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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
祖国と帰ってきた姫君
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死期


 ナーシャの話は続いた。

 本来ならばソフィアの転移先は、暗黒宮ではなくて魔皇国になっていた。

 けれども、勇者であるキグレが魔法の概念の一部を斬り取ったせいでソフィアは、暗黒宮・迷いの森に飛ばされてしまった。


 ナーシャ自身は暗黒宮がどう言う場所か魔竜国に残ったキグレから話を聞いた。


 ナーシャは、ソフィアの育った環境から生き残れないと思ってしまった。

 贅の限りを許されていたが事実上は幽閉されていたという歪んだ環境で育ったソフィアに襲い来る自然は、精神の崩壊を招きかねない。



「大変だった……けどね、アシュバやズーズン、それにドゥクスが助けてくれたの!」


「あの環境で恵まれていたなんて流石ですね」



 うん! ソフィアは力強く頷いてまた走り出した。

 目指すは、今も暴れているバーニックを止めるために——という時、地面が急速に盛り上がって何かが飛び出してきた。



「ナーシャ!」


「はい!」



 急停止して構えを作る。

 そして地面に落ちたのは根で作られた球体だった。



「ガビーの魔法?」



 ソフィアが構えを解いて緊張感を無くそうとした時、割れた。

 崩れるように出てきた二つの影は、シュンスケとナミルだった。



「ゾフィー閣下!?」



 ナミルが驚いた声を上げるとシュンスケが構えるが、ソフィアの全身鎧を見ると安心していたが、同時に顔色が急速に悪くなる。



「ソフィア! アシュバが、アシュバが危ないんだ!」


「……どうかしたの?」



 アシュバの事で顔を真っ青にして話してくるシュンスケとナミルにソフィアは嫌な気がした。



「変な喋り方の軍人に斬られて……! それで俺は……何も出来なくて」



 懺悔の声だった。

 アシュバが前線基地で犠牲になる手段を選んだ。

 と分かった瞬間にソフィアは、ナーシャの方を向いた。



「ナーシャ、私は」


「行ってくださいソフィア様、私が陛下を止めます」


「うん、ありがとう」



 ソフィアは”全力”で【竜皇気】を発動させて前線基地に飛び立つ。



「あれほど大きくなられたのですね」


「ゾフィー閣下は、ナーシャ様だったのですね……」



 ★★★★★



 肩から血が吹き出した。

 刀で斬り割かれて筋肉が切断され、骨も斬られた。

 刀が胸の部分で止まっているのは、キグレの思惑なのだろうか。



(ここまで、ですか)



 この出血量は、間違いなく死ぬ。


 そう思ってしまうと、ついにこの日が来たのかとも思う。


 今思えばアシュバは幸せ者だった。

 暗黒宮に取り残されていつ死んでも可笑しくない環境でアシュバはソフィアに出会ってしまった。


 あの劣悪な環境でも勇気を振り絞って行動しているソフィアを見ていて、いつの間にか勇気が湧いてきて魔皇国に帰れると思っていた。



 だが、自分の死期を悟った。



「あっぱれじゃったな小悪魔」


「何を……」



 言うか。と言葉すら出てこない。

 力が抜ける。話そうとすると痛みが強くなる気がしたが、それも無くなった。

 もう近いのだと実感してしまう。



「それこそ臣下じゃ。では、死ぬが良い」



 刀の柄を掴まれて力が入る。

 このまま切り下ろされて死ぬのだろうと思った時、声が響いた。



「アシュバ様から離れろ!」



 血に塗られたような拳がキグレに向かった。

 キグレは、向かってくる拳を見て刀を振るう。

 視線以外は何も動かしていないのに拳が来ると分かっていて刀を振るう動作は卓越された技術。

 拳を振るった人物は、苦悶の表情を浮かべながらキグレに突進した。



「根性あるのうオーガ!」



 オーガに吹き飛ばれて壁に激突すると思ったが、壁を切り裂いてから身体を半回転させて受け身を取っていた。


 目の前に立ったオーガを見てアシュバは震えてしまった。

 どうしてこの場に立っているのか、どうして私を助けてくれたのか、アシュバは不思議で仕方ない。



「早く逃げてくださいアシュバ様!」


「貴女はどうするのですか、ポルク!」



 アシュバは立とうとしたが、焼ける痛みと声を無理やり出したせいで意識が眩む。

 だが、賢いからこそポルクが作ってくれた時間を無駄にする訳にはいかないと何度も脳が訴えかける。



「お、俺が時間を作ります! その内に魔王の誰かを!」


「……分かりました。けれども、命令です!

 生きて私の元に戻りなさい!」


「——はい!」



 ポルク、なんと勇敢な女性だったんだろう。


 アシュバは、そう心中に強く思いながら身体を強引に動かして立ち上がった。

 刀が抜けたせいで血が出てくる。


 この出血量からして持ってあと数分の命だろうか。


 色々と頭の中で考えが出てくる。

 どれも死ぬという結論には変わりないが、アシュバはポルクがくれた時間を最大限に使う為に必死に足を動かす。



「誰か……誰か居ませんか!」



 震える声だけが通路に広がる。

 今、前線基地を歩いてみて分かったのが全ての魔皇国軍人が殺されていた。


 アシュバ達が逃げている時にすぐさまキグレが来なかった理由は、アシュバの思惑に嵌った訳ではなかった。


 キグレは純粋に殺戮を楽しんでいた。


 人間族らしい弱者を叩くと言う考えに吐き気を覚える。

 しかし、今は怒りよりも前線基地が襲われているという事実を全軍に伝えなければいけない。


 それこそ魔皇国に伝えて要請しないと魔族が滅ぼされてしまう。



「誰か……」



 アシュバの声が無意味に響く。

 虚無の中に聞こえる声と今にも死にそうな足音。



「……あった」



 痛みが完全に無くなった。

 視界は、血が片目に入ったのか見えづらい。

 切り裂かれた胴体から骨が見え、血が止まらない。


 だけども、何とか辿りつけた。

 魔族の生命力が無ければ辿り着けれなかった場所にどうにか辿り着けた。



 魔皇国に繋がる作戦室。

 どうにか無事だった魔法具を起動させてアシュバは、残りの力を振り絞って声に出す。



「司令……本部、応答……せよ」

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