プロローグ この姫様グイグイくる
リハビリで書きました。
異世界物を読みたいけど、転生物とかざまぁに飽きた方は是非読んでください。
「…これはどういうつもりだ…」
「どうもこうも見ての通りよ班長…いえウルフ」
夜も更けたころ、ヴィクトリア王国のある領地に数年前に新設された冒険者ギルド「調和の証明」
その冒険者に凱旋する依頼の調査や裏取り等の仕事を生業とするギルドにとっての重要な部署、それが調査班。
その調査班のそこそこ広い執務室にてただならぬ雰囲気で睨み合っている2人の男女がいた。
ウルフと呼ばれた男は21歳の若さで調査班の班長に就任したエリートだった。
元貴族の冒険者で、字の読み書きと四則計算ができるからという理由だけでそのままギルドの職員になって3年目に、人手不足を理由にこの「調和の証明」の調査班の班長に就任され(押し付けられたともいう)今に至る。
ウルフは班長用の執務机を挟んで、こちらにあるものを突きつけてくる一応は部下である女性の反応を伺う。
彼女は控えめに言って美人だ。
エメラルドを思わせるも気が強そうな凛とした瞳と、整った目鼻立ち。
春の訪れを思わせる桜色の髪をシニヨンにし、日頃の鍛錬で引き締まった身体を見せつける169センチほどの高身長。
生まれ持った美貌も相まってそこら辺を歩くだけで老若男女からの視線を独り占めにすることは容易いだろうが、その女性らしい身体を鉄色の鎧で隠しているその姿から与える印象は、間違いなくお硬い女騎士様である。
彼女の名前は、アリシア・フォン・ベルベット・カルロス・ヴィクトリア
ヴィクトリア姓が示す通り、彼女はこの国の王族だ、この国の第二王女だ。
そんな立場の彼女がなぜウルフの部下なのかはこれはまた複雑な理由があるのだが、それはまた別の機会に話すとしよう。
今ウルフの意識は、部下であり、親友であり、かつての冒険者時代のパートナーだった第二王女殿が突きつけているある物に集中していた。不謹慎な話だが突きつけている物が剣や刃物だった方がまだマシだった。
アリシアの実力から考えたら抵抗すれば間違いなく無傷では済まないだろうが、それでも腕一本を犠牲にして対処できる自信はあるからそっちの方がよっぽどマシだった。
今の彼女が突きつけているものは悪意とか殺意とかそんなモノよりよっぽどタチが悪かった。むしろそれの捌き方を知ってるほどの人生経験をウルフは積んではいないし、何より無下にしづらい。
彼女が机の上に突き出したものは紫色の小さな箱が2つ、ペンが2つに印鑑も2つ、終いには俗に言う婚姻届が1枚…
「お願い!何も聞かないで私と結婚して!」
「無理に決まってんだろこのロイヤル馬鹿」
「ふふっ…あなたならそう言うと思っ…って無理ィ!?」
かつての魔王率いる魔族との戦争から10年後…人々と魔族は戦うのをやめ調和への道を歩み始めた世界
これはとある冒険者ギルドでの日常を描いた物語…
「ええい強情な!こうなったら意地でも籍を入れさせてやるわ!覚悟なさい!」
「こら馬鹿やめろ!人の名前勝手に書くな!印鑑も使うな!そこら辺の書類を荒らすな!」
…やっぱりコメディかもしれない。