前線会議
ソフィアは、場所を会議室に変えて現状の話を聞いて唖然としていた。
まさか魔竜国が、全ての魔族を裏切る行動を起こすとは思っていなかった。
これは居なかったといえ王族の責任になるとしか思えない。
「わ、私……」
ただ悲しいという感情が湧き上がる。
その悲しさの中には哀愁、呆然、唖然、絶望……そして一つの確信があった。
「パパがそんな事する訳ない」
そこだけは自信があった。
どれだけ過酷な環境になっても恩義を感じている魔皇帝を裏切るのも、国民を駒のように扱うのもあり得ない。
ずっと一緒に居たバーニックがそのような事をしていたとも思えない。
ソフィアの前では別の顔を被っていたとしてもナーシャや近衛兵との関わりを見れば分かる。
当時は世間知らずで気がつかなかった可能性もあるが、記憶を辿ってもそのような光景はない。
「しかし、現に……」
アシュバは俯いたまま現状を話そうとしていたが言い切れてなかった。
「何を言うんだアシュバ!」
ガビーが声を張り上げた。
ソフィアを思っての発言なのだろうが、明らかに怒っているのが伝わる。
「大丈夫だよガビー。ありがとうね」
「ソフィア様……」
ソフィアは立ち上がった。
そしてアシュバ、ガビー、ドゥクスだけでなく、ポルクというオーガにガルボスとその補佐官達に向けて大声で話した。
「今回の戦争は我が国である魔竜国が原因なのは明白ですが……その後ろには人間が操作しているに違いないです」
「何と人間が!」
ガルボスの顔を作っている木が揺れ動く。
どんな表情をしているのだろうか。
「魔竜国は約一ヶ月半前に勇者の襲撃を受けて宮廷まで攻められました。勇者の言葉ではパパ……魔王バーニックは殺されました」
ガビーが下を向いたのが見えた。
色々と思う所が彼女なりにあるのだろう。
「その後、ドワーフ王国アルバのノーム国王によると魔竜国に援軍を要請しましたが、断られたと話してました」
ソフィアの言葉にポルクが手を挙げた。
「えーっと、ポルクさんでしたっけ」
「ポルクで結構ですソフィア様! お、お、わ、私は! オーガ族の族長ですポルクです! ご、ご挨拶が遅れて」
あまりにも吃っていた。
とても酷い有様にソフィアが、落ち着くように言おうとした時、アシュバが発言した。
「挨拶は後にしなさいポルク。用件だけを落ち着いて話しなさい」
「はっ! 率直に申しますとソフィア陛下は、ドワーフ王国アルバと関わりがあったのでしょうか!」
「関わりですか? 魔竜国とドワーフ王国は密接な関係になってますよ。そして私が暗黒宮を出た後はドワーフ王国に居ました」
「わ、私ごときに!」
何を言おうとしたか分かるが、ソフィアが止めるよりも早くアシュバが止めていた。
「魔竜国が要請を断ったと言いましたが、正確には使者はバーニック陛下と会ったらしいです。
残念な事に使者は、亡くなった為に直接話は聞けませんでしたが」
正確な情報ではないが、ノームが教えてくれた一点だけで信用している。
「勇者の言葉は、ソフィア様を恐怖させる為、もしくは混乱させるのが目的だった嘘の可能性がありますね」
「ソウダナ。モシクハ使者ガ人間族ノ間者トイウ可能性モ」
ソフィアはドゥクスの言葉に頷いた。
ノームもドワーフ王国の全てを知っている訳ではない。
長年隠れていた間者が使者になった可能性もある。
「他にもバーニック陛下を騙る者がいるかもしれません。見た目だけならばどのようにも変えられますし、全身鎧になれば姿も分かりません」
ガビーの言葉にもソフィアは頷く。
そして一つの結論に行き着いた。
「つまりどんな手段でも間者に成り済ましたり、陛下自身にもなれたりします。
人間族は多様な力で情報を隠蔽してます。なので、すぐさま一つの結論に絞るのは不可能です」
すなわち、アシュバはバーニック陛下の安否、及び正体を判明できないと話した。
ソフィアにとってアシュバがそのような結論に至った時点で自分自身で解明する自信がない。
何よりも暗黒宮は、アシュバの考えが無ければ解決できない場面もあった。
「ですが、我らにはソフィア様が居ます!
ソフィア様は、誰も気が付かない小さな発見から作戦を立案していただけます!」
「「おお!」」
皆の期待が困った輝きを放つ瞳がソフィアを射抜く。
これまで受けてきた攻撃のどれよりもソフィアの心を仕留めようとしてくる。
もしかしたらアシュバは下克上を狙っているのかも……と考えた時、ふと思った。
「ねえ、魔竜国の閣下って誰なの?」
「そ、ソフィア様も知らないのですか!」
皆が驚いていた。
ソフィアは、閣下という魔竜軍の詳細を知らないから単純に聞いただけだった。
「そうですか……閣下というよりも権限を持った将軍は、ソフィア様が居なくなってから出来た訳ですね……それならば人間か、別の組織が関与しているのは明白です」
「ならば閣下とかいう奴を捕まえて尋問でもするか」
ガビーの言葉にアシュバはため息を吐いた。
「閣下は、ガルボス殿を倒す寸前まで行った強者ですよ。そんな相手を意識を残したまま捕まえて尋問をするだなんて不可能ですよ」
「じゃあ潜入かな」
ソフィアは、話を聞いていてボソリと言葉を溢した。
「潜入と言ってもこの場にいる者は人外です。
竜人族は人間に似ていて……ま、まさかソフィア様!」
ソフィアが呆然としているとアシュバが続きを叫ぶように言った。
「御身で潜入をしようと言うのですか! いけませんそんな事!」
何故かソフィアが魔竜国に潜入する事になり始めた。確かに言われてみれば、ガビーは身体の一部が木になっているし、アシュバは見た目が邪悪すぎて不可能だろう。
精霊王も見た目から論外であるし、ドゥクスも無理なのが目に見えている。
そうなれば情報を手にするにはソフィアしか居ない。
「キャンキャン!」
床で寝ていたズーズンが叫んだ。
子犬だから可愛らしい声なのだが、ガビーが感激しているのが見えた。
「付いて行くから護衛は任せろって言うのですか——確かに子犬ならば抱えていてもおかしくありませんし……旧魔王だとしても実力は申し分ありません」
そしてソフィアは、次々と発展して行く会話に置いていかれて——。
「そ、ソフィア様、何か御座いましたらすぐに逃げてきて下さいね……」
「うん……」
ソフィアの魔竜国潜入が決まった。




