肉の竜
「どうして……だって」
——殺された。
ソフィアは、そう言おうとしたが目の前に立っているナーシャの姿を見て止まる。
「確かに殺されかけました——けれども、私は姫様の方が亡くなったと……」
ナーシャがソフィアを優しく抱きしめてきた。
その瞬間、ソフィアは【竜装】を解除する。
華やかなドレスが風に誘われるように動くと、ナーシャの匂いがしてきた。
あの日からずっと後悔していた。
どうして助けられなかったのか何度も考えた。
だけども、現実は変わらない。
そんな都合の良いことなんて一つも存在しない。
そう何度も考えた。
「わあ”あ”あ”本当にナーシャだ……っ! ナーシャが生きてだ!」
涙が溢れ出してくる。
嬉しさが大半。少しだけの後悔もあるが、ここまで嬉しい事は起きない。
だって二人とも生きて——。
「私も嬉しいです。陛下と同じでソフィア様も……」
言い方にソフィアは、感動の中に少しばかりの違和感を覚える。
陛下と同じ。
ソフィアは生きていないとも思える裏返しの言葉にソフィアは、固まった。
聞いてはいけない。
聞いちゃダメだ。
聞いては後戻り出来ない。
思ってしまったが、度重なる戦いの中からここが一番の要になるかもしれない。
ソフィアは、自分自身の直感を信じて震えながらも声を出した。
「パパは……どうしたの」
「陛下は……死後、肉体をブティというチキュウ人に操られています……」
言葉を聞いてソフィアの中に圧倒的な殺意が生み出されていく。
だが、ここで使命を忘れてはいけない。
ミサキという謎の将軍を——と思った時にソフィアは感じてしまった。
「もしかしてパパが向かったのは!」
「前線です! お話は移動しながらしますソフィア様!」
ソフィアは、感動をする暇もほとんど与えられず、戦場に戻っていった。
★★★★★
戦場に二つの影が落ちた。
一つは、あまりにも巨大な獣。
毛がうねりを上げていて恐怖を煽り、響く獣声に全ての竜人が根底的な恐怖を浴びる。
発狂してしまいそうな恐れの中、もう一つの影が起き上がった。
その影もまた巨大に変貌している。
落ちた瞬間は確かに人型だったのに、今は戦場で埋もれた肉片がうねりを上げながら人型に集まっていき”竜”の形を作り出した。
「陛下だ、バーニック陛下が来たんだ!」
誰かが叫んだ。
その言葉に皆が肉で作られた竜が完全に形を作り出すと立ち上がった。
足が地面に触れると重量感ある音を鳴す。
尻尾から背中にかけて足で作られた背びれが伸びている。
両腕が大きく発達しており、翼も一体となっていた。
完全に肉を取り込んだのかバーニックは大口を開けて吠える。
その邪悪な見た目に竜人は歓喜を上げ、魔猪は恐怖に囚われて逃げ腰になる。
「狼狽エルナ!」
ドゥクスの声が響くと魔猪は鼻息を鳴らして鼓舞していた。
「魔竜国、その全てを守る、それが残された使命、だ」
尻尾がズーズンに向かう。
地面に流れるように通る尻尾は、仲間の竜人を巻き込みながら突き進んでいく。
そこに存在するのは善と悪でも何もなく、ただ単純にズーズンを殺すという殺気のみが優先されていた。
ズーズンの口から黒炎が吹き出した。
燃え続ける黒炎を受けた尻尾は、痛みに反応した動きだけを一瞬見せたが、そのままズーズンを引き倒そうと進んできた。
火力を上げて更に吐き出したズーズンだったが、バーニックの勢いは止まらない。
勢いよくぶつかってズーズンが吹き飛ばされる。
あまりにも強い衝撃がズーズンを襲ったが、何とか持ち堪えて体勢を整えようとした時にバーニックが不気味な肉片で作られた強固な爪を向けてきた。
ズーズンが牙を剥き出しにして向かってきた爪を噛み砕く。
そのまま近距離から黒炎を吐き出すと腕から黒炎が登っていき、体全体を燃やし尽くした。
黒炎によって身体から煙を出し始めたバーニックだったが止まらずズーズンに爪を振り下ろした。
奇怪な動きに跳躍して回避したズーズンは、黒炎の塊を勢いよく発射させた。
バーニックの爪に着弾した黒炎は、えぐり取るように通過して爆発する。
その時、地面から腕、脚、胴体、様々な死体がバーニックに向かって飛んでいく。そして吸収されて元に戻った。
「や、奴は」
「ガルボス殿カ、アレハ、バーニック殿ト言ワレテイタ」
「ブティという将軍の言葉、手応えの無さ——そういう事か!」
ガルボスは、今戦っているズーズンに向けて叫んだ。
「バーニックは、ブティの魔法で動かされている! つまり……どこかにブティが居るはずだ!」
その言葉を聞いてもズーズンの戦う速度は変わらない。
それよりも反応したのはドゥクスだった。
「ナント! デハ、本体ヲ見ツケナケレバ」
「そうですな。しかし、この荒野に隠れている。しかも、死体を血液に変えるなど不可解な魔法ばかり」
あまりにも見つける条件が難しすぎる。
広大な荒野だけでなく肉体を変えて地下に隠れられたら終わりだ。
そもそも戦場にいるのかも分からない状況でどう攻撃に転じればいいのか分からない。
「一つだけ分かっている事がある。
それはブティの作り出した身体は一度壊されると再生できない」
「ソウカ、ナラバ一網打尽ニスル方法ヲ見ツケナケネバ」
この広大な荒野を一網打尽にするのかと考えが巡るが違う。
魔竜国全土を範囲内にしなければいけない。
そうしなければあのバーニックを止めることが出来ないという事実が浮き彫りになった。




