魔王ガルボス
「有り難い、名を知らない御仁」
助けた木、風、火、水、土を織り交ぜたような物体がお礼を言ってくる。
身体に風穴が開いているが何も気にしていない様子が少しだけ不気味だ。
ソフィアは、どんな状況か分からなかったが一方的に攻められている織り交ざったよく分からない奴を助けた。
言わば直感に身を任せたのだ。
「いえいえ!」
「ウォン!」
「助けて頂き、誠に感謝する。我が名はガルボス——魔王の一角である精霊王ガルボスだ」
ソフィアは、聞いた事あるような無いような名前に困惑する。
すると、二人に乗られているズーズンが姿を変えた。
「ぉおおお! その姿は魔狼王殿か! 良くぞ生きて戻ってきた!」
「ウォンウォン!」
「ズーズンの知り合いなら助けて良かったです! 私はソフィアと言います!」
ソフィアは思った言葉を真っ直ぐに伝える。
ガルボスも喜んでいるのか分からないが手になっている水がビチャビチャと動いていた。
「良かった良かった! これでアハバ様も喜びに成られる!」
「……ガウ!」
「何を怒ってらっしゃるのだ魔狼王殿……あ、そういうことか!」
ガルボスがズーズンから飛び降りると目の前に立った。
そして深いお辞儀をしてからソフィアに目だろう凹みを向ける。
「魔皇国軍にご案内致しますソフィア殿! 此度の働き、魔族の中でも中尉にはなれますぞ!」
「グルぅぅううう!」
「な、なんだ、これでは許してくれぬか」
ズーズンが何に怒っているのか分からない。旧友と会えたのだからそれだけで良いと思うのに。
「こら、案内してくれるって言うんだから怒らないの」
「クゥン……」
ソフィアのお叱りを受けて尻尾を下げたズーズンにガルボスが驚いていた。
「あ、あの孤高な魔狼王を手懐けるとは、ソフィア殿は魔王クラスですな! グハハハ!」
「フン!」
「お、やっと機嫌を治して下さいましたか」
ソフィアを同格に思って欲しかったズーズン。だからこそ、ソフィアを何かと下に見ようとしていたガルボスに怒ったらしい。
主人を思って声を荒らげるとは良い犬だ。
「ありがとうねズーズン、私を思ってくれていたんだね」
「ヌンヌ!」
少しだけイジけているが、尻尾を振っている。
そこに愛らしさを感じさせる。
「では、魔皇国軍の前線基地はもう少し先になりますぞ! 先に行きますのでそのまま突き進み下さり!」
「分かりましたー!」
地面に溶けて消えたガルボスを追うようにズーズンは地面の匂いを嗅ぐ。
充分に匂いを嗅ぐと急速に走り出した。
ズーズンの速度で走り抜ける事、十分足らずで巨大な建造物が見えた。
真っ黒に染まった鉄門に尖った壁が建造物を囲むように出来ている。
「大きい!」
どんどんと近付いてくる壁。
ズーズンは止まる気配が無くてソフィアは、慌て出した。
「ちょ、ちょっとズーズン!」
「ウォオオオオ!」
遠吠えと共にズーズンは跳び上がる。
凄まじい脚力でありながらソフィアに伝わる衝撃は最小限。
そのまま風に乗るように壁を超える。
まさか門から入らず、壁を超えて入るとは思っていなかったソフィアは、驚いて仕方ない。
綺麗に着地したズーズンの周りに様々な種族が武器を持ってやってきた。
「な、何者だ貴様!」「ここが何か分かっているのか!」「死にたくなければ理由を話せ!」
様々な声が響く中、ズーズンが睨みを利かすと囲んでいた者達が下がってしまった。
「下ガレ、皆ヨ」
腹に響く低音が聞こえてきた。
この声をソフィアはハッキリ覚えている。
「ドゥクス!」
「オ待チシテオリマシタ。我ガ主」
ドゥクスが前に出ると他の者達は道を譲る。
そしてドゥクスの隣にはガビーとアジュバ、後ろに知らないオーガが立っている。
「お待ちしてましたよソフィア様! ご無事で何よりです!」
「アシュバも元気そうで良かった」
ソフィアがニッコリと笑うとアシュバも笑ってくれた。
笑ってはくれたのだが、顔がしわくちゃで邪悪さが出てくる。そんな顔も懐かしく思う。
「ソ、ソフィア様……」
すると、ガビーが恐る恐る声を掛けてきた。
ガビーと会ったのは崩壊する暗黒宮・迷いの森の中だった。
その元凶とも言えるガビーは、ソフィアに申し訳なさそうな青ざめた顔をしていた。
「ただいま、ガビー!」
けれども、ソフィアは気にしない。
ガビーが無事だったという事実の方が遥かに大切。
何よりもソフィアを傷付けたのはゴガガであってガビーでは無い。
「はいっ! おかえりなさいませソフィア様!」
ガビーは我慢できず涙を流していた。
だから、ソフィアは近づいてそっと抱き寄せる。
ガビーが起こした罪は消せないが、ソフィアは一緒に背負うつもりで抱き締めた。
「これからも一緒に頑張ろうね」
「……は、はい!」
そうしているとドゥクスも泣き出していた。ところでソフィアは気が付いた。
この二人は、よく似ている。
もしかして孫とお爺ちゃんなのかもしれない。
「ねえねえ、ドゥクスとガビーって家族なの?」
「ソウデス……我ガ娘デス」
「えっ、娘?」
娘にしては歳の差が有る気がしてしまう。少しばかりか記憶があやふやになっているソフィアは、ガビーを見た。
「もう百年も前ですが、私は捕らわれた時に肉体の時間が止まったみたいですね」
「へぇー、百年か……ん?」
百年も暗黒宮に閉じ込められたとガビーは確かに言った。
けれども、それだとアシュバが言っていた三年と大きくズレてしまう。
「アシュバ、三年じゃなかったの」
ソフィアは、アシュバの方を向くと下を向いていた。
そして膝を地面に叩きつけるようにして頭を下げた。
「申し訳ありませんソフィア様! このアシュバ、嘘を吐いてしまいました!」
つまりアシュバ達は百年間、森に閉じ込められていた。
遅れて知った新事実にソフィアは、様々な感情が入り混ざる。
ソフィアはフラフラとした足取りでアシュバの前に立った。
「この命に変えて謝罪致します! 誠に申し訳ありませんでした!」
アシュバの絶叫に近い謝罪が聞こえてきた時、ソフィアは肩に手を置いた。
「ソ、ソフィア様! わ、私のせいで!」
気が付いた時には涙を流していた。
その理由は明白であったから、自ずと声が零れ落ちる。
「もっと早く助けられなくてごめんね皆……」
「な、何を仰るのですか! 私が嘘を吐いたのがいけません! ソフィア様が気にされる事では……!」
「ううん、アシュバは私に心配を掛けない為の嘘って分かるよ。
ありがとうねアシュバ」
周りの者が驚いた声を漏らしている。
ソフィアは、情けない奴が来たと思われていると感じる。
しかし、最も大切なアシュバ達の信頼や想いを大切にしたい。
「こんな頼りない私だけでも、これからもお願い」
「……もちろんでございます!」「わ、私もですよソフィア様!」「我モ何処マデモ」「キャンキャン!」
子犬になったズーズンがソフィアに身体を寄せてくれる。
それぞれが想いの言葉を掛けてくれてソフィアは、臣下というよりもやっぱり家族だと感じた。




