光の杭
身体を貫かれたガビーは、光の杭を見る。
「光の速度で貫かれる痛みが分かりましたか」
ミサキの淡々と言ってくる言葉を噛み締めてしまう。
確かにどんな痛みよりも独特過ぎる衝撃を受けた。
気が付いた時には血を流し、内部が熱く焼けていた。
光の速度に達したから表面が焼けて止血の役割をしてくれていたからまだ致命傷には成らなかったが、今後の魔法次第では如何しようも出来ない。
「確かにとても痛いな」
ガビーにとってそれ以上の感想はない。
光に焼かれた経験など無いが、痛い以外の感想など出てこない。
「こ、怖くは無いのですか」
ミサキの声が震えていた。
戦場に慣れてない声。
その証拠にミサキは、光の杭で心臓を撃ち抜かなかった。
一撃で殺せる筈なのにわざわざ魔法の説明をするのは、余裕がある傲慢な人とは違う異質な感覚。
「何、戯けた事を——貴様、戦場は初めてだな」
ガビーの傷を見た後にミサキは、言葉を返してくる。
「二、二回目です……前の時なら……」
あれだけ痛めつければ降参していた。
そう言いそうな言葉にガビーは笑った。
「戯言だな。戦場なんだぞ、どちらかが死ぬまで争う。それは……今も同じだ!」
ガビーの足元から根が飛び出してミサキを襲う。
しかし、ミサキはガビーが確認できない速度で動き、根を焼き切った。
「無駄です! どれだけ攻撃しようが”光竜”の力には勝てません!」
眼前で止められた軍刀。
軍刀に纏わりついた発光体を見て、ガビーはニヤリと笑った。
「その程度で竜とは!」
地中から根が飛び出してガビーを囲み出す。
すぐさまミサキが切り裂こうとしてくるが、ガビーの堅牢な根を切り裂けない。
明らかに異質になった根に驚きを隠せていない岬に向かって”爪”で殴りつける。
「な、なんですかそれ!」
根で作られた巨大な爪。
人一人分はありそうな大きさにミサキは、又しても驚いていたがガビーは関係なく叩きつける。
二度目の攻撃は余裕で回避していたミサキだが、ガビーの思惑に嵌った。
真後ろからミサキの声が響いてきた。
「我が名は森竜だ。”光竜の使い手”よ、真なる竜種の力を見せてやる」
ミサキの足にいつの間にか生えていた草が絡まっていた。
どうしてそうなったのか、ガビーが名乗りを上げたから困惑しているのか、ガビーには分からない。
けれども、一つだけは分かった。
ここから先はどちらかが死ぬまで戦いが続くと。
★★★★★
ドゥクスは、戦場を見つめていた。
この中には阿鼻叫喚が巡っている。
常に誰かが死に、常に誰かが生きようとしている。
その中には自分も含まれている。
ドゥクスは、そう感じながら一歩前に出た。
「我ガ同志ヨ、竜人ヲ殺スナ。彼ラハ我ラガ王ノ民ダ」
「「ブブギ!」」
魔猪達が怯えている竜人に向かって走る。
苛烈な環境の中で生まれ、育ってきた魔猪にとってはこのくらいの戦場は過酷では無い。
何よりも景色に映る全ての木々が敵でも、元姫でも無いだなんて気楽なものでしか無い。
「捕縛、気絶何デモ良イ。殺スデナイ」
ドゥクスの言葉に魔猪達が声を上げて返事をする。
その圧力に竜人は下がる思いになってしまった。
★★★★★
「いつまで逃げる気じゃ小悪魔」
アシュバ達は、キグレの刃から逃げるように基地内を走っていた。
アシュバがどれだけ走り回って基地内を巡ってもキグレは、壁を切り裂き通ってくる。
何よりも驚きなのは、初めて入る基地内部を理解して行動している。
卓越された地形感覚にアシュバは、逃げながらもシュンスケを見る。
「シュンスケ、ごめんなさい!」
アシュバは走っている中でシュンスケに襲い掛かる。
突然の奇襲に為す術もないシュンスケは、ボロ布で目を隠された。
「何をするんだアシュバ!」
「ナミル、シュンスケを連行します!」
アシュバが引き抜いたナイフにナミルが首を縦に振る。
息子の命を考えれば当たり前だとアシュバは思いながら走り出した。
そのまま走っているとキグレが襲ってくる回数が減った。
さっきまでは道を曲がれば目の前に刀の切筋が走り抜いていたのに、今は見えない。
「今のうちに話しときますね」
アシュバの奇行に怯えていたナミルに走りながら声を掛けた。
「い、命なら私が」
「要りませんよ。ソフィア様の客人なのに手荒な真似をして申し訳ありません。
これは憶測ですが、シュンスケの視界や聴覚をキグレは、魔法か何かを使って感知しています」
アシュバは早口で説明した。
その時間すら惜しいが、戦ってきた仲間では無い二人には説明しないと分かって貰えない。
「それがそうなら耳はどうしたのですか」
「あの時に耳にも綿を詰めました。森竜特性なのでほぼ聞き取れないと思います。それに触覚も考慮して……という訳です」
ナミルがシュンスケの手を繋いで走っているのを見ると、ナミルは納得したのか驚いた顔をしていた。
「流石、ソフィア様の策士ですね」
「いえ、私如きが」
アシュバは謙遜しながらも心中では嬉しかった。
それは自分ではなくソフィアが凄いからこそそう思って貰える。それがただ嬉しくて仕方ない。
「とにかく今は急ぎましょう」
「はい」
「どうなってんだ母さん! アシュバ!」
そのまま走り続けて遂に出口が見えた。
この道を超えれば何とか外に出られる。
そう思った時、出口の淵から人影が見えた。
「よく儂を騙したのう小悪魔」
声を出しながら一つの塊を投げつけてきた。
「殺したんですね」
この基地に居た魔皇国軍人の首を投げてきた。
「なんじゃ、怒らんのか」
「怒ってますよ、ですが、私が怒った所で貴方に勝てるはずが無い」
「……小悪魔、つまらんのう」
目の前に刀が見えた。
キグレが一瞬で詰め寄って刀を振り下ろしていた。
アシュバにはその一撃が自分を殺す一撃だと気がついてしまった。
その証拠にゆっくりと降ろされている様に見える。
死を意識してしまったからこそアシュバは、どうすれば良いのか分かる。
生きるためにする行動は——
「お逃げなさい!」
アシュバは、懐に持っていた木の実をナミルに押し付ける。
すると、木の実が一瞬で芽吹きナミルとシュンスケを生まれた根が包み込んだ。
二人を強引に包み込んだ根は、地中に深く潜り込んでどこかに消えてしまう。
アシュバの胴体に刀が走り、裂いた。




