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ぽんぽこ忍者圧迫面接

 間違って冒頭部分だけ投稿してしまったので、一度消して再投稿しました。


 楽しく読んでいてくださる皆様には、大変なご迷惑をおかけしました。

 私、今日で死ぬかも…。


それがハヅキの胸中を過った一言だった…。


 初顔合わせの場で、いきなり班長を医務室送りにしてしまったのだ。最早ハヅキの中で極刑は免れなかった。


しかも自分のコンプレックスを事故とは言え大人数に見られ、うっかり尻を丸出しにしてしまう醜態を晒してまい、羞恥心でウルフを思いっきり引っ叩いてしまったのだ。


 たとえウルフがどれだけ部下に甘かろうが、彼女にとっては恐らく一生物のしこりとなるだろう。

 そもそも目の前から掛けられている圧のせいで、現在進行形で生きた心地がしなかった。


「…今回この面接の面接官を務めさせてもらうアリシア・フォン・ベルベット・カルロス・ヴィクトリアよ。…ハヅキさんどうぞお掛けになって。」

「(…あ…ダメだ、私死ぬやつだこれ…)あ、はい。よろしくお願いします」

 

 ハヅキからしたら、何故このギルドに出入りしているのか分からないこの国の第二王女(アリシア)が、何故か自分の面接官を務めているのだ。

ハヅキは心労でちょっぴり胃が痛くなってきた。


 男性陣とアネットを追い出し、執務室の応接用のソファーで簡易的な面接室を作ったアリシアは対面のソファーに、ハヅキに座る様に促す。


 先程の溌剌とした態度とは異なり、ビクビクオドオドとした態度から見るに、こちらの小動物然とした方が素の性格なのだろう。


「………それではまず、ウルフをそのプリティーなお尻で誘惑しようとした件について……」

「はい?」

「……ンンッ!ごめんなさい。冗談がすぎたわ…」


 うっかり本題とは関係ない事を問い詰めようとしてしまったが、すぐに咳払いで誤魔化したアリシアは一枚の書類を机の上に広げる。


 それはハヅキがギルドに登録する時に記入した、彼女の身上調査表であった。


「……っ!あのっ!それは!!」

「これはあなたに、このギルドに冒険者として登録する際に記入してもらった身上調査表よ。その証拠にあなたの指印も名前の記入欄に押されてあるわ。……それで、この書類にはあなたの種族は人間だって記入されているけど……」


 そこでアリシアは視線をハヅキの頭頂部に向ける。

ハヅキはこの書類に人間と記入していたが、頭の上で存在感を醸し出す茶色の丸い獣耳はどう見ても狸のものだった。


 申し訳無さそうにぺたんと耳を伏せるハヅキの姿に、アリシアは一瞬母性をくすぐられかけ、今すぐにでもハヅキの頭を撫で回したくなる衝動に駆られかけたが、鋼の精神でなんとか堪えた。


 アリシアは今年で十九歳。まだまだ可愛いものが大好きな年頃の乙女らしい感性を持っていたのだった。…それはそれとして、ウルフへのアタックの仕方は常軌を逸しているが。


 「…ギルドの規定の説明は受けているわね?身上調査表は嘘偽り誇張なく記入する事。…まあこれはギルドに限らず世間一般の常識ではあるんだけどあなたは狸属獣人であるにも関わらず種族を人間と偽った。…特に冒険者や近隣住民の信頼関係を重視するギルドにからしたら、何かやましい事を隠していると疑われても仕方のないことよ」

 

 「理由を教えてくれないかしら?」と締めたアリシアは、ハヅキを見極めるために目を鋭く細めた。


悪意を持って近づいたにしろ、何か隠したかった理由があったにしろ、彼女が書類の情報を偽ったのは事実だった。


 彼女としては、後者であって欲しかった。理由はどうであれ、同じギルドの仲間を断罪するような事をアリシアはしたくなかった。もし何か事情があるのなら、何か一人じゃどうしようも無い事態に巻き込まれて身分を偽ら無いといけない状況に巻き込まれてしまったのなら、アリシアは彼女の力になりたかったのだ。

