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短編小説集 雨千雨

花葬(カソウ) 〜死を覗く写真家は始まりを紡ぐ〜

 人は平等に与えられる時が二つ存在する。

 一つは生を受ける時、もう一つは死ぬ時だ。


 この二つは全く正反対の印象を持つ。生は未来を予感させる美しさ、死は終わりを彷彿とさせる儚さがある。


 しかし死は大抵は予期できない。別れの言葉すら許されず終わりを告げる。


 でも彼らの想いを紡げれば、生きる者に未来を与えることも出来るのだーー



 僕は死を覗く写真家。

 御仏様をレンズに納めれば、その方の最期の想いを写すことができる。


 そして僕の不思議な力を聞いた人が時折り訪ねて来る。大抵は家族との交わせなかった最期の想いを知りたいと言った内容だ。



 今回もまた一人、女性が訪ねて来た。

 喧嘩した恋人が不慮の事故で亡くなり、仲直りできないままのお別れだったようだ。



 写真を撮るのは葬儀の前、ご遺族の方から許可を得て撮影する。


 仏様は端正な顔立ちの落ち着いた雰囲気の男性だった。依頼主も彼の優しさに惹かれたのが垣間見える。



 彼に手を合わせた僕は綺麗な顔を写真に納めていく。

 正面や横顔、少し引いて全身が映るように撮影する。



 次は写真を紙に現像して依頼者に渡す。

 撮ったその日に渡すのもいいが、僕は一日置いて納骨後に渡すと決めている。




「どうです、よく撮れてるでしょう」


 事務所で対面に座った女性に写真を差し出した。そこにはただ眠っているかのような彼の姿が写っていた。



「ありがとう、ございます。それであの、彼はなんと?」


 女性は写真を大事そうに胸に寄せ、遠慮がちに聞いてきた。依頼の本命は写真じゃないから当然だ。



「彼は貴女にこの花を渡してくれと言ってました」


 僕は風鈴草を彼女に手渡す。薄青い風鈴草は今にも鈴の音が鳴りそうに儚く揺れていた。


「この花は誠実な愛を告げると共に一つの後悔を現しています。彼はきっと貴女と仲直りしたかったのでしょうね。お二人が初めて出会ったレストランで」


「どうして、そのことを……」


 伏し目がちにしていた女性は僕が二人の馴れ初めを知っていることに驚く。



 当然です。私は人の想いを撮る写真家ですから。



 彼は死の直前まで女性の身を案じ、激しく後悔していた。もっと早く仲直りしていれば、と。



 その想いが伝わったのか、部屋は鼻を啜る音だけしか響かなかった。


「私達ってバカね。ほんと、バカなんだから……」


 最後に笑った彼女は満足して事務所を後にした。



「これで貴方の依頼は完遂です。報酬は、美しい風鈴草が相応しいですね」



 遠ざかる背中を見る僕の独り言が部屋を巡った。


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