亡くなった二人
「何が目的で魔竜国に来た!」
殴りつけた衝撃で城が崩壊する。
生まれ育った城が崩れていく中でソフィアは、その言葉を聞いて激情してしまいそうになるが堪えた。
まだ壊れたのは門と手前の建物程度——と思って見た時、ナーシャが殺された場面が脳裏に過る。
ナーシャが血を流した場所であの将軍と名乗っている奴が立ち上がって怒鳴ってくる。
その行動も腹が立つ。
せめてズーズンがミサキを見つけるまでソフィアは、情を捨てて行動に徹する。
もし激情して魔竜国の現状を悪くしても仕方ない。
「貴様が何者であろうと私は止めてみせる。全ては陛下のため、魔竜国の為だ!」
ソフィアの眼前に拳が迫る。
ソフィアは、首を傾けて避けると流れに乗って殴りつける。
吹き飛ばれたゾフィーに向けて走り出したソフィアは、一瞬で到達した。
そのまま地面に叩きつけるとゾフィーから空気が漏れ出す音が聞こえた。
「な、なんだお前は……何故私の【権能】が効かない……何故見えるんだ」
ゾフィーの言葉からソフィアは、何かしらの攻撃をしてきていると思ったが、ただ速い攻撃をしている程度にしか見えない。
それもソフィアにとっては遅い一撃でしかない。
少しくらい速くなった拳など慣れてしまえば赤子の手を捻るよりも簡単だ。
それどころかゴガガや炎竜などの理不尽さが無い敵がソフィアに勝てるはずが無い。
あくまでソフィアは、時間稼ぎのために戦っている。
そう思いながらソフィアは、向かってくる蹴りを片手で受け止めて掴み上げ、投げ飛ばした。
ガルボスを圧倒していた【権能】はもう使っているだろうゾフィーにソフィアは思う。
この程度だったならば速く倒しにくれば良かった。
そうすれば
その思いを胸に抱いた時、ゾフィーが立ち上がる。
「……これで終わらせる」
ゾフィーのしゃがれ声に熱が入り込む。
次の一撃が、ソフィアを殺すために放つ最大の一撃になる。
まだズーズンが戻ってこない。
そしてどれだけの【絶技】を持ち出してもソフィアを倒す事は出来ない。
二つの確信からソフィアは、受け止める覚悟を持つ。
「【竜奥義・竜装転舞】」
深く腰を落としたゾフィー。
その構えにソフィアは、ふと感じるモノがあるが相手の行動がどう変わるのか注視する。
すぐさまソフィアの目の前に移動してきていたゾフィーの俊敏さを見てソフィアは、突発的に思う。
(さっきよりも速い!)
格段に速度が上がった動きに防御の姿勢を取るとソフィアの腕に拳がぶつかる。
凄まじい衝撃がソフィアを揺らしたと思った瞬間、回し蹴りが首元に来ていた。
揺らされた勢いに任せて上半身を大きく逸らして躱す。
その瞬間にゾフィーも流れに乗って前蹴りがソフィアを貫こうと向かってきていた。
上半身をそのまま動かして宙返りした。
ソフィアの視線が動き、ゾフィーを捉えた時、拳が眼前に迫って来ている。
片手で拳をいなすと次から次へと拳が向かって来た。
これまでに無いほどの連続攻撃。
一発が重たく鋭利な攻撃にソフィアは思う。
まだまだ技の練度が上がり出した。
ソフィアの予想は的中して連撃の速度が上がっていく。
拳の乱打、蹴りの連続、はたまた裏拳や肘など、身体で攻撃できる全てが武器になっている。
なのに必死さを感じされる攻撃ではない。
一撃一撃が繊細でありながらも破壊力を持っていた。
例え人間よりも遥かに強い竜人だとしても【竜装転舞】の洗練された一撃を喰らえば瞬時に弾け飛んで死んでしまうだろう。
しかも、攻撃の速度が絶妙に調整されているせいで避けづらい。
素早い拳の乱打の中を躱していると突然遅めの掌底が眼前に来ている。
戦闘慣れしていてもこの肉弾戦は、従来の速度を大幅に超えているせいで、予想外の攻撃が向かってくると強ばってしまう。
だが、ソフィアが戦闘してきた場所は、空を覆い尽くす枝が縦横無尽に攻撃を仕掛けてくる場所。
この程度は、問題にならなかった。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ! どうしてお前には攻撃が届かない!」
乱打の中でゾフィーが腰を大きく捻り、ソフィアを殴りつける。
今までにない程の勢いがある拳は、ソフィアが本気で放った時に似ている。
自分の周りにある空気を巻き込んで暴風として相手を圧迫し、身体をズダズダに引き裂く一撃なのだが——ソフィアにとっては児戯に等しい。
大きな一撃である拳がソフィアにぶつかる瞬間、下から身体を入れて上へ弾いた。
ゾフィーが大きく揺らぐとソフィアは、構えを作り出して撃ち込む。
【竜皇拳・竜突き】よりは大雑把だが、確実にゾフィーを戦闘不能に出来る一撃を持っている。
圧倒的な殺意を持ってソフィアは、この奥義を粉砕する。
そう想いを込めて拳に力を入れた瞬間、声が響いた。
「ヴオォ!」
ズーズンの声と共に壁を粉砕して二つの影が飛び込んできた。
一つの影は間違いなく魔狼王となったズーズン。
そしてもう一つの影を見てソフィアは、止まった。
「陛下が……」
ゾフィーの言葉を聞いてソフィアの思考回路は、一瞬で持って行かれた。
もう会えないと思っていた。
殺されたと思っていた。
偽物だと信じたいのに、動く姿を見てしまうと本物としか思えない。
「……パパっ」
ソフィアから声が漏れた。
会いたくても会えない大切な存在が目の前に来た。
「パパ! 私よ、ソフィア!」
ソフィアはゾフィーを無視して影に向かおうとした瞬間、ゾフィーが腕を掴んできた。
「離して! 貴方と戦う意味はないの!」
ソフィアが”本気”で腕を振ろうとした時にゾフィーの全身鎧が”メイドドレス”に戻った。
「な、」
ソフィアは、何が起こっているのか分からない。
「ソフィア様……ずっと、ずっとお待ちしてました」
もう一人の大切な存在。
忘れようと思っても忘れらなかった女性がいつも聞いていた美しい声に戻ってソフィアの腕を掴んでいた。
「ナーシャ」
死んだ筈の二人がソフィアの目の前に居た。




