罪悪感
ソフィアは罪悪感に押し潰されそうになった。
かつて会った事があると話しかけてきた臣下の顔は覚えてなかった。
ソフィアが三歳ほどらしいから覚えていないのも分かる。
そのままお邪魔してしまった後だった。
ナミルの息子、シュンスケが帰ってきた拍子に驚いて皿を割ってしまった。
それだけでなくソフィアは、情報を手に入れる為にシュンスケに魔竜国のお姫様という話も出来なかった。
嘘を積み重ねていく内に耐え切れなくなってソフィアは、予定よりも一日早くナミルの家を出て行った。
その道中、ズーズンの背上でソフィアは声を漏らした。
「ズーズン、私は……」
ソフィアは魔皇国軍前線基地に帰ろうとしている時、ズーズンに弱音を吐いた。
これもズーズンが獣だから、ソフィアのペットだから言葉が分からなくても聞いてくれると思ってしまい、甘えてしまう。
「どうすれば良かったのかな」
魔竜国で生まれたのに何も知らなかった。
あんな市街地があるなんて思わなかったし、時間を教えてくれる文化があると思ってもいなかった。
そんな自分が祖国のためと言って魔皇国軍に入って戦っても良いのだろうか。
何か根本的に間違っているとソフィアは思った。
その時、何か聞こえた。
ソフィアは【竜皇気】を展開させて音がした方を確認すると——ナミルの家だった。
誰かが戦っている音が聞こえた瞬間にナミルが襲われていると判断した。
ソフィアを匿ったからと自ずと理解して、ソフィアはズーズンに言う。
「ズーズン、戻って!」
「ガウ!」
ソフィアの意思を認識したのかズーズンが振り向いた。
ズーズンの形態が素早さ重視の身体付きに変わって速度を急激に上げて走り出した。
来た時間よりも早くナミルの家が見えたのと同時にシュンスケが軍人に殺されそうになっていた。
その一瞬を見たソフィアは【権能】を解放する。
「【竜装!】」
ドレスが赤黒い全身鎧に変わってシュンスケと軍人の間に飛び込んだ。
軍刀が伸びるようにソフィアを襲うが、脅威に感じないソフィアは簡単い弾いた。
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何とかしてシュンスケとナミルを助けたソフィアは、ガビーが作り出した森の中でシュンスケから声を投げ掛けられた。
罪悪感がまたソフィアを押しつぶそうとしてくる。
「黙っていてごめんね、シュンスケ」
ドレスの姿になったソフィアにシュンスケは絶望が張り付いたような顔をしていた。
「ソフィアが姫様だなんて、何がどうなってんだ」
シュンスケは頭を振って何が起こっているのか認識できない様子だった。
「騙してごめんね、でも私に出来るのは……」
ソフィアは魔皇国軍に入っている。そう言っても過言ではない状態で魔竜国の姫という立場もある。
「ソフィア様、お戻りになられて嬉しいです……しかし、何も知らないシュンスケには問題点が多すぎて分からないのでしょう。
どうですか、ソフィア様の基地で話せないでしょうか」
「か、母さん待ってくれよ! それは魔皇国軍の基地だろ! そんな所に行ったらどんな目に合うか!」
「黙りなさいシュンスケ! この方こそ真の王族! それが魔皇国軍だったとしても偽物の魔竜軍よりはマシよ!」
「偽物なんか」
——そうじゃないと言いかけたシュンスケだったが、魔竜軍はシュンスケとナミルを殺そうとした事実がある。
シュンスケの表情が暗くなった。
「分かった、ソフィアに着いて行く」
「……うん、ありがとうシュンスケ」
「母さんの気持ちを汲み取っただけだ。ただそれだけ」
シュンスケの言葉がどうしても弱々しく思ってしまう。
やはり仲間だと思っていた魔族が敵側だと知ったら心底、嫌な気持ちになるのはソフィアにも分かる。
だから、ソフィアはそれ以上は何も言わずそのままズーズンの背上に乗って案内した。
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「ソフィア様、おかえりなさいませ……そしてその方は?」
アシュバの憎しみが籠もった表情をしている。
ように見えるが実際は困惑してるだけ。
だけども、そういった顔だと知らない二人はアジュバを見て一歩下がった。
「この小悪魔はアシュバ。知恵者だけども小悪魔だから弱いよ」
「そ、そソフィア様! 私が知恵者だなんて恐れ多いです!」
身体で否定を表してくるアシュバは少しだけ面白いが二人にとっては恐怖でしかない。
「だ、大丈夫なのですかソフィア様……悪魔だなんて」
「母さんは離れた方がいい……絶対に呪ってくる」
「そんな事はしませんよ! ——ソフィア様の客人である限りですが」
どうしてアシュバはそうやって他の魔族を——とソフィアが考えた時に思った。
この二人は原初に近い竜人族と言っても半魔だという事実が強くある。
だから、アシュバも強気なのかもしれないとソフィアはふと思った。
「こらアシュバ! ナミルさんは私の臣下なんだよ!」
「せ、先輩でしたか! これは失礼しましたナミル様!」
急に手のひらを返したアシュバに二人の緊張が解け始めた。
「こんな小悪魔に俺は怯えて戦って……お、お前は!」
アシュバの隣をすーっと通った精霊王にシュンスケが腰を抜かしていた。
「おや、ソフィア殿の客人ですな。我の名前は——」
「魔王ガルボス……」
「存じてましたか。どこかで殺し合いでもしたか竜人の男」
一気に放たれた殺気の圧を受けてシュンスケは膝を震わせてしまいそうになった時、ソフィアが一喝した。
「どうして皆威圧するの! 私の客人よ!」
「失礼失礼、いつもの癖でして」
ガルボスはそう言うと森の中に消えていった。
ここでどうなるのか不安になっているとシュンスケの顔を見れば分かるが、ソフィアはどうにかして国を守る為に話を聞きたい。
その一心で基地に迎え入れた。




