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わたしとあなたの出会いの話

 今回はアリシア視点で話が進みます。

 長姉のクラウディア姉様は、誰よりも勇敢で強大だった。

長兄のアーサー兄様は誰よりも聡明だった。

妹のセシリアは誰よりも覚えが良くて直ぐにわたしを抜いて行った…。


 わたしには王族としての肩書と、腕っ節しか取り柄がなかった。


「王族の落ちこぼれ」と影で揶揄され、貴族からは期待外れと言わんばかりに相手にされなかった…。


 お父様からは優しくされていた…。お母様からも愛されていた…。姉様と兄様は距離を取っていてわからないが、下の妹のセシリアはこんなわたしに懐いてくれている…。周囲の使用人や、剣術指南役の王宮騎士もわたしに優しく接してくれていたと思う…。


 それでも、どれだけ愛されても、その分わたしの心に何かぽっかりとした穴が空いていた…。


わたしの居場所は無いんだと暗に告げられていると思い込んで段々余裕が無くなっていった。


 余裕が無くなったわたしが荒んでいくのは遅くはなかった。


 それまでずっと一人きりだと思っていた。


 あの日、あなた(ウルフ)に出会うまでは…。



 齢15を迎えた王族は、身分を隠して王城を出て、国民に紛れて市中を生活するというしきたりがある。


4年前、当時15歳になったばかりのわたしも当然このしきたりに習って、アリスという偽名を使って駆け出し冒険者として街中に溶け込んだ。


 それでもいくらしきたりとは言え、今まで王族として暮らしていた人間がいきなり一般市民として溶け込む事は出来るはずがない。

 その為、わたしは面識があるロマンの下へ向かってしばらく彼のお世話になる…はずだった。


「痛い痛い痛い!!ごめん!ごめんって!!?勝手に君の名前を保証人に使ったのは流石に悪かったからぁぁぁぁぁぁ?!背骨がぁぁぁあ!?」

「人の名前を使って何やってんだコラァ!?おれがどんだけ借金取りに追いかけ回されたと思ってんだ!?」


 ギルドの入り口でプロレスを繰り広げている2人組を見て思わず固まってしまった。


 仮面で顔全体を隠してはいる物の、聞き覚えのある声質でロマンだと直ぐにわかった男に、キャメルクラッチをかけて容赦なく背骨をへし折ろうとするわたしより少し年上ぐらいの少年が視界に入ったわたしは、思わず目眩を覚えた…。


 これが民衆の日常なのか?わたしはこんなのに耐えれるのか?

 そうやって額を手の甲で押さえて目眩を耐えていると、此方に気づいたロマンらしき男が此方に助けを求めてきた。……正直真面目だったはずのロマンの落ちぶれぶりが信じられなくて他人のふりをしていたかったのが本音だった。


「あっ!そこの方どうかお助けを〜!ウルフ君ほらあの人っ!今日から君に面倒見てもらうからぁぁぁぁぁあっ!!?」

『今さらっとなんて言ったお前ぇぇぇぇぇぇえ!?』


 これがわたしとウルフのファーストコンタクトだった。


 割と酷い出会いをしたこの人をいつか好きになってしまうなんて……


この時はまだわたしも想像出来なかった…。





「アリシアさんお疲れ様でした」

「お疲れ様。帰り道気をつけて」


  わたし、アリシア・フォン…本名が長いから「調和の証明(ユニオン・サイン)」の調査班嘱託冒険者のアリシアは、昨日復帰したハヅキをギルドの正門から見送って、どうせ今日も徹夜するであろうウルフがいる執務室に歩みを進める。


 いずれ王宮から沙汰を下す筈だったベルナルドが「静謐な牙(サイレント・ファング)」に殺害された事によって、わたしを持ち上げる貴族達に警戒を怠らないよう注意して回っていた。


 当然わたしが直接伝えた方が効果がある為、この2日間はずっと貴族宛の手紙を書く作業ばかりで、あまり調査班で仕事してる感じはしないのが正直な所苦痛だった。


 「静謐な牙(サイレント・ファング)」の狙いはわからないが、もしいずれ標的が貴族からわたしの周囲の人間(ギルドの仲間)に向けられるかもしれないと考えなかった事は無かった…。


 本音を言えば心配だった。


 わたしはウルフやニーア、アネットさんや他の皆んなが傷つけられるのが怖かった。

 いつの間にかわたしの隣に彼らが居るのが当たり前になっていたのだから…。


「…ウルフ入るわよ。…ウルフ?」


 執務室に入って最初に見たのは、執務室の主であるウルフが、珍しく机に突っ伏して仮眠を取っている姿だった。


「…ウルフ?……ウルフ…ウールーフー?……完全に爆睡ねこれ…」


 真面目と言うか、ワーカーホリック気味のウルフが、執務室で爆睡しているのは本当に珍しかった。一昨日わたしに2階から窓を突き破って地面まで殴り飛ばされた後、何事も無かったかのように戻ってきて普通に仕事しだすぐらいには…その…仕事人間なのだから。


