潜入開始
ゾフィー閣下が魔王の一角を討伐してから一日が経過した。
あれから魔皇国軍は攻めてこない。そのおかげもあって前線が大きく変わった。
と思われたが、ある一線から立ち寄れない。
「こんなところに森なんて無かったぞ、どうなってんだ!」
ある兵士が叫ぶように文句を言った。
そして怒りに任せて木を蹴りつけると——枝が攻撃してきた。
木が意思を持っているかのように攻撃をしてくる。
何人もの兵士が枝に攻撃されてわかった事があった。
こちらが攻撃しないと向こうもしてこない。けれども、森に入ると知らないうちにここに戻ってきている。
俺も森の中に入って確かめると同じような結果になった。
試しに木を殴ってみると同じ威力で反撃された。
森に近づかなければ攻撃もされない。
それならば少しの間は、作戦を立てて魔皇国をどう討ち滅ぼそうかという期間が生まれた。
「今日から三日間の帰省を許す」
上官の命令によって俺は帰省を許された。
期間はとても短いが、魔術を使って帰れば半日もしないで家に戻れる。
という訳で俺は走っている。
少ない給与で買ったお土産を片手に魔力を限界まで消費させて走り続けた。
もう半日も経過してしまった。
走り続けていたけども、お土産の重さや戦争の疲労が溜まってしまった結果だろう。
「やっと見えた」
丘の上にポツンと建てられている貧相な家。
だけども、暖かさが充分にあって懐かしさがある。
家を見るとここまで安心感が出てくるのかと驚いた。
久しぶりに家族に会える。それだけで今までの戦争で感じた残酷な現状を思い出さないで済む。
安らかに思うからこそ懸命に感じてしまった。
「な、なんで匂いがしないんだ」
いつもならあの家から薬草だったり、魔法薬だったり、様々な魔法に関する匂いがしてくるのに、今は何も感じない。
もしかしたら……嫌な予感がしてきた。
俺は今までに無いくらいの速度で走り出した。
魔法に追われた時よりも槍が飛んだ時よりもどれよりも速く、俊敏に俺は走った。
勢いよく扉を開けると誰もいなかった。
いつも俺が家に戻ってくると嫌そうな言い方をするけどもちゃんと迎え入れてくれる母の姿が無い。
何がどうなってしまったのだろうか。
俺は、全ての事に置いていかれてしまう。
現実から大きく離れていってしまう気がして死んだ方がマシだと頭を過る。
「お、おい! 母さん居ないのか!」
その時だった。
奥にあるキッチンから皿の割れる音がした。
「誰かいんのか! 母さんをどこにやったんだ!」
キッチンに通じる扉を開けると……涙目になっている金髪の少女が立っていた。
「な、何してんだお前」
細い身体付きだけどもびっくりするくらい可愛い顔に俺は、少しだけ惑わされてしまう。
「あ、え、えーっと」
声も透き通るように可愛らしい。
ここまで綺麗な声を聞いた事がないと思ってしまった。
「あ——ってお前は誰なんだ! ここはリリアの家だぞ!」
「ご、ごめんなさい! お邪魔してます!」
勢いよくペコリとお辞儀してくる姿も愛らしいが——いや、何をいっているんだ。
「お邪魔してますって……もしかして」
俺は嫌な予感は当たっていた。
真後ろには鬼のように激怒した母さんが待っていたのだから。
「シュンスケいい加減にしなさい!」
「いやだって! いつもの匂いがしなかったら不審に思うだろ!」
「お客さんが居るのに研究をするものですか!」
物凄い勢いで怒られてしまった。
よくよく見ると美少女の足元に子犬が座っている。
舌を出して馬鹿面をしている——品種はコーギーだろうか。とても可愛い。
「聞いているのシュンスケ」
「あ、はい、すみません」
俺が怒られていてもコーギーは気にせず舌を出している。なんだその顔は可愛い。
俺を怒り倒した母さんは、美少女の方に手を向けて紹介してくれた。
「この方はソフィアさん、そしてこのちっこいワンコロがズーズンね」
「改めましてよろしくお願いしますシュウスケさん!」
満面の笑みが俺に向かってくる。
この絶世の美少女は、自身の可愛さを自覚しているのだろうか。
「市街地の帰りでたまたま会ってね。話が合うもんだからランチにでもって事さ」
「なるほどな」
俺は、相槌を打つと母さんに近づいて小声で話しかける。
「そんな理由で家に連れ込んでいいのか? それでも元宮廷の魔法研究者なんだろ?」
「宮廷勤めも昔の話じゃない。今は新しい友達を迎え入れただけ」
だから、そこまで気にする必要はない。
そう言われた気がしたから、俺は何も言い返さない。
何よりもここで変に話していてソフィアに変な勘繰りをされるよりマシ。
「それよりもあなたが大声で来たからお皿が割れたじゃない」
「それはそのだな……」
最悪の場合を考えて行動した結果が、これだったから良かった。という考えだったのだが、母は怒り足りなかったらしい。
確かに俺が悪いのは分かっているが少しだけ釈然としない。
そう思っていた時、ソフィアが一歩前に出た。
「わ、私がしっかり持ってなかったからです! シュンスケさんは何も悪くありません!」
「息子が不用意に叫ばなければこの様な事にはなっていませんでした。ソフィアさんの言葉は有難いですが……」
母の視線が俺を貫く。
こんな小さな子に何責任を感じさせてんだという視線がとても痛い。
「母さんの言うとおりです! ソフィアちゃんは何も気にせず……いて! 何すんの母さん!」
「全く初対面なのにちゃん付けとは! 恥晒しもそこまでにしなさい!」
こればかりは俺が悪いと思いながらもソフィアの方を見ると苦笑いを浮かべていた。