 感情を優先して行動する事が多いが、誰かの為に手を伸ばすそのお人好しさが、アリシアの危うさでもあり魅力でもあった。


 そんな彼女の真摯な姿を目にして覚悟を決めたのかハヅキも小声ではあるが事情を話す事を決意したのだった。


「……うちの実家に信楽焼って言う狸の置物があるんですよ…」

「………続けて…」


 いきなり実家の話を始めたハヅキの胸中は読み取れなかったが、続きを促した…ひょっとしたら何か紐解く鍵があるかもしれないからだ。


「その置物…大体オスの狸なんですけどある部分が特に強調されているんです…」

「…ある部分?」

「…………です……」

「えっ?」


 ハヅキは羞恥心で顔を真っ赤に染めると、机を思いっきり両手で叩いて、叫んだ。目から零れ落ちる涙がどうでも良くなるくらいにはやけくそ気味になっていた。


「……っ!キン○マがっ!強調されているんですっ!!その置物!!」

「…え、ええ?」

「金運上昇とかでっ!なんかやたらとデカいヤツがぶら下がっているんですっ!!他にもでっぷりとしたお腹とかなんかマヌケ面しているんですよっ!そんな物が玄関前にあるせいで、子供の頃は近所の男の子からキンタ○女とか呼ばれて揶揄われるせいで狸が嫌いになったんですよ!自分の狸族の特徴が嫌でっ!頑張って忍者になってっ!変化の術を覚えて人間に化けて故郷を出てきてから三年くらい誰にも狸族である事を知られずにいれたのに、こんな形でバレるなんて〜〜!!?」


 ハヅキは涙目のまま物凄い剣幕で捲し立て始めた。


あまりの形相にアリシアは困惑していたが、纏めると彼女は狸族である自分にコンプレックスを抱いていて、大事な書類にすら自分の正体を書くことができないくらいには拗らせていたらしい。


 あまりにも彼女が抱いている負の感情(トラウマ)の根深さに流石のアリシアも面接を一旦中断して、ハヅキの隣に座って背中を優しくさすってあげ、涙やら鼻水やらが垂れている彼女にハンカチを差し出すのだった。

「よしよーし。落ちついて、大丈夫よ。ここにはあなたを揶揄うクソガキなんて居ないわ」

「…ぅ…グスっ…っ…ひぐっ」

「ほらほら淑女がそんな顔をしない。ハンカチ貸すから、ホラ鼻かめる?」

「……ずびまぜん…」


 ハヅキを慰めるアリシアは、普段は全く見せない(例外的にウルフのみ)未来の国母として相応しい慈愛の表情を浮かべ、こんな時人たらし(ウルフ)ならなんて言うかと想像した。


同時に、あの普段ちゃらんぽらんして何も考えて無いように見せかけているような振る舞いをする支部長が、ハヅキの正体を知らずにいると言うのもおかしいと疑問に思った。


恐らく、ハヅキの正体を何らかの手段で知っていた支部長は、彼女に良い方向に向かわせるきっかけを作る為にここに放り込んだのでは無いだろうか?例えるならば彼女のカウンセリングをするためとか…。


「(……とりあえず、支部長には後で苦情を言いに行くとして…)…じゃああなたは自分の事が嫌い?」

「………」


 返事は無かったが、少なくとも何かを長考している時点で、何かに触れる事ができたのは間違い無かった。


 今度はこっちが捲し立てる番だ。その抱えているトラウマを少しでも軽くして、彼女の心を救うためにアリシアは一気に切り込んだ。


「…わたしは嫌いじゃ無いわ。小顔で目もぱっちり開いていて、手足もすらっとしているし、腰も細くてスタイルが良いし、髪なんかわたしも羨むくらいにサラサラよ。…そんなあなたに○ンタマ女なんて言う奴の気が知れないわ。」

「……綺麗ですか?…私が?」

「えぇ、綺麗よ。きっとその男はあなたの魅力に気づかなかったのね。可哀想に…」


 アリシアは彼女の長所を讃え、とにかく彼女が抱く狸に対する嫌悪感を一時的にでも和らげようと、言葉を選ぶ。


 きっと今浮かべている優しげな笑みは、普段の残念姫騎士ぶりを見慣れているウルフだとしてもドキッとさせていただろう。そんな表情を、ただハヅキを安心させる為だけに浮かばせていたのだった。


「ハヅキ…あなたは狸じゃない…確かに耳や尻尾に狸の特徴が出ちゃっているけど、あなたは獣じゃないわ、人よ。…もっと自信を持って良いのよ」

「………はい…」


 落ちついたハヅキは涙で赤くなった目元を擦りながら、アリシアの顔を見上げた。


 彼女の憑き物が取れたスッキリとした顔を見たアリシアは、ハヅキが少しだけ自分のコンプレックスに向き合えるようになったのだと安心した。


「……ギルドには種族を偽っていた事をちゃんと説明します。例えそれが原因で資格を剥奪されてもまた一からやり直しますから」

「…その時はわたしも同行するわ。大丈夫よ。絶対悪いようにはさせないから」


 こうして、ハヅキの正体を巡るトラブルは一時的にではあるが終息した。

これから彼女ならきっとやり直す事が出来るだろう…

ありがとうございましたと頭を下げて、ハヅキは退出しようと…


「……これでようやく本題に入れるわね…」

「…ゑ?」


 退出出来なかった。席を立とうとした瞬間に両肩を掴まれて、もう一度座らされた。


(え、本題って何?私が種族を偽っていた話じゃ無いの?後なんか笑顔がこわいし肩掴む力が強くなっているし!?)


