着替える時は周りの目を気にしろ
これからも週に一度お休みするくらいのペースを目安にのんびり書いていこうと思います
「…いやすまないね…テイムしたダイアウルフを撫で回していたらなんか次々と寄ってきてしまってね…いやーなんと礼を言ったらいいか…」
「…なんか助けようとしたら次々無茶な注文された気がするのだけど気のせいかしら…?」
ウルフとアリシアは、犬団子状態になっていた女性を助けようとしたものの、発砲して追っ払おうとしたら、
「あ、撃つのはやめてくれ。あまり驚かせたくないんだ」と言われたり、馬鹿力でまとめて放り投げようとしても、
「あ、優しく、優しく頼むよ。この子達大人しいから」と頼まれ、結局一匹ずつ抱き上げて地道に引き剥がしていくしかなかったのだった。
ダイアウルフ達は割と素直に引いて行ってくれたが、成人男性とほぼ同じ全長の巨大な魔獣を一匹ずつ引き剥がすのは、流石のアリシア達も疲れたのであった。
「…その件に関しては本当に申し訳ないね。あの子らは私の気配に引き寄せられただけなんだ。」
「…引き寄せられたって……」
「あぁ、その…昔からそう言う体質なんだよ……子供の頃から犬とか、犬族獣人とか、狼みたいな姿の魔獣とかに好かれやすい体質でね…」
「さらっと言ってるけど結構危ない体質なのでは…?」
「本当だねうん…なんでだろうね…」と呟いた女性は、何でも他所の領地から来た冒険者で、たまたま親魔族領のヘカーティアに来る用事があったのだが、予定より早く到着してしてしまい、暇潰しついでに家族へのお土産を探す為に近場のダンジョンでお宝を探すつもりだったのだが、偶然潜ったこのダンジョンがもう宝箱が自然発生しない廃ダンジョンである事を知らずに潜ってしまった為に、あちこちを探しても何も見つからず、不貞腐れて近くにいたダイアウルフの毛繕いをしていたらいつの間にか大量にやってきて気がついたらあんな状況になってしまって脱出する事すら出来なくなって途方に暮れていた。
と言うのが女性の証言だった。
ウルフとアリシアは、女性の不審な所が多い証言に不信感を抱いていたが、あんな光景を見てしまったせいで、女性の証言に特にツッコミを入れたりせず、ただただ女性をダンジョンの出入り口まで付き添っていだ。
実際はツッコミどころが多すぎてギルドまで連れて帰って事情聴取した方が早いとの判断を下しただけだった。
「…所でその…あなた…お名前は?」
「あぁ、自己紹介していなかったね…私とした事が…シャルロットだ。調教師で登録している。…よろしく頼むよ」
「ご丁寧にどうも。…ウルフです…ウルフ・ダイドー……こっちが連れのアリスです」
「…ウルフ?」と怪訝そうな表情をしたシャルロットと名乗った女性は、視線をウルフとアリシアに交互に動かすと「何処かでみた覚えがあるような…」と主にアリシアに対して内心で呟き、まぁ気の所為かと頭の片隅に一旦置いておくことにした。
まさか第二王女が、こんなダンジョンにいるはずもあるまいと。
第二王女が自由に出歩いているのはヘカーティアでは割と周知の事実であるのだが、他所の領地の人間には知られていないので、ウルフは配慮で愛称の方でアリシアを紹介したのだった。
アリシアの方も小さく会釈して「…アリスです」と短く名乗った後特に何も言わずにウルフの隣を歩くのだった。
「……所で何処かで着替えさせていただいてもいいかな?…流石に涎でベトベトになった服で出歩くのはちょっとね…」
そう懇願した女性の服はたしかにダイアウルフの涎でベトベトになっていた。
革製の服は、湿っているせいで彼女の肌にピッタリと張り付いてシャルロットのスレンダーさを強調していたが、同時に涎のせいで異臭も放っていた。
「あ、それでしたら、おれ達はそこの角に行ってくるので…」
「あぁすまないね…助かるよ」
