁっ!?ってアリス!?お前まだいたのか!?」
「そんな事今どうでもいいわよ!!早く来て!」
扉を破壊せんばかりの勢いで、入室してきたアリシアに驚いたウルフは、驚いたはずみで再び資料の山を崩してしまいそうになり、アリシアを恨みがましそうに睨むが、当のアリシアはウルフの襟首を掴んで片手でウルフを連れ去ってそのままギルドの一回へと駆け出す。
そのせいで資料が再び雪崩を起こしたが、些細な事である。
「ちょっ…まっ!やめっ!…苦しいだろ!?」
「今それどころじゃないの!」
「何が起きたんだよ!?」
そのままギルドの受付ロビーまで拉致られたウルフの視界に入ったのは、テーブルで泣き崩れる女性とそれを宥めるハヅキの姿だった。
「一体何が―」
「っ! うちの子がっ!!」
「アビーさん落ち着いてください!大丈夫ですから!」
泣き崩れる女性―ギルドの近くの宿の女将さんであるアビーさんが、楔を切ったように捲し立て始めた。
突然の事でまだ混乱しているようにも見えるその姿は、普段どっしりと構えている彼女から想像出来ないくらい取り乱していた。
「っエイダがっ!うちの子が!突然襲ってきた魔獣に攫われてっ!!」
「…大変な事になったね…」
「シャルロットさん…?」
その後、ウルフが改めて事情を聞いて支部長に連絡を取り、急遽動ける人員を集めて捜索隊を組む事になったのだった。
アビーさんの証言では、宿屋の看板を下ろして店じまいしようとしたところ、突如姿を表した狼型の魔獣に扉を破られ、宿泊した冒険者達が抵抗して一体は倒したものの、身を隠していた2匹目の魔獣の強行突破に遭った冒険者達は全員戦闘不能の重症を負い、ご夫婦と一緒に防衛線の奥で守られていたアビーちゃんだけを連れ去ってそのまま逃げられてしまったという。
ロマンがたまたまギルドで仕事していた為、早急に動けているが、野生の魔獣とは思えない連携の取り方や、ダイアウルフと想定される2匹の魔獣に容易く冒険者達が蹴散らされた事がウルフは疑問だった。
手練れの冒険者達もいた筈なのにダイアウルフ二体だけで果たして冒険者達を全滅させる事が可能なのだろうか?
「班長!ゼフ・ドンゴ到着しました!後ニーアも来るそうですぜ!」
「わかった!ゼフとキャンベルはおれのチームで!アインとハヅキはアリシアの傘下に入って!」
「了解!」
夜更けなのに次々と集まる調査班の仲間達と指示を飛ばすウルフに、シャルロットは眩しそうに目を細めるが、ウルフに向き直るといつもと異なる真剣な表情を作った。
「……恐らく今回オイタしたのは私が把握している子だ…あなたが私を疑っているのは当然の事…なにせ狼型魔獣を扱うテイマーで、現地の人間じゃあないからね…」
「……あなたが今回の犯人だと思っていません…アビーさんところの宿屋を使っていたのは聞いてますが…」
「…意外だね。てっきり疑っているかと思ったよ」
「…あなたがよくエイダちゃんと遊んでくれたってアビーさんやルドルフさんから聞かされてますから」
事実だった。ウルフは今回の誘拐騒動をシャルロットの仕業とは思っていなかった。
たまに顔を出すアビーの旦那さんのルドルフからは、よく娘の面倒を見てくれる人だと聞かされていた。
若干親バカ気味のルドルフが手放しで褒めていたからシャルロットは今回の一件では犯人じゃないという確信はあった。
「…それはそれとしてあなたはギルドに残って貰います」
「やれやれ…疑ってないんじゃないのかい?」
「…シャルロットさんには残置組でやって貰いたい事があるので……キール!」
「後は支部長の指示に従ってください」と切り上げたウルフは、クロスボウを整備していたキールを呼ぶとシャルロットから離れた場所で、密かに命令を下した。
「…キールは連絡要員で残る程でシャルロットさんを監視していてくれ…」
「……理由を聞いてもいいすか?」
「………今は言えない…終わったら絶対話すから」
「エロ本で手ェ打ちますよ」と軽口を叩いて快諾したしたキールの背中を黙って見送る。
くどいようだが、シャルロットもし「静謐な牙」ならば、どさくさに紛れて貴族に襲撃しに行きかねないかもしれなかったからだ。ウルフでもこの騒動を陽動にして標的を暗殺するなんて事を思いつくのだ、殺し屋なら絶対利用するだろう。
それ以外にもシャルロットを行かせたくないがウルフにはあるのだが…。
「…えー、あーあーマイクテス、マイクテス」
気の抜けた発言をしながら現れた支部長に全員の視線が向いた。
「集まりましたね諸君」と注目されても物ともせず、ロマンはみんなが待ち侘びているだろう一言を告げた。
「目標はエイダちゃんの捜索と救出!途中に魔獣が襲ってくる事が予想されるが『なるべく命大事に』の方針で!全員生きてエイダちゃんを連れ帰る事!!」
もはや言葉はいらない。
「―捜索隊!出撃ぃ!」
支部長の号令で集まった冒険者と職員の複合チームが、4部隊に分けてギルドを飛び出した。
…コメディ書きたいけどシリアスばっかでモチベあがんない…
でも年内には書き切りたいジレンマ