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私のパパ(魔王)は勇者に討伐されました  作者: 緋谷りん
祖国と帰ってきた姫君
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壊された日常


 目の前で母さんを連れ去られそうになっている。

 なのに、俺は何もしないでただ踏みつけられて屈辱と怒りを腹に滾らせているだけ。


 俺に母さんを助けることは出来ない。


 そんな事で俺を助けてくれた人を守らないで良いのか。



「良いわけないだろ!」



 腕に力を入れて起き上がろうとするが、軍人の力が強くなる。

 あの身体つきから有り得ないくらいの力で踏みつけられていて動けない。


 だから俺は、魔術を起動させた。



「足は風となり、体は羽毛の如く軽くなる——【強化魔術・俊足(ラビットフット)!】」



 俺の足が魔力によって強化される。

 身体が羽毛の様に軽く、石の様に硬くなる不思議な感覚が脚を包み込んだ瞬間、一気に力を出す。



 俺の突発な力に軍人の足が緩和してどうにか抜け出した。

 体制を整えるよりも速く軍刀を叩きつけられる。


 右に身体を捻って軍刀を寸前で躱せたが、頬に切れ傷が走った。



「これは警告です。そのまま投降すれば死刑にはなりません」


「母さんを痛めつけた奴の言うことなんて聞けるか!」



 軍人が軍刀を手にして切りつけて来るのを寸前で躱し続ける。

 だが、足元しか強化されていないからどれも肌を切り裂き、少しずつだが刃が傷を作っていく。


 どうにかして一撃入れたいが殴る隙が無い。


 こんな剣技を持った軍人が隠れていた。

 その事実だけでも驚いてしまう。



「もっと逃げないと死んでしまいますよ」



 更に軍刀の素早さが上がった。

 相手は俺で遊んでいたに違いない。

 まだまだ余裕があるのかニヤリと邪悪な笑みを見せる。



「お前は、何者なんだよ! そんな力があってどうして!」



 怒りの中、俺は疑問が出て来た。

 剣速が上がる度に鋭さが増していく。

 これだけの力があったら前線で指揮をしていて当然のように思えるし、後方勤務をしているとも思えない。


 後方勤務をしている者が俺をじわりじわりと殺そうなどする訳が無い。



「儂が出れば……つまらんじゃろ?」



 その瞬間、恐怖に取り込まれた。

 今までの丁寧な口調ではなくて素を見せて来た時、軍人の殺気が漏れ出て来た。


 たったそれだけなのに俺は魔術の維持が出来なくなり、足を滑られせて転んでしまう。


 すぐさま魔術を起動させようとした時、吹き飛ばれて家を突き抜けた。



「な、なんで」



 何が起こったのか分からないが、呼吸が出来ないほどに胸と腹が痛い。



「この攻撃も避けれないのに刃向かうのですか。もう良いです、死んで下さい」



 腹が痛い。

 骨が痛い。

 肺も痛い。


 何よりもあの軍人が怖い。


 視界が眩む中、軍刀が俺を切り裂くために振るわれた。




「【竜装!】」



 甲高い女性の声が響いた。

 その瞬間、赤黒くも美しい全身鎧——ゾフィー閣下に似た——姿があった。


 軍刀を弾いたその全身鎧は、とても大きく見えた。



「何者ですか」


「……」



 何も語らない全身鎧は、地面を殴りつけた。

 破片が飛び散り、視界が砂煙によって見えなくなると俺を担いだ。



「逃がしません! 【絶技・空切!】」



 その声と同時に全身鎧が片手を振るうと金属音が響く。



「ガウガガガ!」



 獣の声が聞こえて来たと思った瞬間、巨大な狼が立っていた。

 あの狼は間違いなく魔皇国に来ていた狼だろう。


 その巨大さは砂煙の中でも分かるくらい重圧的で恐怖してしまうが、軍人は軍刀を振るっていた。


 巨大狼は俊敏な動きで躱し続けて全身鎧の横に来る。

 来た瞬間、全身鎧が巨大狼に飛び乗ると走り出す。



「ま、待ってくれ母さんがあの中に居るんだ! 待ってくれ!」


「……」



 万力で押さえ込まれているみたいで俺の体が動かない。

 この全身鎧が——いや、魔皇国軍が俺を助けた意味が分からない。


 何がどうして……俺じゃなくて母さんを助けてくれれば良かったのに。



 気が付いた時には深い森の中に連れて来られていた。

 この森は、前線に生まれた魔皇国軍が創り出した物だとすぐに分かってしまう。


 丁寧に地面に降ろされた俺は、開口一番に叫んだ。



「どうして俺を助けたんだ! 俺は敵だぞ!」


「……」


「助けてくれなんて誰が言った! 何がしたいんだよお前たちは!」



 俺の言葉に全身鎧は答えない。

 その隣にいる巨大狼すら唸ったり吠えたりもしない。


 何が狙いか分からず恐怖が心を支配しようとしてくる。

 もしかしたら非人道的な実験に使われるのかもしれない。

 悪い考えが次々と出てくる時、声が響いた。



「なんて口の利き方をするのお前は!」



 その声は、先ほどまで願っていた声だった。

 巨大狼の毛から顔を出して来た母さんが俺を怒鳴りつける。



「な、なんで母さんを……」



 ——助けたんだと言いかけた時、【権能】が解かれた。

 俺は現状に置いていかれた。

 何が起こっているのか分からない。



「どうして」



 俺の心中から感情が漏れ出てしまう。



「どうしてソフィアが魔皇国軍に……」



 気を許した相手が敵国の人間だった。

 しかも、情けをかけて俺と母さんを助けてくれた。



「なんで俺を見殺しにしなかったんだ! お前たちは沢山、仲間たちを……母さん?」



 俺の目の前に母さんが立った。

 母さんの表情はどうしてそんな顔をしているの解らない程に苦悩している。


 緊迫した空気の中で母さんが声を出した。



「この方はソフィア・メルクク・ドルドレイド殿下。魔竜国ドルドレイド第一王女よ」


「え、そんなまさか」



 俺は母さんの声を信じられなかった。

 だが、声と同時に跪いた母さんの姿を見て信じるしか無かった。



「黙っていてごめんねシュンスケ」



 その声に俺は……。

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