ウルフは振り返ってちょうど体を隠せそうな曲がり角を指差してシャルロットが着替えられる様な場所を提示したのだが、シャルロットは徐に自分のシャツの裾を思いっきり捲り上げて健康的にやけた肌を露出させ…
「…何やってるのよ!?」
「ぐえっ!?」
突然脱ぎ出したシャルロットの奇行に固まっていた二人だったが、先に復活したアリシアがウルフの頭を両手で捕まえて強制的に顔に自分の方へ向かせる事で、突如はじまったストリップショーへの視線を強引に排除する。
尚その際、ウルフの首からグキッと嫌な音が聞こえた。
そんな二人の奇行に、目をぱちくりとさせて上半身だけ下着姿になったシャルロットは、やれやれと頭を振った…。
まるで当たり前の事さとでも言いたげな表情だった。
「何って着替えるからに決まっているだろう?」
「着替えるにしても人目を気にしなさいよ?!此処には男もいるのよ!?」
「別に人に見せられない様な恥ずかしい身体をしていないからな。何も問題あるまい。」
「問題しかないわよ!露出狂か!?」
「露出狂じゃないナルシストだ。……あぁすまないね。そこの彼氏さんが私の裸体に見惚れるかもしれなかったな。そこは申し訳ない」
「倫理観どうなってんのよあなた?!後ウルフはまだ彼氏じゃないから!いずれそうなるけど違うから!」
「…おいその漫才はおれの犠牲の上で成り立っていることを忘れるなよ…?」
その後、ダンジョンを脱出したウルフ達は、シャルロットを適当な服屋に案内して着替えさせたのだった。
道すがらシャルロットの方から、家族の事や、弟を少しでも楽させる為にあちこちを回ってダンジョンから手に入れた魔道具や地域の特産品等を行商人のように売り捌く事を副業として
ウルフは少し首を痛めたが、まぁ些細な事である。
そして今、服を着替えたシャルロットの希望で調和の証明に彼女を彼女を連れて来た所だった。
「……大きなギルドじゃないか…それに冒険者達の民度も悪くないし、職員の態度も丁寧だし、清掃も行き届いている…。此処の支部長はよっぽど良い仕事をする様だ」
「…支部長が聞いたら調子にのりそうね……」
「……シャルロットさんには悪いけど、少し支部長をベタ褒めしすぎなんだよなぁ…」
綺麗に清掃されている受付前のホールを見て、感嘆を隠す事もせずギルドを褒め称えるシャルロットには悪かったが、支部長のロマンの耳に入ると調子に乗るのが容易く想像できたウルフ達は、シャルロットに聞こえないよう小声で此処には居ない支部長の苦言を零した。
褒められると本当に調子に乗るとこらがロマンのタチが悪い所であった。
「…此処でもしばらく活動する事になると思うから、一度支部長さんに御挨拶したいのだけど大丈夫かい?」
「…支部長は今日休みを取っていて一日いないんですよ…」
(おかげさまで、クソみたいな貴族の使いの相手を直接する羽目になったが)と言う悪態はウルフの心の中に留めて置いた。
ロマンが入れば飄々とした態度でそのまま煙に巻いて使者をもっと早く追い返せれたのだから。
こういう時に限っていない支部長にウルフは内心苛立ちを募らせていたが、支部長が胡散臭い割に役に立たないのはいつもの事なので割とあっさり溜飲を下げるのであった。
それは残念と肩をすくめたシャルロットは、仕方ないね。と肩をすくめて一度宿に戻りたいとウルフに進言するが…
「…申し訳ありませんが、ダンジョンから手に入れた魔道具の売買は特別な許可が必要なのでその件について確かめさせていただきたいのですが…」
「……仕方ないね…わかった、一応身分証を持っているからその件については今説明させて貰おうか」
「助かります。今担当職員の元へ案内しますので…」
案内しようとしたウルフは、結局ダンジョンの調査が未完了な事を思い出して、また書類が片付かないと、気が滅入るのだった。
翌日、支部長室に呼び出されたウルフは、ベルナルド侯が惨殺された事をロマンから告げられた。