 ……まさか一昨日から泊まり込みでからずっと睡眠時間を削って仕事してたのかこのワーカーホリック(バカ)は……。


 一瞬余りの仕事中毒ぶりに呆れたけど、組んだ腕を枕にして眠るウルフに毛布をかけてあげた。

 そのまま寝てたら風邪ひくわよ…全く…。


机の上には「静謐な牙(サイレント・ファング)」が初めて出没した、隣国のプロイツ帝国の過去3年分を遡ってかき集めた新聞と、殺害された被害者のリスト。


 さらに各地のギルドから取り寄せたシャルロットさんの活動記録を示したログが積み上げられていた。


 帝国の新聞によると、「静謐な牙(サイレント・ファング)」 は3年前クーデターで当時のビスマルク王朝が滅ぼされて以降出没する様になったらしい。

 記事には、滅ぼされたビスマルク王の関係者が復讐の為にクーデターに関わった貴族を襲っていると考察されているが、真実はどうなのかはわからない。


 もしわたしが「静謐な牙(サイレント・ファング)」を見つけたのなら、襲って来る前に返り討ちにして、これ以上の被害者が増えるのを止める事しか出来ないだろう…。


 それでもわたしがやるしかない。仮にわたしの親しい人に…ウルフ達を襲うつもりなら、容赦無く叩きのめしてやる。


 そう殺気を滾らせていたわたしだったが、机の上で安らかに眠るウルフに思わず視線が行ってしまった。……この寝顔は流石にちょっと可愛らしすぎるせいで、つい気勢が削がれてしまった。


「……ほんと…あなたって()()のせいで色々損しているわね…」


 すやすや眠るウルフの頬は、ついつっついてイタズラしたくなるが、流石にずっと仕事して疲れている彼にイタズラするのは憚られた…。

 出会った頃は全く無かった()()が濃くなっただけで、他はなんにも変わって無いわ…。


「……ねぇウルフ…眠っているならそのままでいいの…あの日あなたと出会って、一緒に冒険に行ったり、喧嘩したり、騒いだり…あなたに助けられたり……それからよ、色々あったけどあなたの事が好きになったの…」


 最初は名前を変えていて分からなかったけど、使用人からの噂で公爵を()()()()()()()()と聞いていたあなたを一方的に嫌っていたけど、何度も言い争ったり喧嘩しても、あなたはわたし達王族を悪く言う事は一度も無かった…。


 どれだけ突き放しても勝手に付き纏う面倒な()だと思っていたけど、あなたはそんなわたし(嫌な奴)に対して嫌な顔せずにフォローしたり面倒を見てくれていた事にわたしが気がついたのは大分後の事だった…。


 我ながら酷い話だとは思うけど、勝手に一人で突っ込んでワイバーン相手に自滅しかけたわたしを、あなたはわたし以上にボロボロになっても駆けつけてわたしを助けてくれた。


 恋に落ちたのはその時の事だった…我ながらチョロい女だと思うわ…。


「……ねぇ、ウルフ…あなたがいけないのよ……あの時からわたしはあなたが居ないと何も出来ない駄目なお姫様になってしまったのよ…?」


 今なら誰も見ていないし…隙だらけのあなたがいけないのよ…。


心の中でそう言い訳して、わたしは彼の右頬に2度目の口付けをおとす。


 あの日から焦がれ続けて4年…この感情が恋から愛へと変わってしまうには十分過ぎた。


 誰にも渡すものですか。どれだけウルフが魅力的だからって彼の正妻の座は絶対譲らない。

どれだけライバルが邪魔しようとも必ずあなたの1番になって見せる。


 わたし、アリシア・フォン・ベルベット・カルロス・ヴィクトリアの名にかけて必ずあなたの心を射止めて見せる。

 あの時からわたしが欲しいのはずっとウルフ(あなた)だけなのだから…。



「……あ、あわ…あわわわわ…」

「……え…?」


 いない筈の第三者の声につい振り返ったわたしが見たのは、執務室の入り口で、真っ赤に染めた顔を両手で覆い指の隙間からチラチラと此方を伺うハヅキの姿だった……えっ……待って、あなたいたの?一部始終見てたのあなた!?


「あぅ!?えーと、わ、忘れ物取りに戻ったら、アリシアさんと班長がそのえーと……やっ野暮でしたねすいませんでしたごゆっくり〜!」

「待ってハヅキ!?その、今のは勢いでつい!!」 


 わたしの想いもこの日常も、両方ずっと守れたらって……そんなわがままなお姫様の願い…。


 ずっとずっとウルフとみんなで……。


 一人称視点はこれでいいのかと悩みながらも、執筆いたしました。


 一人称視点難しい!もうやりたくねぇなぁ!!

でも何回かやっときたいなぁ!!

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