 ハヅキは困惑していた。面接が終わったと思ったらなんかまた始まったのだ。後さっきまで慈愛に溢れていたはずのアリシアの笑顔が、獲物を捕らえたライオンの顔にしか見えなかった。


「……聞かせて貰おうじゃない…ウルフをプリティーなお尻ともふもふの尻尾で誘惑しようとした件についてっ!!」

「それさっき貴女が冗談って言ったやつ!?」


 この女がキレイに終わる訳なかった。実際にウルフは尻尾しか見ていなかったのだが、新人が女性であった事と、アリシアもさっきの一部始終の中で彼女のお尻を見てしまった事による刷り込みのせいで、ハヅキをウルフを誘惑する為にやってきた刺客と認識してしまっていたのだった。


 当然ながらハヅキ本人にそんなつもりは毛ほども無い為、アリシアの思い過ごしなのだが、これ以上ライバルを増やしてなる物かと思い詰めてしまった結果、軽く暴走状態に陥ってしまっていたのだった。


「違いますから!お館様…じゃなかった、ウルフさんを誘惑しようとか考えていませんから!?勘違いです!?」

「惚けても無駄よ!こっちは女の忍者は色仕掛けで男を籠絡するって事を知っているんだから!これ以上ライバルを増やしてなるものですか!」

「それ多分間違って伝わっている方の忍者!?私色仕掛けとかしませんから!!むしろ、偵察とか潜伏とか奇襲かける方が得意な方の忍者ですから!」

「安心出来るところが一つもないじゃ無い!?暗殺が得意な事暴露しちゃってるじゃない!…埒があかないわね!こうなったら直接その身体に聞いてやろうじゃ無い!!」

「いやぁぁあぁあ!?誰か助けてぇぇぇえ!!?」

「これかっ!ウルフを誘惑する悪いお尻はこいつかっ!……え、嘘何この弾力。ちょっと気持ち良くなってきたかも…あっ、尻尾モフモフ…」

「ひぃん!?や、やめてくださ…ひゃあん!?…尻尾は…尻尾はらめぇ…!」


 完全に事案の光景だった…もはや面接の名を騙ったただのセクハラだった。

恐らく他所の国のお偉いさんが見てしまったらこの国の民度を心配されかねない絵面だった。

このままでは第二王女から、尻揉み魔へと成り下がる寸前だった。


「何しくさっとんのじゃお前はぁ!」

「ぶっ!?」


 ここで執務室の最後の良心(自称)と名乗るウルフがアリシアの頭に渾身のチョップを叩き込んだ。

医務室で復活したウルフはハヅキがアリシアと二人きりになっている事を知って、いても立っても居られずにここまで走ってきたのだった。

途中までのやり取りを扉の外で聞いて安心して立ち去ろうとするも、アリシアが暴走してしまった為、慌てて乱入したのであった。


「ウルフ!?いつからそこに!?」

「途中からですが!?というか途中までよかったのに、なんで自分で自分の評価を地面に叩きつけるような真似してんだよ!?何がどうなったら後輩にパワハラ働いてんだよ!?みろほら!」


 たんこぶの出来た頭を押さえていたアリシアは、ウルフが指を刺した方に視線を向け、机に手をつけてお尻を突き出していた体勢から解放された勢いで転がってそのまま机の上に乗っかり、体育座りしてののじを描く死んだ魚の様な目をしたハヅキを見たのだった。


「…汚された…たくさん揉みしだかれた…お嫁に行けない体にされた…どうせ私は身体しか取り柄のない女なんだあははは…」

「見ろ可哀想に!新しいトラウマ植え付けられてるだろうが!お前のフォロー全部裏目に出ちゃってるでしょうが!!」

「うっ…」


流石のアリシアも自分が撒いた種とはいえ、これには居た堪れなかった。

途中からハヅキのお尻に夢中になっていた彼女に否があるので何も言い返せなかった。


「あー…その…ごめんなさいハヅキ。元気出して。あなたには他にも良いところがいっぱいあるわ…例えば…」


 机の上のハヅキがビクッと震えて距離を取ったが、めげずになんとか謝罪しようとした。

少ない時間を一緒に過ごして分かった、彼女の良い所を一生懸命探して…。


「その…安産型の良いお尻じゃない!」

「うわぁぁぁぁあん!!!」


 ウルフの生ゴミを見るような蔑む視線がアリシアに突き刺さった。


 アリシアが自分の失敗に気づいて顔を青ざめさせるより早く、顔をポストより真っ赤にしたハヅキが、執務室(二階)の窓を突き破り、ドップラー効果を起こしながら逃げ出してしまった。


 アリシアはぎこちなく首を動かしてウルフに視線だけで助けを求めるが、当のウルフはそんなアリシアと割れた窓を交互に視線をやると、憐れむような視線を向けただけだった。


「…女同士でもセクハラは通用するからな」




 後日、ハヅキからの信頼度の回復と、いつの間にかギルドに広まっていた「セクハラエロ女騎士」という渾名を払拭する為にいつも以上に仕事に打ち込むアリシアが見られるのであった。

 これは酷い…

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