開戦
あれから半月が経過して開戦になった。
俺は魔竜軍育成訓練校を卒業して歩兵になった。
歩兵は最前線で国の為に敵国の攻撃を受け止めて殺す役目を担っている。
その分、死ぬ可能性は遥かに高いがこればかりは仕方ないと腹を括っている。
魔法が飛び交う。
魔法同士がぶつかり合う。
そして爆発を起こす。
この様な環境に身を置けば嫌でも死を覚悟するしか無い。
この破滅がここで止められないと家族が死んでしまう。ただそれだけを思って攻撃を食い止めるしかない。
「爆裂魔法が来るぞ! 進んで避けろ!」
「「うおおおおお!」」
その声が響いてから一秒後、爆発した。
何人もの竜人が死んだ。しかし、前に進んだ事によって何人もの魔族を殺せた。
この繰り返しをして前線を保つのも任務。
交代するくらいならば自身に爆裂魔法を掛けて敵軍を巻き込んで自死しろ。
そうブディ閣下は言ったらしい。
人を駒としか見ていない発言だが、それしかできないのもまた道理。
もっと力があれば歩兵ではなく後方で死ぬ心配をしなくても済むかもしれないが、そんな贅沢な考えは許されない。
「糞! クソクソクソ!」
罵倒する声が聞こえたと思ったらまた爆発した。
また一人死に、二人死んで、三人がこの世から去った。
それでも戦争は終わらない。
「進め! グズグズするな進み続けろ!」
声が響く度に俺は走り出す。
そして敵の顔が見えると魔法を放つ。
「【火魔法・火球!】」
種族も知らない魔族が炎に焼かれて死んだ。
しかし、その死体を踏み潰す様に魔族は行進を続ける。
圧倒的な戦力差。
確かに一軍隊だけを見れば魔竜軍は優秀だが、魔皇国は魔界の軍を掌握している。
それだけで軍事力に差が生まれてしまっていた。
相手は、数えるのも馬鹿らしくなる人数で前線を埋め尽くそうとしてくる。
それに対してこちらは限られた人数で前線を保っている。
屈強な竜人で無ければ保てないこの状況で更なる伝令が飛び交う。
「火魔法の弾幕を張れ! 決して憎き魔皇国を近づけるな!」
「うをおおおお!」
火球が魔族を焼き払う。
これで少しは前線を守れると思った時、突風が吹いて火球を消しとばしてしまった。
明らかに不自然な風は、魔皇国の一人が発動した魔法だった。
「精霊族魔王を確認しました!」
「司令に伝えろ!」
魔王が前線に現れた。
それだけでこの場は大きく乱れ始める。
「我が民をよくも傷付けてくれたな。死ね【土魔法・自動人形土槍隊】」
土で作られた人形が前線に生まれ落ちる。
その人形は一体一体が槍を持って魔法を恐れずに突貫してくる。
恐怖しない人形が襲ってくるだけで、こちらの軍は恐れて逃げてしまいそうになる。
しかし、逃げてしまっては敵前逃亡として反逆罪で死刑になる。
俺達も死を恐れないと何度も心に言い聞かせて敵に向かって走り出す。
「負けるな! あれは単なる人形だ! 魔法を放って! 懐に入って剣を刺してやれ!」
俺の目の前にも人形が来て槍で殺そうとしてくる。
剣を引き抜いて槍に接触させた瞬間に滑らせて回避する。
剣の勢いだけを残してそのまま切り裂く。
土人形は呆気なく死んでしまったが、まだ数は多い。
次々と土人形が襲ってくる。
目前に迫る槍をどうにかして回避しても投げ飛ばされた槍が迫ってくる。
剣で弾いても次々と槍が飛ばされてくる。
しかも、普通の人が相手ならば投げ飛ばした槍は回収しない限り無いのに、土人形の槍は土で造られた物。
ならば、投げ飛ばしてもまた魔法で補充すれば良い。
魔王はそう考えて実行しているらしく、投げ飛ばされてくる槍は止まない。
敵軍の味方も前線を土人形に頼んで交代している。この時間に敵国は休憩だけでなく、新たな作戦を水面下で動かしているかもしれない。
ただそれだけを連想させて恐怖を与えてきているのかもしれない。
魔王一人で戦場が変わってしまった。
「こ、こんなのどうすれば……」
誰かが嘆いた。
確かにこんな状況で勝てと言う方が無理がある。
その声は波紋の様に広がって仲間の士気を奪い取っていく。もしかしたらこの声も魔王が魔法で流したのかもしれない。
そう考えられるだけ俺はまだ冷静だった。
「爆裂魔法確認! 回避回避!」
冷静だったからこそ声が響いた時に一番に回避できた。
直後、熱が俺のところまで届いた。
土人形も爆発に巻き込まれたのか粉々になって消えている。
更に爆発した。
敵側から飛んでくる魔法は、その全てが爆裂魔法。
土人形の対処をさせているうちに仲間がどんどんと爆発に巻き込まれて死んでいく。
どんどんと飛んでくる砂ホコリに混じった仲間の死体を見て俺は絶望する中で、魔王が新たな土人形を召喚した。
★★★★★
それはあまりにも唐突だった。
暴風が土人形を吹き飛ばして敵軍を蹂躙した。
何が起こったのか分からない俺らは暴風の方向を見る。
すると、暗黒を切り取って貼り付けた全身鎧が立っている。
あの姿は魔竜軍育成訓練校に入った時に一度だけ目にした事がある。
「我と共に進め!」
あんなにも凄まじい一撃を何気なく放てる人物を俺は知らない。
まさに救国の英雄に向けて声を張り上げる。
「ゾフィー閣下万歳!」
俺と同じ様な声がいくつも聞こえてくる。
全てが賞賛する声。
何よりも完全に折れていた心が元に戻った気すらする。
前線に将軍が姿を見せた。
それだけで軍の士気は頂点に達した。




